東京IPOトップインタビュー:(株)モダリス(4883・東マザ)

株式会社モダリス(2020年8月3日上場 /東証マザーズ:4883)

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株式会社モダリスは、医療の最先端分野である遺伝子治療薬の開発で希少疾患に挑む日米に拠点を置くバイオベンチャーだ。「すべての命に、光を」という企業理念を掲げ、筋ジストロフィーなど重篤な症状をきたす神経疾患や筋肉疾患に対する治療法確立に独自の技術を活かす。

創業から上場までわずか4年7ヶ月。バイオベンチャーとしては珍しく、すでに黒字のビジネスモデルを構築していた。現在、アライアンスを組むのは国内の大手製薬企業が中心だが、実際には海外からの引き合いの方が多いという。創薬プラットフォームを構築するコア技術は「切らないCRISPR技術」というもので、遺伝子スイッチのオン/オフ機能をターゲットの細胞に持たせる働きが期待されている。進化を遂げるゲノム編集技術の中でも最先端であることから、優秀なサイエンティストが同社に集まる。

2016年に同社を立ち上げた代表取締役社長の森田晴彦さんは、世界を舞台に戦える数少ないバイオテク経営者の一人として目される。重篤な希少疾患に対する治療薬開発への思いを伺った。


 

モダリス森田氏

↑代表取締役社長 森田晴彦

選ぶ創薬からつくる創薬へ

モダリスの研究拠点は米国マサチューセッツ州ボストン市にある。ライフサイエンスのメッカとされるこの街では、ゲノム編集技術など遺伝子治療の実用化を目指し研究開発をするバイオテク企業や製薬企業が軒を連ねる。

ここに数々のゲノム編集技術が集積する。より精度の高い治療法の研究が進むなか、従来の一般的なゲノム編集治療では、遺伝子配列を切断することでがん化のリスクを高めることもあれば、狙っていない遺伝子を切断してしまうリスクがあることは知られている。遺伝子のエラーを書き換える治療は有用性が高いと考えられる一方で、ゲノム編集をより簡便かつ高速に行える新しい技術のCRISPRでさえも、こうした課題を残す。

これに対し、同社が構築したコア技術は「切らないCRISPR技術」というもので、疾患の原因となる変異が起きている遺伝子の配列を切断したり改変したりする必要がない。正式にはCRISPR-GNDM(Guide Nucleotide-Directed Modulation)技術という。遺伝子スイッチのオン/オフ機能をターゲットの細胞に持たせる働きが期待されている。この方法論で拡張性の高い創薬プラットフォームを完成させ、製薬企業とのアライアンスと自社開発で創薬に取り組む。

これまで、創薬は3万分の1の確率であるとか、1,000ある候補化合物の中で3つ当たれば良しと考えられてきた。ところが、次々と遺伝子治療技術が生まれ、大量につくった中から正解を探す確率論から、疾患の原因となる遺伝子に対してデザイン通りの効果を目指す薬をつくるという“選ぶ創薬からつくる創薬”へのパラダイムシフトが加速しはじめた。ここで、存在感を高めているのがモダリスだ。

1万にも及ぶヒト遺伝子疾患のうち、約7,000が希少疾患と言われる。その約半分を占めると言われる単一の遺伝子に起因する希少疾患に同社はフォーカスを当てている。

ベンチャーの機動力で 「すべての命に、光を」

「昔は技術力ありきで開発方針を考えていました」と森田さん。経営者として技術に対する目利き力には定評がある。その森田さんが希少疾患の治療に向き合うことになったのは、実際に患者さんに会い、毎日の苦しみを目の当たりにしたことがきっかけだったという。

患者数が多い疾患は、大手製薬企業が治療薬や治療法の開発を手がける。翻って希少疾患となると、顧みられない領域は少なくない。「こうした希少疾患に対して、効率よく治療法を生み出していくことが、機動力を強みとするベンチャー企業に求められている。事業として合理性もあります」と理路整然と話す中にも意気込みを覗かせる。

森田さんが「切らないCRISPR」に出会ったのは、2015年の秋に遡る。あるゲノム編集のセミナーに、現在は同社のサイエンティフィック・ファウンダーで、社外取締役の東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻 濡木理教授が登壇することを知った。「ゲノム編集は希少疾患の治療には非常に効率的な技術である」と、かねてより注目していたこともあって、セミナーに参加するよりも直接会って事業化の話を持ちかけた。

技術として機が熟した頃でもあったのか、偶然にも濡木教授も事業化を模索していた。その矢先に、バイオベンチャーの経営者として経験を積んできた森田さんから連絡が舞い込んだことで、「切らないCRISPR」の実用化を目指すチームづくりが始まった。

クリスパーの時代が来る。1つのポジションに100人のサイエンティストが応募

CRISPRは特許が極めて複雑であるため、知的財産戦略に強い竹田英樹さんを社外取締役に、最高技術責任者には山形哲也さん、シリーズBの前には小林直樹さんを最高財務責任者に迎えた。バイオテク業界で実績あるメンバーで経営の地盤を固めた。

「1つのポジションに100人の応募があります」と森田さん。同社が拠点を立ち上げたボストンはライフサイエンスのメッカで優秀な人材が集まる。ゲノム編集という最先端の科学技術の研究開発で経験を積めば、「職にあぶれることはない」と言われるほど人気がある領域だ。森田さんも「CRISPRという技術そのものが新しいため、サイエンティストにしてみれば、誰も踏み入れたことのない世界を自分が拓くかもしれないと、知的好奇心が揺さぶられるのだと思います」と話す。

MODALIS集合

↑ボストンのメンバーと

ボストンの研究チームは、科学技術的に能力の高い人材の中でもチームワークを尊重し、チームとして価値を最大化できる人材を採用する。その結果、知的好奇心が旺盛なサイエンティストが集まり、新しい科学技術に取り組むには絶好のチームをつくることができたという。

モダリスが事業を展開するのは“新しい領域”と一言では片付けられない難解なライフサイエンスの世界だ。最先端の技術開発に取り組む同社が完成させた創薬プラットフォームから、疾患の治療に向けた応用のノウハウに長けた製薬企業とのアライアンスが成立している。一朝一夕で結果が導かれることはない長い道のりではあるが、社会的な医療課題の解決に向かって着実に駒を進める。

「打てる手は全て打て。やり尽くした先に次の一手が見つかる」という恩師の言葉に応え、新しい創薬の世界を切り拓く森田さんと同社に熱い期待が注がれる。

 

(掲載日 2020年8月19日)

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