東京IPO特別コラム:いまさら聞けない!?「アメリカ大統領選の基礎知識」

~語られないものを視る眼~

「アメリカ大統領選の基礎知識」

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 4年に一度のアメリカ大統領選。わかっているようでわかりにくいこの仕組みを、日本の制度と比較しながら簡単に解説します。

1)アメリカの二大政党には「党首」がいない
基本的にアメリカの政党では「党首」がいません。そのため、日本では国会の中の第一党さえ決まれば自動的に第一党党首が首相に就任する間接選挙制(例えば、今年安倍首相が退任しましたが、自民党党首を辞めたので、国民の選挙ではなくあくまで自民党内の選挙によって党首が決まり、自動的に菅氏が首相に就任しました)のところ、アメリカでは国民が直接選挙で大統領を選ぶ直接選挙制となります。一政党の都合で国民の投票なく首相が選出されるより、自国の国家元首を4年毎の選挙で直接選出する方が分かりやすいし、自分たちの首相であるという納得感がより高いかと思います。

少し脱線しますが、党首がいなかったら、誰が党をまとめるのか?という疑問が生まれますが、党の中でもアメリカ政府の役職の中でも高い地位についている人がリーダー(報道では「党指導部」と表現されます)という位置づけになります。では、その高い地位とは、行政府(日本でいえば内閣)では大統領、立法府(日本でいえば国会)では下院議長、院内総務(議長に次ぐ、No.2ポジション)当たりを指します。

立法府の方だけ少々補足説明します。上院(日本でいえば参議院)、下院(日本でいえば衆議院)は2,3年の頻度で議員選挙が行われ、その都度過半数を勝ち取った政党が、下院であれば議長席、上院であれば(多数党)院内総務を獲得します。(上院と下院で獲得可能な役職が異なるのは、副大統領が上院議長を名誉職的に兼任しているため、実質の議長は院内総務)

2020年11月1日現在でいえば、共和党が大統領職と上院の過半数を制しているので、共和党指導部はトランプ大統領とマコーネル上院(多数党)院内総務となります。一方民主党は下院の過半数を制しているので、ペローシ下院議長となります。

なぜこう決まっているかというと、大統領職継承権順なのです。つまり、大統領職が死亡等で空席となった場合、次に大統領となるのが副大統領、その次は下院議長、と定められています。(それ以降は国務長官(日本でいえば外務大臣)を筆頭に省庁の設置された順から大臣クラスが継承)日本にはこうした首相継承権はありませんので、リスク管理の差が垣間見られます。

さて、日本の場合議会の議長職はそれほど目立つ存在ではありませんが、アメリカではかなりの権力を持ちます。例えば、来年以降(新規・再選)大統領は閣僚クラスを始め主要行政府要人を指名し、議会で審議されることになります。また、選挙公約に従って様々な法案を成立させたいという動きが出てきます。そこで、法案を採択するのは議会ですが、議長こそが、(議題に載せない選択肢も含め)どのような採決方法を、どのようなスケジュールで行うか等を決定することができます。つまり、議長が進めたい法案であればなるべく障害なしに早急に進行させていきますし、反対政党が進めたい法案であればできるだけ否決したり、遅らせたりすることが可能です。

こうした権限を持つがゆえに、議会のうち上院・下院どちらか一方でも大統領の所属政党と異なる政党が押さえていると、議長・院内総務は大統領と政治取引ができるだけの力(但し、凌駕できない程度)を持てることになります。大統領は選挙中いくつも公約を掲げているので、法律という形で実現させるためには、議会を通過せねばならず、議会としても大統領が法案署名に反対(拒否権発動)されれば法律として成立しませんので、ある程度双方が妥協せざるをえないのです。(ただ、最近政党間の妥協、政治取引がうまくいかず、予算法案を成立させられずに、会計年度が終了、様々な行政サービス停止に至るシャットダウンが発生していますが。。。)

2)大統領選の道のり
大統領選は立候補(およそ1年前~選挙年2月位まで)→所属政党内勝ち抜き戦(7月位まで)→各党が党大会で正副大統領候補の一本化確定(8月)→TV討論会(3回)→大統領選挙(11月第一火曜日)→受諾・敗北宣言、という1年以上の長い道のりを経ます。大雑把にいえば、前半は各党内での候補者選び、後半は政党間の候補者一騎打ちとなります。

面白いのは、投票の際に候補者以外に投票者の性別、年齢層、等様々なデータを登録することになっています。(日本でいえばNHKの投票所で行う出口調査が近いでしょうか)そうしたデータ集計結果は公表されます。加えて、アメリカは統計大国でもあり、各州、地域における、人口の属性情報(性別、年齢層等)が公表されているので、併せてデータ解析に各候補陣営やメディア等は血道をあげて票読みを行います。

TV討論会も日本ではないものですが、今回はトランプ大統領のルール違反の多さで日本でも注目されました。その昔ケネディ候補のTV映りがよく、大統領選での勝利の一因となったことから、大統領選での盛り上がりの一役を買っています。アメリカのメディアは、各討論中の各候補の発言の真偽を暴露(事実に反したことをよく言う候補がいます)し、政治の監視役たる面目躍如といった感があります。

但し、注意すべき点は、メディアがどの立場(共和党寄りか民主党寄りか)がはっきりしています。例えばNYタイムス、ワシントン・ポスト等は民主党寄りですし、ワシントン・タイムス、FOXニュース等は共和党寄りです。逆に中立系があまりないと考えたほうがよく、情報源はどの政党寄りなのかを意識した方が賢明です。

とはいえ、選挙は水ものというのは、日本でもアメリカでも同じこと。最近ではオクトーバー・サプライズ(候補者のスキャンダルネタを大統領選の直前の10月に暴露して対立候補を不利な状態に陥らせる戦術)が流行っています。前回は10月早々クリントン候補の私用メールの不正利用スキャンダル、トランプ候補のセクハラ発言ビデオが暴露されました。今回は、なかったようですが、あえてサプライズといえばトランプ大統領のコロナ陽性判明、でしょうか。

なお、票のカウントの仕方ですが、各州に選挙人が2名、さらに人口の多さに応じて435人が割り当てられ、選挙人の票でカウントしていきます。分かりにくいのですが、選挙人一人分の票数には達しなかった端数が切り捨てられてしまい、前回のように総投票数ではクリントン候補が優っていたのに、選挙人投票数でトランプ候補が勝つ、「選挙システムに負ける」現象が発生する可能性があります。

3)誰が勝つと日本に有利なのか?
一般論的な話をしますと、共和党の性格は、保守的で、小さい政府、富豪優遇政策を、民主党はリベラルで大きい政府、庶民に利するような政策を標榜します。つまり、共和党は、安全保障以外は民間の活動に口を挟むべきではないと考え、政府規制は望ましくなく、累進課税を緩和して富豪により有利になるような政策を好みます。一方、民主党は、対外的には市場開放を求め、環境規制等政府規制には前向き、富豪にはより厳しく、黒人への不当な逮捕や虐待等には非常に厳しい態度で臨みます。(あくまで共和党との対比ですが)

例えば、共和党のブッシュ(子)、トランプ大統領は富豪優遇税制を採用しましたし、トランプ大統領はさらに、環境規制緩和に動き、企業による国内の石油等の開発を後押しします。一方、民主党のオバマ大統領はオバマケアと言われる国民皆保険制度を実現させ、高額な医療費による貧困層や中間層の貧困化に対し一定の歯止めをかけようとしました。そして、トランプ大統領は即座にオバマケアを抹殺するというわけです。

このように見ていきますと、安保ではアメリカと協力的になれるが貿易面では自国の利益を可能な限り重視という方針の日本政府としては、一般論的に共和党が好まれます。

一方、アメリカ経済の成長という観点から見れば、課題はたくさんあります。例えば日本と比較にならない超格差社会において、中間層が減少し富裕層か貧困層の二極化になりつつあると言われている昨今、喫緊のコロナ対策を含め、中間層・貧困層へ手を差し伸べることにより熱心なのは民主党となります。また、日本と同様老朽化している社会インフラ(高速道路、ダム等)への支援が必要ですが、民主党ならより積極的/共和党ならより消極的になります。移民問題にしても、民主党は受け入れにより積極的/共和党ならより消極的になります。

一方、富裕層や大企業への減税を通じた経済活性化を訴えるのが共和党であるものの、減税による消費や投資拡大という波及効果がどこまで期待できるかは大きなクエスチョンマークになります。但し、政府規制が緩和されることにより成長が期待できる業界(金融業界や前述のエネルギー産業等)、あるいは政府規制が発達途上の新規産業には朗報となり得ます。

最後に:卵は一つのバスケットに入れるなかれ
大統領選、結局どちらが勝つの?と聞かれます。下馬評ならいざ知らず、もし何かしらのアクションを求められる立場におられるならば、どちらかの候補が勝つと決めつけをせず、(多少濃淡はあるにせよ)どちらが勝ってもいい状態を作っておくことが望ましいです。候補に最も大きい影響力のある富豪たちでさえも、金額の差は多少あれ両候補に大口献金して、どちらが勝ってもいいようにしています。彼らより遥か遠くから観察している日本は尚のこと、そうすべきでしょう。

 

 

本コラムの執筆者================================

吉川 由紀枝

ライシャワーセンター アジャンクトフェロー

プロフィール:

慶応義塾大学商学部卒業。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)東京事務所にて通信・放送業界の顧客管理、請求管理等に関するコンサルティングに従事。

2005年米国コロンビア大学国際関係・公共政策大学院にて修士号取得後、ビジティングリサーチアソシエイト、上級研究員をへて2011年1月より現職。

また、2012-14年に沖縄県知事公室地域安全政策課に招聘され、普天間飛行場移転問題、グローバル人材育成政策立案に携わる。