東京IPO特別コラム:「トランプ大統領が11月23日まで敗北を認めなかったわけ」

~語られないものを視る眼~

「トランプ大統領が11月23日まで敗北を認めなかったわけ」

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世の中ではバイデン氏が次期大統領として動いていましたが、正確には11月23日に勝利が確定しました。トランプ陣営の逆転勝利への戦略をみていきます。

今回の選挙でトランプ陣営は5つの州において提訴、うち3州(ミシガン、ペンシルバニア、ネバダ州)で係争中です。また、州によっては両候補の票数が僅差である場合、再集計を行うと定めていますので、今回ジョージア州とウィスコンシン州が再集計を行うこととし、ジョージア州は終了(バイデン氏勝利のまま不動)、ウィスコンシン州は再集計中です。(面白いことに、この州では再集計費用を負けている候補が支払えば行うとの規定があり、200万ドル程度と見積もられていたものが、今回約890万ドルと引き上げられていました。いい商売ですよね。。。)現時点再集計の完了予定日は12月1日です。

さて、これらの州の結果の与える影響が問題となります。大統領選では各州に選挙人が割り当てられており、彼らがどちらの票を投じるかを国民が選挙で決めるということになっております。選挙人を決めるのは州政府ということになっており、その期日は12月8日です。この期日前に判決がでないと、州議会が選挙結果如何に関わらず、選挙人を選定できることになっています。(11月21日現在少なくとも各州1件は法廷で保留中)

その後12月14日に選挙人による投票が行われ、新メンバーによる連邦議会(日本の国会に相当)が1月6日に勝者を確定し、1月20日に新正副大統領就任式を迎えます。

そこで、係争中の3州を見てみると、ネバダ州は知事・上下院とも民主党、ミシガンとペンシルバニア州は知事が民主党、上下院は共和党です。よって、この2州分の36票がトランプ氏に変更になる可能性があります。CNNの計算によれば、現在バイデン氏が306票、トランプ氏が232票ですから、この36票を移動させると、バイデン氏270票対トランプ氏268票となります。

そこで、ウィスコンシン州(10票)の再集計結果が、大きな意味を持ちます。但し、再集計が8日までに完了しないと、係争中の場合と同様州政府が介入することになります。そして、ウィスコンシン州では知事が民主党、上下院は共和党です。

ただ、この3州政府内で意見がまとまらない(このような場合知事が議会へ働きかけるはずで、もめると思います)場合、共和党、民主党を推す選挙人が連邦議会へ行くことになります。副大統領を議長とする連邦議会で同じ州からきた選挙人のうち共和党、民主党のいずれかを無効とする権限を持ちますが、いずれかを無効とするかの意見がまとまらず(今回は議長及び上院が共和党、下院が民主党の状態)、過半数(270票)を制した候補が不明となる場合、下院にて1州1票で大統領を選出することになります。(過半数の26票を制した方が選出)

11月21日現在下院の選挙結果が全て出揃ったわけではないですが、CNNの数値を見る限り、共和党が民主党より多い議席を持っている州は既に26州あります。よって、下院での選挙になればトランプ大統領が勝利するわけで、下院に持っていくことがトランプ陣営の戦略でした。

しかし、トランプ氏の説得にも関わらず、ミシガン州が投票結果に則りバイデン氏に票を投じるという結論に23日に発表しましたので、トランプ大統領もとうとう敗北を認め、移行準備を開始することに合意しました。ミシガン州は16票、ウィスコンシン州が10票を持っているため、例えウィスコンシン州が逆転できても、バイデン氏の獲得票数を覆せないことが確定しました。

少し脱線しますが、過去に選挙における不正疑惑でもめた事例が1876年にあります。その際には流血事件にまで発展し、連邦議会で決着を付けることになり、超党派で(両党議員を含める)特別委員会で検討され、就任式3日前にようやく勝者が決まりました。今回はそこまでいかずに確定できました。

トランプ政権の真の狙いと成果

ただ、民主党系やトランプ大統領のワシントン政治家らしからぬ言動に不快感を抱いていると考えられる米マスコミの多くがバイデン氏の当確を大きく取り上げるのならいざ知らず、冷静にトランプ大統領の選挙訴訟の与えうる影響を検証する動きがあまり見られないことが不思議でした。

確かに様々物議をかもしてきたトランプ大統領ですが、かなり計算づくで行動しているように見ています。

以前トランプ氏を全国的に有名にしたTV番組Apprenticeを観たことがあります。この番組は野心家な若者20名程度を2チームに分け、同じ課題を与え2チームを競わせます。課題の内容は様々ですが、基本的にどちらのチームがよりお金を稼げるか、が問われます。ルールは負けた方のチームの中で誰が敗北の責任者かをトランプ氏同席の下議論させ、トランプ氏が有名なセリフ “You are fired!”を吐いて責任者1名脱落させます。そしてこの課題を最後までクリアした者がトランプ氏の企業グループの1社のトップに就任できることになっています。そこでのトランプ氏の議論は至極真っ当でした。

前回の大統領選挙キャンペーン中、トランプ氏は確かに実現可能に思えなくても一部の有権者に響く発言をいくつも繰り出し、何をしてもおかしくない大統領のイメージを確立しました。これは、政治家のポジションとして最高にフリーハンドの状態を勝ち取ったということでもあります。通常の政治家は選挙公約に縛られ、政敵もその公約実現阻止に全力を傾けます。ですが、何をしても、しなくてもおかしくない大統領を相手にすると、政敵としても戦いにくくなります。例えば、メキシコとの国境の壁を作っていないと民主党や米メディアは口が裂けても批判できません。

自らの政権内の側近や閣僚クラスの度重なる交替、ツイッターでのつぶやき等でメディアを騒がせておく一方、本当にやりたいことはなかなか明かしません。しかし、4年間の動きを見ていると、少なくても外交面でそれなりに成果が見られます。

ブッシュ(子)大統領以降、歴代アメリカ大統領は世界の警察官で有り続けることは不可能であることを明らかに認識してきています。第二次世界大戦直後なら世界のGDPのほとんどを占めていたアメリカですが、今や約1/4程度です。この事実を世界に認識してもらい、他国と分担する道筋を作ることが当面のアメリカ大統領の第一の任務となります。

とはいえ、今までの世界への関与を突然全てやめることはあまりに無責任であり、アメリカ以外の世界もその準備が出来ていません。そもそも今までアメリカが覇権国として軍事力を増強してきたので、アメリカの協力要請にはできるだけ対応する姿勢はあるものの、日本等主要同盟諸国も軍事力を格段に増強してアメリカの負担を減らそうとは考えません。ヨーロッパの大国は既に覇権にかかるコストが非常に高いということを自らの苦い経験から知っています。(この件についてはいずれ別途書きたいと思います)

そこで、世界に今までのアメリカの負担を応分に負担してもらえるようにするにはどうしたらいいでしょう?ブッシュ(子)政権はG7の拡大版としてG20を立ち上げ、地域経済大国を指名し手を差し伸べることでG7各国に期待できた様々な支援をG20諸国にも期待する枠組みを作りました。ですが、アフガニスタン、イラクへの出兵により覇権コストは増加してしまいました。ロシアのグルジア占領についても動かず、さらには政府高官がそれまで公然の秘密であったイスラエルの核保有を暴露しました。

オバマ政権はG20やアフガニスタン、イラク等の遺産を引き継ぎつつ、イランへの敵対視を緩和し、カイロで中東諸国へ友好的なメッセージを語りかけ、ロシアと新しい核軍縮条約を締結し、広島へ訪問し、原爆被害者と対面しました。アフガニスタン、イラクについても可能な限り出兵数を削減していきましたし、新しい覇権コスト増加要因となりそうな火種を回避する方針で、批判覚悟でシリアへの出兵にギリギリまで抵抗しました。ブッシュ政権の負の遺産の整理をしつつ、世界に友好的ムードを醸成することで、覇権コストを削減するための環境を整えようとしたものの、覇権コストの中でも難しい中東問題ではあまり成果を出せませんでした。

対して、トランプ政権は日本やヨーロッパに対し駐在米軍削減を主張し、駐在コスト交渉を行いました。また、娘婿のクシュナー氏をニクソン時代のキッシンジャー氏のように用い、イスラエルとバーレーン、アラブ首長国連邦(UAE)との国交樹立を秘密裏にお膳立てしました。従来の外交ルートでいけば難しかったであろう、中東問題の中核的な部分に切り込みました。アメリカが中東から手を引く場合、周辺に友好国のいないイスラエルの安全をいかに保障するかがアメリカにとって最大の問題となります。イスラエルが周辺国と国交を樹立し友好関係を築く第一歩を踏み出したことは、アメリカが背後にいなくてもイスラエルは周辺諸国と共存できる見込みが生まれたことになります。周辺の小国との国交樹立は地域大国のサウジアラビアとの国交正常化への通過点であり、事実23日にサウジアラビアの皇太子とイスラエルのネタニヤフ首相が会談しました。さらに、アフガニスタンからの出兵数の縮小を選挙後に発表しています。

このように考えると、煙幕をはりつつもトランプ大統領は大胆なまでにストレートに問題解決に動いていると評価しています。

 

 

本コラムの執筆者================================

吉川 由紀枝

ライシャワーセンター アジャンクトフェロー

プロフィール:

慶応義塾大学商学部卒業。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)東京事務所にて通信・放送業界の顧客管理、請求管理等に関するコンサルティングに従事。

2005年米国コロンビア大学国際関係・公共政策大学院にて修士号取得後、ビジティングリサーチアソシエイト、上級研究員をへて2011年1月より現職。

また、2012-14年に沖縄県知事公室地域安全政策課に招聘され、普天間飛行場移転問題、グローバル人材育成政策立案に携わる。