東京IPO特別コラム:「今でしょ!バイデン政権へ外交アジェンダをインプット」

~語られないものを視る眼~

「今でしょ!バイデン政権へ外交アジェンダをインプット」

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2008年終わりから2009年春辺りまで、アメリカの知日派と呼ばれる専門家たちが相次ぎ来日して様々な有識者と面会しました。目的は、来るオバマ政権の4年間で日本が取り上げたいと思う日米間のアジェンダがないかを打診するためでした。ところが、日本側の反応は特になし、むしろアメリカ側はどうしたいのかを聞かれるばかりだったとのことでした。そうした報告を受けた、オバマ政権で対日政策主担当のカート・キャンベル氏(国務次官補)は、以前クリントン政権時代にも1995年沖縄少女暴行事件を契機とした米軍基地整理縮小計画に関わっていた過去がありましたので、その後進んでいない普天間飛行場移設問題を再度日米間のアジェンダに据えたのでした。そしてそれにより鳩山政権が迷走の末倒閣したのはご存知の通りです。

さて、時は巡り、今バイデン新政権立ち上げに向けた準備がなされています。今が2008年終わりに相当するタイミングなのです。バイデン政権が立ち上がって向こう4年間のアジェンダを作り上げてしまってからでは、日本が変えて欲しいといっても遅いのです。そうして、日本政府の対応が後手後手に終始し、悪ければ鳩山氏の二の舞、三の舞になります。

では日本は何を提起したらいいでしょう?

経済の観点から始めるとすれば、アメリカで組もうとしている経済刺激策への食い込みでしょうか。どの分野・州にどのように配分するか、熾烈なバトルが水面下で繰り広げられているでしょうが、必ず社会インフラ、環境にやさしい技術、最先端技術への投資が含まれているでしょう。そこで、例えば新幹線の売り込みもありえるでしょう。(従来反対している航空業界が今弱っているので、見込みが以前よりも高いかもしれません。また、主要都市間を結べば、ほぼ今回の選挙でバイデン氏に投票したブルーステート(民主党の色が青のため、民主党側に投票した州をこう呼びます)が利益に供することになる点も売りになるでしょう)高速道路やダムの老朽化が著しいですから、非破壊検査やバイオテクノロジーを利用した修復等でも売り込める技術があろうかと思います。

さらには、IoTを駆使した未来社会の模索のための共同実験場構築も有り得ると思います。一つには実験が成功すれば日米共同でグローバルスタンダードとして確立させやすいこと、加えてアメリカの州や郡、町レベルでも交渉次第で高い自由度で実験できる可能性があること、がメリットとして考えられます。どうしても日本だけですとグローバルスタンダード確立はハードルが高いようです。(最近でも携帯通信の5Gで日本がグローバルスタンダードを確立できなかった点を悔やんでいますね。)

なお、欲を言えばそうした日米協力で直したり作ったりしたものには、サクラとか日米協力の証となるような名前を冠するといいですね。ちなみに、日本が中国へのODAで学校等を建設する際には頭に「日中友好」と付けるようにしているそうです。これに類した考え方でアメリカの地でも日米共働の花が咲けば良いと思います。

政治面では、例えば米軍基地周辺自治体の希望である日米地位協定の改善を取り上げても良いと思います。東京の政策決定者は静かな日々でしょうが、周辺自治体は騒音や事故・事件に悩まされ、ことあるごとに米軍基地の存在を意識せざるを得ません。何か大事件が起きてから後手対応しかしないのに、米軍基地への新兵器配備や基地拡張といった場面では周辺自治体へ日本の防衛に貢献するのが当たり前と言い、多少補助金を上乗せするだけで理解を得にくいことは、そろそろ気づいてもいいでしょう。周辺自治体は年に何度か外務省や防衛省、アメリカ大使館等へ定期的に陳情に行かれていますが、なしの礫が常態化しています。

改善できることはないか、検討してもいいのではないでしょうか。例えば、沖縄で聞くのは、
日本の大臣が基地視察に来るときには米軍も演習を控えるのに、地元自治体が希望する周辺の幼稚園や学校の入学式、卒業式の日には演習を行い、轟音をまき散らすという苦情です。逆の方が正しいのではないでしょうか。

もう一つ、駐日大使への注文です。褒賞人事であることは重々承知していますが、広報業務経験者を任命してほしいものです。日米専門家たちはことあるごとに日米関係が最も大事な関係とはいいますが、関係者以外での裾野が縮小の一途です。日米財界会議でも特に注目を浴びることはありませんし、外務省主催のJETプログラム(海外の若者を一定期間日本の学校へ英語の先生として派遣)も打ち切りとなり、草の根レベルの交流が先細りしてきています。職業外交官が駐日大使であった時代には全46都道府県(当時は沖縄復帰前)を回ったとききますが、今はそのようなことはないようです。

できるだけ多くの日本人に生身のアメリカ人を触れさせる機会をたくさん持ちたいと思う方に来ていただけると、日米双方にとってよいことだと思います。アメリカは日本にとり戦後一貫して友好関係にありますが、戦略的に仲良くすべき相手と頭で理解していても、ニュースで見るアメリカ人以外知らない状態ですと、いざ普通のアメリカ人にあった時に、体が思うように動きません。

日米関係で取り上げたいアジェンダについて日本の希望を伝えたいという目的で来年2月に首相訪米があるのならいいのですが、単なる記念撮影が目的であるならやめた方がいいでしょう。第二次安倍内閣が立ち上がった早々首相が訪米しましたが、アメリカへの打診なく訪米の希望がいきなり報道されたため、当時国務省職員(日本の外務省職員)は慌てふためきオバマ大統領の予定を押さえざるをえず、かなり不評でした。

少し脱線しますが、サミット会談は戦略的なタイミングを狙った事例を1つ紹介します。オバマ大統領はイスラエルとパレスチナとの和解に向けた仲介しようとしており、イスラエルの東エルサレム地区における家屋建築計画を批判していました。これに対しイスラエルは入植地拡大の既成事実を作りつつパレスチナ側の抵抗を抑えたいわけで、当時のネタニヤフ首相がオバマ大統領との面談で選んだタイミングが、2010年3月24日。この日の2日前こそ、オバマ大統領が選挙キャンペーン中から公約していた国民皆保険制度(いわゆるオバマケア)法案の成否を決定する議会内での投票日でした。当時から成立が危ぶまれていましたから、ネタニヤフ首相としては面目丸つぶれで弱気になっているに違いないであろうオバマ大統領に向かって強硬にイスラエルの計画の正当性をアピールして押し切ろうと考えていたのでしょう。現実にはイスラエルのアテは外れましたが、サミット会談のタイミングはこれほどに戦略的であるべきです。

では、次回首相訪米をするならどのタイミングがいいでしょうか。それはバイデン政権内で対中政策が概ね固まりそうな頃でしょう。それは、アメリカが対中政策を検討すれば、自ずと日本の価値が高いことが実感できるからです。

バイデン氏は長年のワシントン政治を見てきた政治家であり、トランプ大統領のジャイアン的態度とは正反対の、洗練された、スマートな姿勢を打ち出すでしょう。オバマ政権での政府高官を再度任命している流れから、オバマ大統領と同様、アメリカが軍事力とは別に磨いてきた国際基準や規範の強化や拡張が中心となるかと考えられます。ここでいう国際基準や規範とは、ブレトンウッズ体制や国連を始めとした国際機関を始め、人権等の普遍的な価値の尊重や環境保護、貧困削減等に向けて世界単位で行動すべきといった考え方です。

アメリカは別にご立派なお題目を並べたくて言っているわけではありません。こうした基準や規範を構築することによって、自らに都合のよい世界を作ろうとしている努力の一環なのです。都合の良い時に都合の良い規範を持ち出し、特定の相手の動きを封じ、特定の動きをするように促す、大事なツールです。これは大事なポイントなので、以下解説します。

多くの日本はルールや規範は遵守するものと考えるので、東日本大震災直後でもお店で並んで買い物をし、暴動一つ起こさないことで世界を瞠目させます。残念ながらそのような行動や思考は世界では少数派なのです。端的にいえばルールは自分が損しない限り極力守らない、できるだけ出し抜くためにあるものだから、です。自らが参画していないルールは自分に不利なものではないのか?という考えが最初にあります。

何となくルールは万民に公平に作られているというイメージがあるのかもしれませんが、そんなことはありません、国内でも国外でも。例えば、アメリカでは銀行家にして大富豪のJPモルガンが亡くなるまで相続税は成立できませんでした。そして、ブッシュ(子)第一期に実施した富裕層への減税政策により、アメリカで著名な投資家ウォレン・バフェット氏よりも彼の受付嬢の方が高い税金を払う、という笑えないジョークが生まれました。日本でも、江戸時代まで身分制度が明確にありましたが、これは別に庶民が利するものではなく、徳川家中心に武士が一番得するように作られていました。

このように多くの社会ルールは一般的に作る人間が一番得するように意図的に作られます。そこでルールの遵守を求められる不利な立場の庶民の知恵は、遵守することで得にならなければ、できるだけルールを守らない、となります。

国内でのルール制定に関わっている人々が国際関係でも活躍しているわけですから、国際基準や規範がどういう性質のものか、言わずもがなです。一つだけ例を挙げますと、IMF総裁はヨーロッパから、世界銀行総裁はアメリカから、アジア開発銀行総裁は日本から、と選出国が不文律で決まっています。こうした機関が世界のどこの国(政府)に資金を回すかを決める権限を何十年も持ち続けています。

ここでは別に規範の積極的な違反を奨励しているわけではなく、国際基準や規範の強化や拡大の話が出た場合、鵜呑みにせずに誰がどのように得をし、誰がどう損するように意図されているのかを見極めることが大事と指摘したいのです。

例えば、環境保護が大事であるといえば、一見反対しようのない意見のように見えます。しかし、先進国内では環境保護関連法規制があり、未整備の途上国へ工場等を建てることにより環境の輸出をしている状況を踏まえれば、途上国はどう受け止めるでしょう?先進国が好き勝手に環境を汚染し経済発展をしたのに、途上国にはその選択肢を与えないということか?となります。

最後に、世界に広めるコミュニケーション能力もさることながら、このような規範やルールを考案する能力もアメリカの強みの一つと考えます。本来の意図と異なる角度から反駁しにくいロジックを組んできます。

ご納得いかない方のために、一つ以下の問題を考えてみてください。(ワシントンで国際関係の話をするとよく出てくる話です)

「親が二人の小学校の子供にケーキをおやつに与えようとしています。子供達がけんかしないようにケーキを分けるためのルールを考えてください。」

答えは著者の無料メルマガのみ12月21日に公開予定です。(奮ってご購読下さい)
https://www.mag2.com/m/0001693665

 

 

本コラムの執筆者================================

吉川 由紀枝

ライシャワーセンター アジャンクトフェロー

プロフィール:

慶応義塾大学商学部卒業。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)東京事務所にて通信・放送業界の顧客管理、請求管理等に関するコンサルティングに従事。

2005年米国コロンビア大学国際関係・公共政策大学院にて修士号取得後、ビジティングリサーチアソシエイト、上級研究員をへて2011年1月より現職。

また、2012-14年に沖縄県知事公室地域安全政策課に招聘され、普天間飛行場移転問題、グローバル人材育成政策立案に携わる。

 


※当文章は著者の個人的見解であり、所属団体の意見を反映したものではありません。