東京IPOトップインタビュー:HEROZ(株)(4382・マザーズ)

HEROZ株式会社(2018年4月20日上場/東証マザーズ:4382)

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将棋のAIが世界を変える-。2017年に同社エンジニアが開発した将棋AI「Ponanza」(ポナンザ)が、数十年の将棋AI開発史上で初めて名人に勝利したことでその技術力を世間に知らしめた。大手証券会社との業務提携を結ぶなど、その実力でわらしべ長者のごとく着実にAI事業を展開する。狙うAI市場は数兆円規模の産業分野。実践ではなく“実戦で勝利した”AI技術で事業拡大に打って出る。

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↑代表取締役CEO 林 隆弘

「人工知能(AI)革命を起こし、未来を創っていく」という同社の志について「どんな未来が来るのか見てみたくないですか?」と目を輝かせる林さん。小学校1年生から始めた将棋にはまり、そのまま大人になったかのような素朴さと好奇心のままに挑戦する少年ぽさが見え隠れする。自らのトレーニングのため、対局用の将棋のAIと関わるようになり、有段者の多いプログラマらと共に「将棋ウォーズ」を育てた。アマ六段、将棋ウォーズ七段の実力。好きな将棋の名言は「前進できぬ駒はない」。


 将棋の話題が尽きない今日この頃。特に女性の将棋ファンが増えているが、同社はその火付け役と言え
よう。人間を超えたAI技術を開発する気鋭のITベンチャーというと、オフィス空間に遊びごころがあったり、フリーアドレスで好きなところで仕事をしたりといったイメージが湧くのだが、同社はその真逆。整然と並ぶデスクに技術者が肩を並べてプログラミングに励む。

 「静かに見えて、パソコンの画面の向こうでは喧々諤々です」とエンジニアの様子をこう語るのは同社CEOの林さん。リードエンジニアが上場記者会見で「僕らは血へどを吐くような実装をしているんですよね」と「殴りあいながら手を取り合いながら開発を進める」と述べた言葉を引用した日経新聞の記事を喜色満面の笑顔で見せる。

 同社はAI技術に精通するエンジニアを約30名抱える。そのうち7割がAIアルゴリズム開発に携わる。その背景を林さんは「将棋などの頭脳ゲームの知識があることはプログラミングに精通する深い知識に繋がる」と言う。

 AIビジネスの市場は、国内では2015年度に1,500億円、2020年度には約1兆円へと急成長が期待されている。数々のAIベンチャーがしのぎを削るこの領域で、歴史を刻むHEROZの次の一手に各産業界が熱い眼差しを向ける。そんなAI技術者集団を率いる林さんに同社の独創性を紐解いてもらった。

—- 将棋でてっぺんを取ったAI技術を産業界へ
HEROZのフラッグシップはPCやスマホで遊べる『将棋ウォーズ』だ。ユーザー数は約450万人にも及ぶ。
そして何より世間を沸かせたのは名人に対局で勝利した『Ponanza』だろう。その『Ponanza』を生み出した技術を産業向けに展開しようと『HEROZ Kishin』AIを開発した。すでに金融や建設業界への導入が進んでいる。
現在は、建設であれば竹中工務店と構造設計支援、品質管理であればハーツユナイテッドグループとテストの自動化、金融であればマネックス証券と投資パフォーマンスの向上支援、エンターテイメントであれば頭脳ゲームなど幅広く適応している。

「AI技術は産業分野への展開になる。こうした技術会社は世間ではなかなか認知されない」とした上で、「『Ponanza』が将棋とAIの歴史に名を刻んだことはインパクトが大きかった」と振り返る。

—- なぜ、将棋AIは人間を超えたのか?
「昔の将棋AIは“人間を模倣”する技術だったのが、今では法則性すなわち“特徴量の抽出”をする技術に進化した」と持論を示す林さん。「特徴量を導くのは極めて革新的だ」と強調する。要は「プログラミングで人間の思考を言語化する」時代から「ビッグデータから機械学習で判断・意思決定を行う評価関数を生成する」時代へと移り変わったということだ。

 起業前から林さんが将棋AIに関心をもったのは、自身の練習のため。「時間がない中で効率よく棋力を上げたかったから自分より強い相手としか対局したくなかった」と、将棋への情熱と勝利への貪欲なまでのこだわりを隠さない。

 将棋AIは対局で勝つために開発された。膨大な量の棋譜を取り込むだけではなく、法則性を学習するから人間の頭脳を超えられた。逆に人間のデータはノイズにすらなってしまうという。さらに特徴を調べることができるため、教えなくてもルールをAIが導きだせる。こうした“特徴量の抽出”は、将棋に限らずインプットデータを変えれば他分野に応用していくことができる。

 さらに、AI技術については「サーバなどコンピューターの性能をはじめとするマシン環境が向上し、膨大なデータから機械学習が行えるようになったが、各社クオリティに差が残る。同じスペックでもメモリや CPUの中でどうプログラミングするかで差が生まれる。技術者の能力だけではなく、技術力と取引先との規定を守りマシン環境をうまくチューニングするノウハウも求められる」と林さんは指摘する。

—- 営業担当不在だからこその営業力の秘訣とは?
「ひとえに技術力を認めてくださるお客様の口コミのおかげです」と林さん。創業時から面白くて優秀な技術者を集めてきた。実戦で勝てる人材が揃っていることが、将棋AIを他分野に応用する『HEROZ Kishin』の強みの源だという。

 「僕たちが“実践”ではなく“実戦”にこだわるのは、勝負は実戦で勝たないと意味がないと考えているから。競争力とは、コスト面や品質、デリバリーを鑑みると見えてくる。そこで評価される技術者集団でありたい」と気概を見せる。品質管理や構造設計支援など数兆円規模の大きな市場を見極め、他社が参入していない領域を開拓していく構えだ。

 同社は「人工知能(AI) 革命を起こし、未来を創っていく」という志を掲げる。「これまでに実現してきた“未来”のひとつが将棋の民主化だ」と、林さん。かつては将棋の棋譜は、日本将棋連盟に所属するプロ棋士しか持っていなかった。それがプロとアマチュアの棋力向上に圧倒的な差を生み出していた。今は、
将棋AIに棋譜データが蓄積され、プロもAIにも学ぶ時代。「将棋界の情報格差はなくなり、私自身は今ではプロの棋譜は観賞して楽しむ対象へと変わった」と、時代の移り変わりをこう見る。

 観賞の対象になれば観客が増えることを、野球になぞらえ、「野球を観戦するように将棋を楽しむ人が増える」とし、それを「将棋の民主化」と定義づける。こうして閉ざされた世界を開いていくことに、同社が提供するサービスの価値があるのだろう。

「“AIが未来を創る”とは、あらゆることの民主化を実現することにもつながる可能性がある。そういう世界を拓き、新たな市場を生み出して、社会に価値を還元していく。独自性と独創性をもって一点の曇りもなく邁進していきたい」と取材を締めくくった。