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Tokyo IPO
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「コーポレートガバナンスはベンチャー企業に必要か?」
東京IPO編集長 西堀敬

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ソニーが欧米型のコーポレートガバナンス制度の導入を発表した。不透明な経営で外人投資家から不評を買っていた日本の企業統治が、商法改正によって、大きな転機を迎えようとしているのは間違いない事実である。

では、なぜこのようなコーポレートガバナンスの導入が必要なのか? 米国の昨今の状況をみると、一部のCEOと呼ばれる最高経営責任者の暴走が目につく。皆さんご存知のエンロンやワールドコムなどは、まさに、その典型的な例である。日本では株主に経営を委託されているのが取締役であるが、米国の場合は、取締役会が経営を執行する人々を選任する。それらが、CEO、COO、CFO、CTO・・・という経営執行人である。経営執行人には、現金報酬以外にストックオプション制度のもと、株式で報酬が支払われ、株価の上昇によって、そのメリットを実現できる仕組みのもと、株価の上昇を目的とした経営に勤しんできたのが、ここ数年の米国の経営執行人達である。

日本では、米国のようなCEO、つまり、社長の暴走が起こりうるのであろうか?その答えは非常に簡単で「NO」である。理由は、雇われのサラリーマン社長には、現金報酬以上の株式によるインセンティブの仕組みがないからである。もちろん、ストックオプションをもらっておられる経営者も多くいらっしゃるとは思うが、複数年間の年俸以上の額を実現できるだけの株数を付与されているケースはほとんどないのではなかろうか?つまり、経営者のモチベーションは、第一義的には株価を持ち上げることではないことは言うまでもない。

日本のサラリーマン経営者に課せられた職務は、売上や利益の絶対額を増やす事である。よって、株価上昇を図るべく、架空の売上計上や不正経理などは全く必要ないのである。一部の海外のペーパーメディアが、日本の超エクセレント企業にも粉飾決算の疑いがあると報じたが、まったくナンセンスな話である。
株価がいくら上がっても、ほとんどの企業経営者の報酬には、まったく影響を与えないのではなかろうか。経済雑誌が企業価値を上げた経営者トップ10を掲載しているが、日本の経営者にとっては、勲章以上のものではないように思う。

新興市場に上場しているベンチャー企業のコーポレートガバナンスについて、考えてみた。多くの新規上場企業は、経営者イコール大株主である。経営者にとってみれば、業績を伸ばして利益を残せば、配当という形で自らに分配され、配当以外の残りを株主資本という形で貯蓄できる。おまけに株価が上昇すれば、株式という自己金融資産の評価が増えるのである。このロジックを理解している経営者ばかりであれば、一般の投資家は安心して株式を保有することができる。ところが、一般の株主から資金調達をしておきながら、資本の論理をまったく理解しない経営者も中には存在する。そのような一部の経営者の考え方を軌道修正するためには、欧米流の仕組みが必要かもしれない。しかしながら、オーナー企業の場合は、「特定の経営者への依存度が大きい」ことが、目論見書の特別記載事項に書かれているように、オーナー経営者無しでは、経営は成り立たないのである。

IPO企業にとっては、コーポレートガバナンスの仕組みよりも、ある種の精神論的なガンバリズムで会社を引っ張ることができるカリスマ性のある経営者がいることが、投資家という次元において、魅力が増すのである。

この後のメルマガでも書かれているが、証券会社の上場審査では、社長の公私混同の排除、内部管理の徹底、ディスクロジャー体制整備が非常に重要な要素であるようだ。筆者は主幹事会社及び取引所は、コーポレートガバナンスに加えて、経営者の事業に賭ける意欲についても、何らかの形で一般投資家に伝わるようなディスクロジャー制度を新規上場企業に課して欲しいと考える。

東京IPO編集長 西堀敬 nishibori@tokyoipo.com