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Tokyo IPO
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「大手銀行の増資に応じる事業会社の説明責任」
東京IPO編集長 西堀敬
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地下鉄の売店に並ぶ夕刊紙の見出しには、ほぼ毎日、大手銀行のどこかの名前が登場している。人にネガティブ印象を与える言葉と銀行の固有名詞を組み合わせれば夕刊を買う人が増えるのであろう。どこに行くにも社用車で移動する大手銀行の首脳陣にはそのような見出しは目に入らないであろうが、それだけ大手銀行の動向は国民的な関心事になっているということをもう少し認識して欲しいものだ。

昨年のIPO企業の株式市場での調達資金の総額は約4,500億円である(東京IPO調べ)。調達額が一番大きかったのが、大同生命の1,425億円だった。それに比べると、最高額を調達する「みずほ」の1兆円はあまりにも大きすぎるのではないだろうか?もちろん、「みずほ」のみの問題ではないのは言うに及ばない。総額2兆円を超す資金を吸い上げる今回の一連の増資にはどのような社会的な効用があるのであろうか?と考え込んでしまう。

新規上場する企業は、目論見書で調達する資金の使途を明確にし、企業のリスク情報についてもかなり細かく書かれている。また、その目論見書は完全にオープンになっている。いくら監督官庁公認の増資とは言え、銀行は今回の増資に関して説明責任どのように考えているのか理解に苦しむばかりである。東京三菱銀行は公募増資を行なうらしいが、目論見書の内容に注目したい。

銀行がつぶれれば、借り手の企業も困るのは確かであるが、これは固有の銀行と固有の企業との次元の問題ではないと筆者は考える。過去と同じ株式の持合の構図によるメリットがまだ存在すると考える企業のトップはどれほどいるだろうか?たぶん、ほとんどの企業のトップはメリットを感じていないと思われる。それでは、何故、企業は増資に応じるのであろうか?増資に応じる企業の株主・投資家への説明責任はどうなるのでろうか?お付き合いの延長線上で、増資に応じる企業があれば、止めて置いた方が賢明である。ほとんどの3月決算の企業は、決算説明会や株主総会の場で批判を浴びるのは必至である。もし増資に応じるのあれば、その他に投資をすべき案件はなかったのか、各種の財務指標はその結果どのように改善したのか(しなかったのか)等の想定問答をいまから準備されたほうがいいのではなかろうか?

さりとて、銀行の不良債権の処理への対応として自己資本増強は避けて通れない問題である。もし仮にメガバンクと呼ばれる4大銀行の延命が国民経済的に見て必要であるならば、公的資金の投入で賄うのがベストシナリオだと考える。日銀が、銀行の持合株式解消の受け皿として、企業の株式を購入する一方で多額な国の借金(国債)までも背負わされている。この期に及んで、政治・政策の失敗のつけを民間に回すべきではない。

民間企業は事業推進の為の新たな投資を行い、株主価値の向上に邁進すべきである。また、政府は、将来性のあるベンチャー企業への資金提供の場である株式市場に流入する資金への影響の無いような政策を取るべきであろう。


東京IPO編集長 西堀敬 nishibori@tokyoipo.com