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Tokyo IPO
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「IPO市場の2003年第1四半期動向と今後の予想」
東京IPO編集長 西堀敬
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1. IPO市場の年初からの動向
今年第1四半期の新規上場企業数は、34社となり、昨年の同時期の上場企業数とまったく同じとなった。但し、上場市場の内訳が大きく変わってきた。NJの終焉に伴い、その後を引き継いだヘラクレスへの上場数が激減し、上場基準から新規性が取り除かれた東証マザーズへの上場が増えてきた。

新規上場企業の市場別内訳
2002年
   東2  JQ  東M  NJ  ヘラ その他  合計
1月  1    1   0   1    0   0    3
2月  4    8   0   3    0   1    16
3月  2    6   0   5    0   2    15
2003年
   東2  JQ  東M  NJ  ヘラ その他  合計
1月  0    2   1    0    1    0    4
2月  1    8   3   0    0   2    14
3月  2   11   3   0    0   0    16

一方で、上場企業の資金調達額に関しては、1月から3月末で、昨年は34社で825億円、今年は同数の34社で382億円となった。 東証2部への上場数は、昨年は7社、今年は3社と調達額が大きい市場での新規上場が少なくなっていることが原因。
東証2部の除く平均調達額も昨年が19億円、今年は10億円と低調となった。

調達額が減った背景は、公開価格の決定のメカニズムにある。昨年の日経平均の推移は年初から3月末にかけて10,000円から11500円へ上昇したが、今年は8500円から7,000円台に下落した。公開価格は一般的には「類似会社批准方式」で決められる場合が多く、上場している同業他社の株価が下がれば、引きずられる形で公開価格も低めに設定される。

昨年来のインデックスの下げに引きずられる形で、IPO企業の公開株価は非常に低い水準に設定されている。その動きは昨年の11月頃から顕著に出ており、低めに設定された公開価格のおかげで、昨年末から年初にかけてのIPO銘柄の初値は好調なパフォーマンスを見せた。しかしながら、公開価格は低めに設定されているにもかかわらず、2月下旬からもろもろの株式市場の需給悪化要因に加えて、イラク・北朝鮮等の「地政学的リスク」の拡大も伴い、日経平均は下げ足を強め、公開株価を下回る初値をつける銘柄が多くなり、セカンダリーマーケット需給悪化の影響がIPO市場の初値へも影響してきた。

そもそも、IPO市場とは、短期の利鞘取りを狙う個人投資家の主戦場であるマーケットであるため、セカンダリーマーケットのパフォーマンスの悪化による市場参加者の激減が大きく影響して、悪循環になってきている。

また、IPO銘柄の需給が悪化する構造的な要因として、VCが株主になっている銘柄が多く、上場と同時に需給が崩れるような売りが見られる。受け皿の買い手として、機関投資家と個人投資家があるが、新興市場(マザーズ・ジャスダック・ヘラクレス市場)への上場銘柄は、機関投資家(年金・投資信託)のポートフォリオへの組み入れ銘柄対象とはなりえない為、「VCまたは既存株主の売り・個人の買い」の構図が成り立たなくなると、一方通行の相場展開となる。

その一連の流れを受けて、この3ヶ月の新規上場銘柄の値動きは、34件のうち、公開価格および初値以上の株価をセカンダリーで維持しているのは、10件のみとなっている。

2.今後の動向と新規上場企業に与える影響
3月に新規承認された企業のうち3社が上場を取りやめた。その背景のひとつは、資金調達だけを考えれば、あえて上場する必要がない企業がある。東証マザーズに上場する赤字企業を除いては、業績の裏づけのある企業しか上場できないのが現実である。

上場準備企業の資金繰りの面から考えると、株式市場で資金調達できなくても、特殊な事情が無い限りは間接金融にて銀行から低利で資金調達が可能となる企業が多い。資本コストを考えれば、企業サイドの事情により上場および上場申請延期が出てくると考えられる。

一方で、上場準備中の企業は、足元の業績が年初から悪化しているところもあり、新規上場企業数を減らす要因となりそうだ。大企業は、リストラ効果もあり今期以降は業績の回復が見込まれるが、ベンチャー企業はもともと業容が小さいため、景気の影響を直接受けやすい。

主幹事証券会社は上場準備会社の業績を月次でフォローしているため、予算との差異が下方に修正されれば、上場申請延期ということになる。そうなると、4月以降の新規上場企業数はしばらくの間減っていくことになる可能性もある。
新規上場企業の増減は、株式市場の動向よりも、個別企業の業績次第とも言える。

最後に、この環境でもIPOしてくる企業は、かなり好業績の企業である可能性が高く、上場直後に株価が市場全体の動向に左右されても、かならず持ち直してくると考えられる。その意味では、業績の下ぶれリスクの低い銘柄として、個人投資家は注目すべきである。

東京IPO編集長 西堀敬 nishibori@tokyoipo.com