┏ ――――――――――――――――――――――――――――― ┓
Tokyo IPO
http://www.tokyoipo.com/
┗ ――――――――――――――――――――――――――――― ┛
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「あなたは安定株主になりたいですか?」
東京IPO編集長 西堀敬
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

読者の皆さんは、上場会社から「当社の安定株主になっていただきたい」というレターをもらったら、どのように返事されるのだろうか。多分NOであろう。
今の状況においては。

筆者はIR会社に籍を置いている関係で、上場会社のIR担当者と話をする機会が非常に多いが、最近、上場会社は個人投資家を安定株主にしたいと考えているようだ。安定株主の定義とは何であろうか?筆者が思うに「長期保有の物言わぬ株主」ではないだろうか。そして、彼らは「持ち合い」で維持してきた「安定株主」との関係を今、個人投資家に置き換えたいと考えているようだ。

かつて、銀行や事業会社は、自己資本強化というお題目の下お互いの経営には口出ししないことを約束し合うという握りの世界を演じてきた。これが「持ち合い」である。勿論、持ち合いにはそれなりの経済合理性もあったのであろう。
しかし、彼らの蜜月は、バブル崩壊後の銀行の不良債権問題、時価会計導入といった会計ルールの変更等により、あえなく終焉を迎えた。特に昨年度の決算においては、株式評価損が企業に重くのしかかり、株式の評価で最終利益が赤字になる企業が続出した。ついに、銀行も企業もその重い腰を上げ、持ち合い解消を進めていかざるを得なくなった。

持ち合い解消の対応策として最初に浮上したのが自社株買いだ。とはいえ、過去の遺産(利益)ですべてそれらを買い戻せるべくもない。そこで彼らが次なる対策として考えたのが、個人投資家を次なる安定株主にすることである。勿論、上場を維持するには一定の株主数が必要なため、主幹事証券会社を通じて個人投資家の株式保有期間を長くする努力は日ごろから行っているだろう。しかし、個人投資家は株主権を行使したくて投資しているわけではなく、キャピタルゲインの獲得を目的に株式を保有するのである。それは株主数は株価が上がれば減り、株価が下がると増えることが如実に表している。

では、個人投資家を安定株主にする方法はあるのだろうか。かつて、とある会社のIR担当者が、退職した高齢の富裕層に株式を保有してもらえば、長期の安定株主になるはずだと言い切っていたが、その考え方は間違いではないにしても、期待薄であろう。なぜなら、現在すでに退職している層の社会保障は手厚く、資産運用はローリスク・ローリターンでいいはずだ。リスクを取り、将来に備えて資産を運用しなければいけないのは、年金の恩恵が薄いといわれる比較的年齢の若い世代ではないだろうか。しかし、彼らの多くはまだ株式市場での経験は浅く、将来の収入にも不安を抱えている。

だから、もし、企業が個人投資家を安定株主として長期保有を期待するなら、まず現役組の若年層を想定した株主作りを考えるべきである。手法としては、誰でも投資可能な売買単位である1単元を10万円前後まで低め、物理的な株主との接点を設けながら、インターネットなどのインフラも使いながら情報開示を通じて、企業と株主の距離を縮め、地道に信頼関係を築く必要があるだろう。

その成功例としてカゴメという企業がある。上場企業のIR担当者は、是非ともカゴメのケースを勉強した上で個人を安定株主にする努力をしていただきたいものである。

東京IPO編集長 西堀 敬 nishibori@tokyoipo.com

p.s. カゴメのIR活動についての詳細をお知りになりたい方は、西堀までお問い合わせください。