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Tokyo IPO
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「インターネット上の個人情報の守り方
〜日本ベリサイン株式会社 川島社長に聞く〜」
東京IPO編集長 西堀敬
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今年の株式市場のパフォーマンスを見るとインタ−ネット関連の銘柄が復活してきている。ネットバブルと呼ばれた1999年、2000年頃のインターネット関連銘柄は期待先行で実体が追いついていなかった面が多かった。ここ数年間でデータ通信の環境がドラスティックに進化したことで、ブロードバンド(以下BB)環境でのインターネットユーザー数が飛躍的に伸びたことが、インターネットビジネスをよみがえらせたのである。中でもイーコマース(以下EC)の伸びは目を見張るものがある。電子商取引協議会の調べでは、B2Cの市場は2001年にすでに1.5兆円にまで伸びており、2006年には16.3兆円にまで成長すると見込まれている。興味のあるHPへのアクセスがフラストレーションを感じない時間で可能になり、インターネットがメディアとして機能しはじめたことがECの伸びの背景にあることは否めない事実である。しかしながら、個人情報の漏洩等の危険性などがハードルになりまだまだインターネットユーザーがそのままECを利用するには至っていないのも事実である。読者の皆様にとってもインターネットは生活の必需品になっていると思われるが、まだECの経験がない方もいらっしゃるのではないだろうか。そんな方々には是非ここから先を読んでいただいた上で安心してECを体験していただきたい。

先日、上場承認直後の日本ベリサインの川島社長にお話をお伺いした。川島社長は、インターネットセキュリティーのビジネスに携わるために1995年には三井物産を退社し、札幌の株式会社ビー・ユー・ジーに入社した。そこで、この世界において世界でも草分け的存在のRSA社のインタ−ネットセキュリティーに関するツールを米国から輸入して販売するビジネスを日本で最初に始めている。また1995年という年は、米国ベリサインが産声を上げた年でもあり、マイクロソフトがWindows95を出したりして、米国発のインターネットが民間ベースで全世界に普及し始めた年でもあった。川島社長は、その後、サイバートラストを立ち上げ、自らこの分野の開拓に打って出た。その後、RSA社から独立して設立された米国ベリサインの日本法人に入社し2001年3月に日本ベリサインの代表取締役社長に就任された。
日本ベリサイン社は1996年2月に米国ベリサインの日本法人として設立された。目論見書では、同社の事業は、「公開鍵暗号基盤(PKI)を用いた電子認証とその関連サービスを提供する」とある。読者の身近な分野では、ECサイトで買い物をするときに、自分のパソコンのブラウザーとECサイトのサーバー間をSSL(安全な通信・取引を行うための通信プロトコル)と呼ばれる通信の暗号化によって情報のやり取りを行い、インターネット網のどこかで情報が漏洩することを防ぐことができるのである。もっとわかりやすく言えば、日本ベリサインのHPのURLを見ると、https://www.verisign.co.jp/ となっているが、「http」のあとに「s」がくっついているのを確認していただきたい。この「s」が、SSLで通信されていることを意味しているのである。
従って、「http」のあとに「s」がついているECサイトであれば同社のサービスを使っている可能性が高いと言える。筆者は、技術的なことに関する評価をする立場にはないが、同社と同様のサービスを展開している企業は他にはほとんど見当たらないことが、その価値を物語っているように見える。
次に、米国企業の日本法人の上場で過去を振り返ると、米国本社だけが得をしたケースが思い浮かぶ。日本における事業上の利益を大株主である本社に還流させるのはやむをえないが、日本の個人投資家のマネーを米国本国へ還流させる集金マシーンの役割を演じた企業があったことは読者の皆様も記憶にあるはずだ。日本ベリサインは、今年の7月に米国本社とのライセンス基本契約の残期間が3年に差し迫っていたものを、2003年から10年間の契約に変更した対価として24億円支払っている。この支払いがIPOによる資金調達の直前に実施されていることから、またか、と思ってしまう。そのような誤解を受けやすい日本法人のIPOに踏み切った理由についてお伺いしたところ、当社の事業は「インフラ整備事業」であり、一度始めたら止める事のできない事業、今回のIPOは日本市場に根付いてサービスを提供しつづけることを認知してもらうためのコミットメントであると説明された。また、川島社長の話によ
ると、米国ベリサイン社は、日本法人を株式の過半数を保有しつづける運命共同体であると位置付けた上で、日本の市場を米国の外では一番重要な市場と認識し、連結ベースでグローバルに事業拡大を推進することを戦略としてもっているようだ。そのことを前提に考えれば、24億円の対価を支払ったライセンス契約の更新に関しては、きわめて低いロイヤルティ料率(10〜15%)で10年間コミットした米国本社を評価すべきであろう。また、過去の他社ケースからの学習効果もあり、日本における外資系企業のIPOに対する市場の不信感を十分に認識した行動をとっているともいえる。

インタビューの最後に、一般のインターネットユーザーが、インターネット上で個人情報や決済情報を提供する際に気をつけなければいけない事項についてお伺いした。@Versignマークの有無、Aセキュリティーに関する説明の有無、B個人情報の取り扱いに関する但し書きの有無、などを挙げて、サイト運営者がどれだけ気を使ってサイト運用しているかが重要だとの説明をうけた。読者の皆さんにとって、一度、ECを体験してしまうと、麻薬のように感覚が麻痺してしまって、事故に遭うまで個人情報の提供に関して抵抗がなくなっているかもしれないが、新しいECサイトを使うときはかならず@〜Bを確認することをお勧めしたい。
筆者のコメントとしては、日本ベリサインのビジネスが、川島社長の言うところの「インフラ整備事業」である以上、インターネットユーザーのセキュリティーに対する啓蒙が今日最も大切な事項であるが、そこが世の中の仕組みとして構築されていないことが気がかりである。日本ベリサインには事業の拡大とともに世の中のインターネットユーザーの啓蒙活動にも取り組む社会的な存在にもなっていただきたい。

東京IPO編集長 西堀敬 nishibori@tokyoipo.com