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「年金問題の先にある老後の生活は誰が世話をしてくれるのか
〜訪問介護事業のケア21依田社長に聞く〜」
東京IPO編集長 西堀敬
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師走に入り、東京の街中はクリスマスの飾りとイルミネーションで溢れかえっている。メディアの報道は衆議院選以降も年金・イラクを追っかけているようだが、一般市民はクリスマス、年末・年始の旅行や帰省などで、政治問題など念頭にない人が多いのではないだろうか。ところが、年末年始に久しぶりに実家に戻り、年老いた両親の顔を見たりすると、自分の老後はだれが面倒見てくれるのだろうかとふと不安になったりもする。

確かに、老後を生き続けるのに年金も大切だが、自分自身の老後の心配をするときに、もうひとつ忘れてならない存在がある。それは、少子の影響で発生する老人介護の問題だ。筆者のように40歳を越したサラリーマンは、年金とは別項目で介護保険料が天引きされる。この介護保険であるが、いったい誰がどのように運営しているのかをご存知でない方がほとんどではないだろうか。

まず介護の制度について簡単に説明しておこう。 最初に介護の仕組みを支える資金であるが、2000年度で介護サービス費が4兆3,000億円かかっている。その原資は、利用者負担が1割、40歳以上の保険者が4割、残りの5割を国と地方自治体が負担する仕組みだ。介護保険の被保険者は、65歳以上の第1号保険者と40歳〜65歳未満の第2号保険者にわかれている。第1号保険者の保険料は、年金から自動的に平均2,900円が差し引かれる。また、第2号保険者は加入する医療保険(健保)に上乗せして徴収されるが、その額は平均で1,280円〜3,930円で加入している医療保険によって異なる。

一方で、実際に介護を受ける場合には、市町村に対して要介護、要支援の申請を行い、認定を受けなければいけない。その対象となるのは、40歳〜65歳の場合は特定疾患のある方と、65歳以上の要支援、要介護1〜5に分類された方のみである。また、認定を受けた方々への介護保険の支給限度額は、「要支援」の6万1,500円〜「要介護5」の35万8,330円で、1割を自己負担するようになっている。

ここまで介護の制度を説明してきたが、先日、介護サービスを提供する株式会社ケア21の依田平(よだ たいら)社長にお話をお伺いした。

依田社長は、長野県生まれの54歳。小学校の恩師の影響で、社会にでるときから社会貢献できる仕事につきたいという気持ちが強かった。人の役に立つ仕事とは、教育、福祉、文化の三分野であると認識し、サラリーマン人生に終止符を打った後に独立し塾経営を始めている。塾経営で40教室になった頃に、事業の柱を増やしたいとの思いから、介護事業への取り組みを始め、2000年4月に訪問介護事業を開始した。

介護事業に特化したケア21は、事業開始から3年目で売上14億円を計上し黒字転換した。日経新聞調べによると「在宅介護・在宅入浴サービス」事業者としては2002年度で14位にランクされているが、売上の前年度伸び率を見ると159%とダントツの成長を遂げている。また、会社発表の今期決算予想では、前年比100%増の売上28.5億円で経常利益1億6000万円を見込んでいる。

ケア21の経営理念の根幹は、福祉理念と市場原理の融合にある。つまり、サービスを提供する者として、人間の尊厳を尊重し、利用者本位の真心と優しさのこもった福祉サービスの提供をモットーとする一方で、社員に、やりがい、生きがいを提供し、成果を出した人が報われる報酬・組織体系を確立することである。

企業理念に基づいて事業展開を行うための戦略として、@都市部に特化した営業エリアの選定。A訪問介護事業に特化。B営業専任所長の設置 を挙げている。介護事業だからといって、利益体質になるのに時間をかけても構わないという精神はもっていないのである。
営業・サービスの効率性、先行投資の抑制、固定費の変動費化という新規事業を立ち上げるときに実践すべきことをあたりまえのようにやっているのである。

また、介護事業は完全な労働集約産業であり、現場のヘルパーにとって、時間的な拘束も含めて相当な重労働であることが容易に窺い知れる。その現場のヘルパーが、人につくす事が喜びに感じる集団となり、日々の仕事が「やりがい」と思えるように、会社が現場を理解しヘルパーのモチベーションを維持することが重要と考えている。その意味では、社会的使命感の高いヘルパー集団を作り上げるために、優秀な人材を確保し、ヘルパーの質を向上させるための教育に重きをおくという人材育成を重視していることが当社の事業の支えになっているともいえる。

筆者が、依田社長のお話をお伺いしていて感じたことは、介護支援サービスは世の中のインフラ的な存在になる必要があるということだ。介護を受ける側からすると、コストは同じであるにもかかわらず、業者によってサービスの質が異なるようでは、国が半分のコストを負担するには相応しくない。その意味においては、世の中にそんなに多くの介護ビジネス事業者が存在する必要はなく、サービスの質を落とさないように牽制しあえる程度数が存在すればいいのではないだろうか。事業内容は異なるが、電力やガスのような事業に近いような気がする。

また、老後の資金的支援となる年金問題すら解決できない状況にある財政が介護まで面倒見られるのか、という疑問もある。依田社長は、世の中の仕組みが変ってくるはずだと言う。高度成長時代の税金の使い方が成熟した社会にあった仕組みにかわり、また、個人の各種保険の掛け方まで変ってきて、民間の介護保険が登場してくるであろうと依田社長は予想する。老人介護を40歳以上の国民が面倒をみる仕組みも、近い将来には年金のように20歳以上の社会人が負担するようになってくるではないだろうか。

ケア21に限らず、介護ビジネスは税金を使った公共性の高いビジネスである。税金が事業者の売上になるということは、経営にそれなりの透明性が必要であり、経営者にも高いモラルが必要とされることはいうまでもない。ケア21は2010年に売上高1,000億円を目指しているが、売上や利益の目標よりももっと優先すべき別の目標を依田社長は抱いているように見える。介護ビジネス業界での勝ち残りには、経営者の大きなビジョンが必要であり、さもなければ介護を受ける方々に評価をいただけないと考える。

「介護は教育、人を大事に育てる」という精神で経営されている依田社長率いるケア21の明日に期待したい。

株式会社ケア21HP ⇒ http://www.care21.co.jp/

東京IPO編集長 西堀敬 nishibori@tokyoipo.com


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