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編集長のジャスト・フィーリング
  事業の継続性とは
東京IPO編集長 西堀敬
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ダイエーが屈した。誰に?何に?屈したのか。週末のテレビ番組にはダイエー高木社長の姿が何度も放映された。退任会見では高木社長は淡々とした声と表情で退任の弁を語っていた。状況は異なるが、1997年11月の山一證券の自主廃業を思い出した。当時の山一證券野沢社長の、社員は何も悪くない・・・と泣き崩れる姿を読者の多くは鮮明に覚えているのではないだろうか。ダイエーの産業再生機構への支援要請については、すでに資産査定に入っていたわけであるから、社員も心の準備はすでにできていたと言える。とは言え、筆者にしてみれば、なんとなく両社の状況がだぶって見えて仕方ない。

山一は自主廃業となったが、「自主廃業」は政府の役人が押し付けた言葉であって、経営陣、社員ともに誰か自主的に廃業したかった人がいたのだろうか。自らは事業を継続したいが、廻りの環境がそれを許さない、という事情はダイエーもまったく同じではなかろうか。

上場企業には事業の継続性が求められる。最近話題の球団経営においても同じように継続性が重要なポイントとなっている。しかしながら、外部環境の変化はまだしも、ルールの変更があった場合には、継続ができなくなることもある。このルールであるが、自主的規制として業界がルールを作り、新規参入を阻止したり、業界秩序が乱れないようにしていることが多い。ところが、政治が民間の業界のルール変更に立ち入ってくるとやっかいなことになる。その際たる例が、金融庁の銀行ビジネスへの介入であった。銀行界は猛反発したが、最後はなし崩し的に従うしかなかったのである。

銀行の資産査定ルールの変更がどれだけ事業会社の経営に影響を与えるかを理解した政府は、産業再生機構という受け皿を作り、山一證券のように完全に世の中から抹殺される企業がないような仕組み作りを行った。この仕組みは、対象企業の過去に成功したビジネスモデルを再生させようとするものであって、社員の雇用や取引先企業を守ろうとするものではないように思える。ましてや、事業の根幹ともいえる、そこで働く人の志までをも引き継ぐことはほとんどの場合は困難であろう。

筆者はつねづね株主価値創造と顧客価値創造という言葉を使うが、ダイエーは顧客価値創造を忘れたのではなくて、株主価値創造、言葉を変えると、債権者価値創造を追及するあまりに顧客価値創造ができなくなってしまったのではないだろうか。創業者、中内功氏が経営の中枢を去ってからの経営陣は必死になって債権者価値創造を目的に会社を存続させようとしたに違いない。

事業の「継続」と「存続」は似て非なる言葉だと筆者は理解する。継続が可能であれば、その事業は倒れないはずである。いつの間にか器を存続させることにパワーを使うようになった企業はいつかの段階で終焉のときを迎えるはずである。ダイエーの場合は、その器が大きすぎたがために終焉の時期を経営者も金融の面から支えた銀行団も見誤ってしまったのではないだろうか。

上場したてのベンチャー企業もしかりで、IPOした企業の経営に水を注すわけではないが、経営者は事業の存続ではなくて自らの志の継続をいつもチェックしていただきたいものである。志なきところに企業の継続はないと言っても過言ではないと筆者は考える。


東京IPO編集長 西堀敬 nishibori@tokyoipo.com

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