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低流動性の増配期待銘柄に対する投資戦略
  株式会社ティー・アイ・ダヴリュ ジェネラルパートナー 藤根靖晃
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1月19日の日経金融新聞のスクランブルに“小型株の一角に売り妙味?”という記事があった。来年2006年6月までにTOPIXが三段階の比率調整を経て浮動株比率を反映した指数に切り替わるために、「浮動株比率の低い低流動性銘柄群の値下がり圧力が増す公算が大きい」という内容である。この意見に異を唱えるつもりは無いが、果たしてどのタイミングに株価に反映されるのか?銘柄群というバスケットで考えた場合には有効であっても個々の銘柄に関してはどうかということ、対TOPIXのパフォーマンスが重要な機関投資家銘柄への影響が中心であること、を考慮するなら頭の片隅に置いておくだけで良いようにも思われる(もちろん、認識しておくことは重要である)。

さて、日経金融新聞の意見とは逆になるが、3月決算期末が近いこのタイミングでは、敢えて「低流動性の増配期待銘柄に対する投資戦略」ということについて考えてみたい。コーポレートファイナンス理論においては低流動性株式には、非流動性ディスカウントが存在する、と言われている。株式の流動性とは株式を市場価格に近い価格で現金化できる可能性である。ある株式を大量に保有している場合、流動性の低い株式の場合においては自らの売りで大きく株価を下げてしまうことから結果的に市場価格よりもかなり安い価格でしか現金化できない。その分、流動性の高い銘柄よりも流動性の低い銘柄はディスカウントされるというものである。このディスカウント率については日本では統計データが無いものの、上場株式と未上場株式では45%〜50%にまでなると言われている。

さて、流動性の低い銘柄であるが、増配を発表すると流動性の高い銘柄よりも株価が好反応する可能性が高い。これは配当性向が高い方が、非流動性ディスカウントが縮小するからである。理論上、株価は将来に投資家が得られる配当金を資本コストによって割り引いた現在価値であるが、配当金として現金収入が得られることによって将来の価値(割引かれた現在価値)から実現化された価値に転じるからである。

前置きが長くなったが、それでは増配の可能性の高い銘柄をどうやって探し出すかであるが、1)現預金に厚みがある、2)大型の設備投資が必要ではなく、フリーキャッシュフローがプラス、3)配当性向が比較的低く上昇余地が大きい、4)好業績が見込まれる、が挙げられる。ここまでは極く当たり前のことであるが、これらに加えて、5)留保金課税の対象になる会社をターゲットにしたい。

留保金課税制度とは、同族会社が一定の限度金額を超えて利益を社内留保したときに課せられる税金であり、留保所得の10%〜20%の税率が課せられる。若干、説明を補足しておくと、同族会社とは株主とその同族関係者(6親等内)を1グループとして、3グループ以下の所有する持株比率が50%以上になる会社のことである。平たく言えば、オーナー一族が50%以上保有している会社は全てが対象となる。

具体的に留保金課税の対象となる金額は、大雑把な計算式では、次の通りである(税務上の所得金額を会計上の税引前利益で代用する)。

課税対象金額=当期利益×(1−配当性向)−税引前利益×35%(注)−役員賞与

(注:留保金控除額の計算には複数の方法があるが、議論を簡略化させるために所得基準35%を使用)

この課税対象金額(=留保所得)に対して、3000万円以下の部分に対しては10%、3000万円超1億円以下の部分に対しては15%、1億円超の部分に対しては20%の税率が適用される。

何故、この留保金課税が増配に結びつくかといえば、留保金課税を支払うよりも配当金を増やすことのほうが明確に株主利益となるからである。株主還元が強く求められている今日においては、配当金を増やさずに留保金課税を支払っている理由を企業側も投資家に対して説明することは困難であろう。

こうしたケースの増配は、企業側としても普通配当にはしたくないという意向が働くようであり、特別配当にすることが多いように思われる。四季報等でチェックするときには「特」印を探すのが近道かもしれない。

余談であるが、オーナー経営者が第一線から退いた企業においては配当金を増やすことが多いように思われる。これは株式配当金への課税が総合課税(他の所得と合算)であることから給与所得等の収入の多い現役時代においては増配しても税負担が大きいので配当金を増やすインセンティブが働かないのではないかと推測される。現役を退いて給与等の収入が下がれば税負担が軽くなることからオーナーが配当金の増額を経営陣に要求するのではないだろうか(オーナー経営者の引退も今後は十分にチェックしたい)。もし仮に、預貯金のように一律20%の源泉分離課税が適用できるような税法の改正が行われれば、オーナー企業の配当性向は大きく向上すると推察される。株式市場の活性化のためにももう一段の税制改正が望まれるのであろう。

株式会社ティー・アイ・ダヴリュジェネラルパートナー 藤根靖晃

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