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コーヒーブレイク 〜不動産関連企業の企業PRとリートの関係〜
  株式会社フィナンテック IRコンサルタント 深井浩史(CFA協会認定証券アナリスト)
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最近日本経済新聞等で新興不動産企業の広告を眼にされた方は多いのではないでしょうか。新興と言っても既に東証一部上場企業だったりするのですが、財閥系の不動産会社と比較すればまだまだ新興と言えると思います。中小型株投資に興味のある投資家を除けば、事業内容はおろか名前すらも知らなかったという人もまだ多いのではないかと思われます。こうした広告は特定の不動産物件の宣伝ではなく、企業そのものをPRする内容がほとんどです。

 新興不動産企業が自らのPR、企業ブランド作りに注力する理由として、成長するリートとの関連があるのではないでしょうか。先日上場した福岡リート投資法人を含めて現在18のリートが上場しています。今年はさらに多くの上場が予想され、その中には不動産関連の新興企業が主体となっているものも含まれます。

 上場リートの人気を見る上で二つの大きな指標があります。価格純資産倍率(いわゆるPBR)と配当利回りです。この二つの指標で上場18銘柄を見ると、かなりの開きが出ています。PBRは森トラスト総合リートの1.9倍から東京リート、HS証券が母体となる東京グロースリートの1.0倍までの間に分布します。配当利回りは日本たばこ系フロンティア不動産投資法人や三井不動産系日本ビルファンド投資法人が3%前後、一方で東京グロースリートや外資主体のニューシティ・レジデンス投資法人が4.5%程度です。

 こうした大きな差は何によるものでしょうか。組み入れ不動産のエリアや物件種類による違いを打ち出すリートも徐々に増えていますが、それが現在の価格や配当利回りの差を正当化できるもほどのものとは思えません。むしろ現在のリートの価格、PBR、配当利回りを決めている大きな要因は母体企業のブランドであると考えられます。

不動産の知識のない投資家が、リートの購入にあたり詳細な個別組み入れ物件データや構築されるポートフォリオ全体のデータを見ても、これを他のリートと比較して有利不利の判断はできません。また将来の配当を考える上では継続的に良い物件を組み入れていけるかどうかも重要ですが、それはまさに母体企業の力に影響される部分が大きいと言えます。物件のエリアや種類による差別化をアピールする場合でも、それが実現できるのは母体企業がそのエリアに地盤を持つ、あるいは特定種類の物件開発に強いということが条件になります。

こうした状況から推測できるのは、投資家が特定のリートについて、ここは安定配当を期待して購入できる、あるいは増配や多少のキャピタルゲインを期待できる、と判断する際に母体企業群のブランドが重視されているという点です。ここで言うブランドは企業の業績、不動産物件の開発実績(戸数と物件の知名度)、特定分野に強いという評判、そして単純に良く知られた社名である、こういった要素により構成されると思います。

リートは母体となる企業側にとっても重要な存在です。開発や証券化を手がけた物件を売却して利益を確定する重要な出口となっています。主要な売却先であるリートが配当利回りは低くても市場に受け入れられるならば、物件を高い価格で売却できることになります。逆に利回りが高くないと消化されないリートであれば、物件を安く売らないといけないということになります。また母体となったREITが不振となれば、企業自体の信用も低下する懸念があります。こうした点で母体企業とリートは、相互の業績、引いては株価や投資口価格という市場での評価において深い関係があると考えられます。

従ってリートの設立、上場を検討している、あるいは既に上場させている不動産関連企業においては、自らの企業ブランドを高め、母体となっているリートの販売力を高めたいという思いが少なからずあると思います。本来企業とリートはそれぞれ独立した存在であり、物件の売却先、あるいは購入先を特定の相手に限定してはいないはずですが、当面は相互の依存がかなり高いのが実態でしょう。こうした点でリートに取り組む新興不動産企業のPR・IR戦略に注目したいところです。

【参考】

銘柄名

運用会社の主要株主

物件特色

森トラスト総合リート投資法人 PBR 1.90 配当利回(%・年)3.66%

森トラスト、パルコ、損害保険ジャパン他

総合型(商業、ホテル、オフィスビル、住居)

日本ビルファンド投資法人 PBR 1.66 配当利回(%・年)3.05%

三井不動産、住友生命保険

オフィスビル運用型(都心5区中心)

フロンティア不動産投資法人 PBR1.35 配当利回(%・年)2.95%

日本たばこ産業

商業施設運用型

東京グロースリート投資法人 PBR 1.03 配当利回(%・年)4.51%

東京リート、エイチ・エス証券、パワーマネージメント

首都圏特化型(運用資産はオフィスビル・住居の複合型)

ニューシティ・レジデンス投資法人 PBR− 配当利回(%・年)4.64%

シービー・リチャード・エリス・インベスターズ(株)、エヌシーシー・ホールディングス・デラウェア・エルエルシー、(株)CSK

住居特化型(東京圏中心)

PBR:6月21日の価格と前期末の1口純資産をもとに算出。上場後まだ決算を発表していない法人は空白。

配当利回:6月21日の価格と今期(半年で1期)の各社の公表予想配当額をもとに算出。

株式会社フィナンテック IRコンサルタント 深井浩史
(CFA協会認定証券アナリスト)

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