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本物の企業IRを考えるシリーズ
    〜個人投資家にとっての企業IR〜 その7(全12回)
   株式会社KCR総研 代表取締役 金田洋次郎
   (証券アナリスト・IRコンサルタント)
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今年、前半に起こったライブドアとフジテレビの争いは、様々な方面に影響を及ぼした。その最たるものは、企業の過剰とも言える買収防衛策であろう。さすがに来年の新会社法の施行を睨み、毒薬条項(ポイズンピル)などの強烈な買収防衛策を導入した企業は、まだそんなに多くはないが、現行において可能である取締役数の定数削減や授権株式数枠の拡大などは、3月決算の大企業を中心に約150社超の企業で付議された。

株主総会の結果は、報道の通りである。無難に決議を可決した企業もあるが、まさかの否決となった企業も一部に出た。もともと、厚生年金基金連合会など大手機関投資家は、安易な買収防衛策は、既存株主の価値を薄めるものとして、そのほとんどに反対票を投じていたし、ファナックなどの優良企業でも、持ち株の外国人比率の高さから海外投資家の理解が得られず、否決となった。

我が国企業の多くは今まで、株主総会とえいばシャン、シャン総会や、シナリオ通りの総会を描いてきただけに、毒薬条項のような経営者の保身に直結する提案が、なかなか株主の同意を得にくいのは想定できたとしても、授権株式数枠の拡大などが否決されたのは多くの企業経営者にとって意外だったのではないだろうか。選挙ではないが、議案可決のための票がためにおいてその可否の鍵を握っていたのは、個人株主であることは間違いない。現状、個人株主のほとんどが議決権行使書の行使をしていないとのことであり、個人株主という浮動票をいかに集めるかが総会運営の鍵ともなりつつある。企業経営者は、これまで以上に投資家を意識した議案提出、総会運営のプロセスの改革を迫られることになろう。

しかし、冷静に考えてみると、今回の授権株式数枠拡大策に反対する投資家が多いのは至極当然のことである。授権株式数枠の安易な拡大は、第三者への新株予約権の付与や時価発行増資の実施など、既存株主にとって株式価値の希薄化につながることであり、拡大するにおいても明確な理由が必要なはずである。どうもその辺のところが、現在の企業経営者は、理解が浅いようだ。

今では、エクイティファイナンスは、企業の財務戦略上、極めて重要な資金調達手段であり、またその代表的手段としては、公募(時価発行増資)が当たり前のように思われている節がある。しかし、今日のように時価発行増資が企業ファイナンスの主流になるまでは、導入当初において既存株主の持分が希薄化しないように主幹事証券などが主導で利益配分ルールを定めるなど一定の株主還元の厳格化を図った。今では、全てが自由化されているわけであるが、それだけに導入にあたっては投資家に対する明確な説明が必要な時代といえる。

思うに、企業経営者は、過去の残像に未だ取り付かれているのではないか。低い配当でかつ既存株主の価値を薄める行為を企業側が実施しても、何も文句が出なかったのは、株価の上昇というキャピタルゲインでの恩恵があったからである。現在のように我が国自体が成熟期に入り、なかなか思うような成長シナリオが描けない今日においては、過去のファイナンス形態である、株主割当増資や中間発行増資、無償増資という形がもっと見直されてもいいように思う。

現在の企業経営者のスタンスでは、投資家にとって長期保有することのメリットは薄い。持ち続けていても株式の希薄化のリスクが高まるだけで既存株主にとって何らメリットがないからだ。今までは、多額の資金を企業がプールしておくことが企業の戦略上、重要視されていた側面もあると思うが、今ではその行為は、経営者の保身につながりやすくなるばかりか、多額の現金を狙った敵対的買収を招きやすいという経営者が望む形と逆という皮肉な結果ともなっている。このような経営スタンスで投資家が株式の長期保有をしないと嘆くとすればそれは筋違いというものであろう。

日本初の買収防衛策である毒薬条項(ポイズンピル)を発表したニレコは、一躍その名を有名にしたが、現在の裁判のやりとりもともかく、企業経営の中身をみると、疑問を感じるのは私だけではないだろう。ニレコは、設立1950年、ジャスダック(店頭登録)への上場が1989年の中堅の制御・計測機器メーカーであるが、売上高は98年の95億円をピークに尻すぼみで、利益水準もピーク時の1/5程度で推移している。ファイナンスは上場時の公募増資(株価5910円)を1回したのみで、その翌年1:0.1の無償交付をしただけで、配当以外さしたる株主還元策もない。しかし無論、標的にされるだけの資産を持っている。バランスシートに目を向ければ、総資産145億に対し、当座資産は61億円、株主資本は127億円、しかもほぼ無借金ともいえる財務内容だ。ここ10年間の1株当たり純資産は、1300円〜1400円という水準に対し株価はその半分で推移するという状況である。

今回のポイズンピルの導入に関して、日本経済新聞のインタビューでニレコの山田社長は、こう答えている。「自社株買いや業績の建て直しに取り組んだが、PBR1倍超に向けた株価のスタート台があまりに低かったうえ業績建て直しも一朝一夕ではできない。業績改善が正攻法とは理解しているが、早く防衛策を取り入れて時間稼ぎをしないと危険との判断に傾き、3月期末に間に合わせた。」

このコメントは、経営者の本音を語っていると思うが、投資家としてどう捉えたらいいのであろうか。このコメントを聞いて、私は企業IRの重要性を説いているときに多くの経営者がつぶやく一言を思い出した。「要するに業績を上げればいいんだろう」。確かに。全ての投資が求めていることである。しかし、企業業績を上げるのは企業経営者として当たり前のことであり、企業IRの目的ではない。経営者には、企業業績を上げる以上の責務が課されているといえるのだ。

前述のニレコにおいては、企業買収の危機にされされ、半ば強制的に市場との対話を始めたというのが正直なところであろうが、企業IRの重要性にようやく気がついたのではないだろうか。もっとも、同社の場合、業績的には全く評価できない。買収防衛策だけではなく、企業の将来的なビジョンを語らなければ無論、本物のIRとは到底言い難い。

株式会社KCR総研 代表取締役 金田洋次郎
(証券アナリスト・IRコンサルタント)

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