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新規公開株式情報の東京IPO
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コーヒーブレイク 〜スピンオフ?ではない子会社株の割当〜
  株式会社フィナンテック IRコンサルタント 深井浩史(CFA協会認定証券アナリスト)
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株式会社アエリア(ヘラクレス3758)は2004年12月のIPOです。そして1年後の2005年12月には、主力事業であるオンラインゲーム運営を行う子会社のゲームポット(3792)が札幌証券取引所アンビシャスにIPO。公募前でアエリアがゲームポット株式100%を保有していました。

またアエリアの2005年12月期連結売上高の約50%、営業利益の約60%がゲームポットの行うオンラインゲーム事業。同じ会社が2度上場しているようなものだという批判的な記事も出ました。ゲームポットの主幹事はこれが初案件のNIS証券(東証1部上場のニッシンの子会社、旧山源証券)。

アンビシャスへの上場はアルファ・トレンド以来2社目でした。親子上場の是非という観点もありますが、今回のテーマはゲームポットのIPOと同時に行われた有償原資による同社株のアエリア株主への割当。これはあまり話題になりませんでしたが、非常に面白い事例だと思います。

【スキーム】

  • アエリアは2005年8月の取締役会で、2005年10月末時点の自社株主に対し、アエリア株1株につきゲームポット株1株を割当することを決議(総会への付与を決議)。この時点で「ゲームポットは上場準備をしているが上場する保証はない」としています。
  • この行為はアエリアの有償減資という扱いで、同社の資本準備金が株主に割当られたゲームポット株式の価値分減少。この時点でゲームポットの企業価値は18億円と評価されています。
  • 実施されるとアエリアのゲームポット持分は75.1%、アエリア株主の保有分が24.9%という計算でした。
  • ゲームポット株を受け取るアエリア株主はみなし配当を受けたことになり、源泉所得税の支払義務が発生。この税額相当分もアエリアが負担することとし、税額相当分は現金による資本準備金払い戻しの扱い。ただし実際には株主には支払わず、アエリアがまとめて納税。
  • 11月17日にアンビシャスはゲームポットの上場を承認。
  • 12月15日に割当の効力発行。
  • 12月20日にゲームポット上場。

【中外製薬のケース】

こうしたスキームの日本における唯一の前例は中外製薬による米国子会社ジュン・ブローブ(以下J社)株の自社株主への割当です。

  • 2001年に中外製薬は世界的製薬大手のロシュ社の参加に入ることになりました。中外の子会社であるJ社はロシュと競合する分野があり、中外はこの状態を解消する必要がありました。そのため保有するJ社の全株式を中外の株主に割当ることで、中外とJ社の資本関係を断ち切ることにしました。
  • この時J社は株主への割当とほぼ同時期に米国NASDAQ市場に上場しました。従って中外の株主である日本の投資家は、未公開株を保有するリスクは回避され、IPO株を割当られるというメリットを享受、一方で外国株を保有するという不便宜を被りました。
  • この時もみなし配当課税があり、これは会社が現金で負担しました(結局株主が負担したわけですが)。

【スピンオフとみなし配当】

中外はJ社の株式100%を株主に提供することで資本関係を断ち切りました。これはスピンオフと言われ、米国では大企業がよく利用する手法です。米国ではみなし配当課税はありませんが、日本ではこれがあるために利用されていない手法です。

中外の場合はやむにやまれぬ事情があり実行。アエリアの場合は必然性がなく、また株主への割当は24.9%に留まり、親子関係は維持されたのでスピンオフとは言えません。

【アエリア社の考え方】

 それではアエリア社の意図はどこに?同社の須田取締役に伺いました。同社の長崎会長、小林社長、そして須田取締役は皆さんソフトバンク・グループに在籍経験があります。故にソフトバンクの経営を1つのモデルとしているとのこと。

事業分野別に中核会社を育て、これを株式公開していく経営スタイル。いかに各事業会社の経営者・従業員のモチベーションを高めるか、いかに資本市場からたくさん調達するか、事業内容や成長性の異なる子会社群を抱えるコングロマリット企業がいかに各事業の価値をアピールするか、そんなテーマに対する解決策が子会社の上場という考え方のようです。

 ゲームポットについては、オンライン・ゲーム運営会社のIPOには今のタイミングが非常に重要であると判断し、最も早く行ける市場を選択したそうです。ただし単に有力な100%子会社をIPOしたのでは、アエリア株主にとっては保有するアエリア株の価値が低下することになります。そこでこの問題をクリアすべく経営陣が考えた解決策が有償減資による子会社株式の割当でした。

色々な方法を検討する中で中外の例を知り、これを利用することにしたそうです。アエリアの事業ポートフォリオには、オンラインゲーム以外に、ファイナンス事業、Eコマース、ITソリューション、メディアなどがあり、それぞれの分野で有望な企業もあるようです。

アエリア株を持っているとIPO株がもらえるというケースがまた出てくるようだと、手放せない銘柄になるかもしれません。このスキームが会社・それぞれの株主に与えた影響については別な機会に検証してみたいと思います。

 

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株式会社フィナンテック IRコンサルタント 深井浩史
(CFA協会認定証券アナリスト)

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