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編集長のジャストフィーリング 〜他人事ではないシンドラー社の教訓〜

東京IPO編集長 西堀敬

 

東京都港区のマンションで6月3日にエレベーター事故が起こり将来のある若い高校生の尊い命が失われた。

事故が報道された当日は自らが住むマンションのエレベーター製造会社をすぐさまチェックした。確か日本の電機メーカーだったという記憶があったがその記憶に間違いはなかった。

それでも不安は残ったままだ。なぜならば何年か前に自らがマンションの管理組合の理事長をしているときに年間の管理費削減のためにエレベーターの管理会社を変更したことも記憶にあるからだ。

推測でものを言うのはよくないことを承知で敢えて書き続けるが、たぶんエレベーターの管理を委託している会社はハードウェアの点検は行っているだろうが、ソフトウェアの点検までは無理だと考えられる。

とは言え、今回のシンドラー社が製造したエレベーターのような管理の仕方は特別な事例ではなく、世の中の多くのマンションやオフィスビルなどで行われていることに違いない。

話は変わるが、シンドラー社はスイスの製造会社である。私は5年間スイスに滞在したことがあるが、このような事故はスイスの国民性からしてもあまり起こりえないことである。

スイスでは富士山の頂上の高さまで電車を走らせ、寸秒も狂わない時計を作ることで有名な国である。このような国の製造会社が人命を失うほどのエレベーター事故を多発させるようなメンタリティーしか持っていないとは考えにくい。

新聞報道によると、「シンドラー社が1991―93年に設置したエレベーターにプログラムミスが見つかり、ほとんどはミス発覚後に改修されていたが、作業漏れなどのため、9基のミスが放置され、ドアが開いたまま昇降するトラブルも起きていた。(日経ネット)」そうだ。

そして同様のトラブルが起こった同社の他のエレベーターに施された改修作業を見ると、「ROMでプログラムを入れ替えた」と報道されている。

作業時間などはわからないが、さほど時間を要する作業ではなさそうである。シンドラー社の社員がROMを持ち込んでプログラムを入れ替えるだけで正常にエレベーターが動くとするならば、それは同社の現場部隊の怠慢が引き起こした事故であるともいえるのではないだろうか。

現場の部隊とは誰なのか?

それは紛れも無く、明らかに我々日本人である。

2007年〜2010年に「団塊の世代」の大量退職が起こり、製造業中心に技術・ノウハウの伝承が困難になってきていると言う。

人・設備・債務の過剰から脱出しようとした日本企業は1990年代の後半から企業経営の3要素の削減に専念してきたのだが、一番重要な物造りのメンタリティーまで切り落としてしまった可能性がある。

その結果、損益分岐点は2004年には25年ぶりの低い水準となったが、昨年辺りから突然設備投資、新卒の採用が盛んになってきた。設備の老朽化や現場のノウハウの継続に不安感を抱き始めた日本企業の行動の結果である。

バブル崩壊後に、日本企業がリストラと称して失ってきたものは相当あるはずだ。失われたものは本当に必要のなかったものなのかを考えさせてくれるのが、シンドラー社の事故であったはずである。

シンドラー社の事故を外国企業の管理の甘さから引き起こされた事故であると片付けてしまうのではなく、物作りには定評のある日本企業は今一度自らのこととして物作りの工程から納品後のメンテナンス体制までを再確認すべきであろう。

東京IPO編集長 西堀敬 column@tokyoipo.com

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