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コーヒーブレイク 〜アクティビスト・ファンドへのインタビュー〜
  株式会社フィナンテック IRコンサルタント 深井浩史(CFA協会認定証券アナリスト)
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上場企業の株式を経営者から見て存在感のある筆頭株主になる程度まで買い増しした上で、経営者に資本政策や、事業展開までの提案を行っていく。近年外資系ファンドに加えて、国内系も参加し急速に存在感を高めているアクティビストと言われるタイプの投資スタイルです。

外資系ではスティールパートナーズがソトーとユシロ化学に対してTOBを仕掛けたことが有名ですが、。今回はバリュー投資の一環として、こうした外資系のファンドの一つである、友好的なアプローチによるアクティビスト・ファンド(JMBOファンド)も運営するダルトン・インベストメンツ
(Dalton Investments KKLLC, http://www.daltoninv.co.jp/index.html, 以下DI)のCIO(Chief Investment Officer)であるジョージ・ロブリー氏にインタビューしてきました。

DIといえば一昨年には帝国臓器(その後合併であすか製薬となる)へのMBO提案を行ったことが話題になりました。帝国臓器はMBO提案を受けた後、未上場のグレラン製薬と合併を発表。DIはこれに対して、合併条件が既存株主に不利であるとして異議を唱えたと報道されました。この合併自体がDIの保有比率を下げることが目的という説もあったようです。

また最近ではDIが十数十数%を保有していたるサンテレホンが三菱UFJ証券を引受人とする新株予約権発行を取締役会決議し、これに対してDIは予約権の価額が低く設定されている有利発行であるとして(おそらく既存株主の権利を損なうという名目で)東京地方裁判所に発行差し止め請求を行い、これが認められました。裁判所はこれを有利発行に当たると判断し発行差し止めを命じました。

この判断は特定株主の持分を下げることを目的として取締役会決議で決定した買収防衛策、あるいは近年多用されているMSCBや新株予約権による既存株主の利益を損なう懸念のある資金調達に対する警鐘とも受け止められます。いずれにせよ株主が会社の資本政策にはっきりとNOと言い、それが裁判所に認められたことは重要な出来事であると思います。こうした耳目を集める案件も含めてDIは日本での投資を着実に拡大しています。

DIは1999年に設立、米国ロサンゼルスで設立され、米国以外には日本と中国(上海)に拠点があります。運用資金は12億ドルで、そのうち2/3を日本株に投資しています。運用方針の基本はバリュー投資。これは企業の本質的価値について、その企業のもつ潜在力(収益力)がまだ実現されていないという(収益がまだ低く、今後大きく伸びる余地がある)意味と、株式市場での時価総額が現在既に達成している企業価値(現在上げている収益および予想されているもの)に比べて安い、という二つがあります。

中小型株銘柄への集中投資を行い、投資銘柄によっては経営者に対してMBOも提案していくJMBOファンドに加えて、大型株への純投資やヘッジファンド的な投資をも行うファンドものの、中心は中小型株銘柄への集中投資であり、投資銘柄によっては経営者に対してMBOも提案していも運営しています。

DIの創業者の1人は、日興證券NY(ニューヨーク)に長く勤め日本株へのバリュー投資を発展させた祖父の哲学を受け継いでいるジェームズ・ローゼンワルド氏です。彼とともにDIを設立し、CIOを務めるロブリー氏は、ハワイ出身で日本語も堪能、日系証券会社や外資系証券会社の日本拠点勤務を通じて、日本株・日本企業を長く見てきた人物です。

以下、インタビューの内容を掲載します。

Q. 現在の日本の株式市場の見方は?

A. 今年一杯は調整が続き、その後再び上昇するというのがメインシナリオだ
   ろう。しか し景気後退の可能性も30%程度はあると見ている。景気後退
   は、新たなビジネスを生むきっかけにもなるので必要なことでもある。

Q. JMBOファンドについて教えてください。

A. 2003年に立ち上げたこのファンドは、MBOにより株主価値が向上すると考
   えられる上場企業に投資し、経営者に対して積極的にMBOを提案していく
   ことを目的としている、言わば「MBO Stimulator」的なファンド。未公開
   企業投資の過熱感もあり、近年では未公開企業よりも割安な公開企業が少
   なからず存在している。そうした環境で上場企業のMBOは今後増加すると
   考えて本ファンドを立ち上げた。出資者は米国の企業年金、大学、富裕層、
   ファンドオブファンズ、それに日本の金融機関など。立ち上げ時のシード・
   マネーとしても日本の資金が入っている。経営者とのコミュニケーション
   を深めた上でMBOを実現するまでに時間がかかるので出資者の資金には、
   3年程度のロックアップをかけている。ファンドの規模は100億円超になっ
   ており、1銘柄については10〜20%の持分となるまで買っていくことが多
   い。

Q. 投資のアプローチを教えてください。

A. 投資候補のスクリーニングは先ず企業の定量的なデータの分析から行う。
   当社のターゲットは中小型サイズであるが、新興成長銘柄ではない、どち
   らかといえば業歴が長く成熟した業界で安定した業績を上げている企業。
   こうしてピックアップした銘柄については、個別面談を積極的に行ってい
   く。当然ながら実際に経営者と話をすることが重要であると考える。

Q. 投資ターゲットは中小型サイズで、どちらかといえば業歴が長く業績の安
   定した企業ということだが、他に条件は?

A. 一般的にはオーナー企業でないほうが良い。

Q. JMBOファンドのエグジットの方針は?

A. 経営陣と協力してのMBOを行うか、あるいは経営陣にMBOの意向が無い場合
   には経営陣にとって友好的と思われる先に売却する。また、経営陣と話し
   合いをしアドバイスしていく中で、現状の投資のままでも経営陣の努力に
   より企業価値が上がっていけば、そのまま保有し続けてもよい。

  当社は株式を取得してから経営陣と企業価値向上に向けたディスカッショ
   ンを1〜2年程度続けていく。当社の立場を言えば企業に対するファイナ
   ンシャル・アドバイザーだろう。企業価値を高めるための財務政策・資本
   政策のアドバイスを提供する。ある程度の期間つきあって、会社の内情も
   理解した上で次のステップを提案していく。

Q. 企業価値を高めるためにMBOが有力であるという理由は?

A. 本当に企業価値を高めるための経営を行うには経営者が株式を保有しオー
   ナーとなることが望ましい。オーナーから経営を委託された者が経営を行
   う場合エージェンシーコストが発生する。さらに単なるエージェントであ
   りオーナーではないのに、人事権など社内権力を武器にオーナーであるか
   のように錯覚している経営者も多い。逆に良い経営者に適切なインセンテ
   ィブを与え、株主の利益を考えた経営をしてもらうにはMBOは良い方法だ。
   また長期的成長のために最善と考える大胆な改革を行うにあたり、多額の
   資金調達が必要だったり、一時的に業績の悪化を伴う場合、既存の株主が
   それを受容できない場合の解決策としてもMBOが考えられる。

Q. 貴社のこれまでの投資先でもMBOは実現していない。日本では大会社の非
   上場子会社の例やオーナー会社の例があるが、上場会社の非オーナー経営
   者が行う例はほとんどない。なぜか?

A. MBOをやり遂げるには大変な覚悟とエネルギーが必要であることは間違
   いない。それに対して日本においては経営者がMBOに消極的だ。MBOでは、
   一旦、非上場となるが、日本においては非上場のイメージがとても悪い。
   人材採用で不利だということを良く理由にする。それとMBOは理解するが、
   それを敢えてやるだけのエネルギーがないという経営者も多い。株式取得
   のために個人で相当の借金をすることも嫌がるようだ。しかし当社は業績
   が堅調で、毎年キャッシュを生んでいる会社を対象に提案している。その
   点で経営者のリスクは小さいはずだ。当社は事業の切り売りはしない方針
   であり、経営者にも適切なインセンティブを与えてそのまま経営にあたっ
   てもらうことが良いと考えている。それでもなかなか実現しないのは、上
   記のような理由と、日本の金融・証券の業界自体がMBOを正しく理解して
   いないからだろう。

Q. 敵対的なTOBなどの手段を取ることは?

A. 友好的なアプローチが当社のコンセプトなので敵対的なTOBは基本的に行
   わない。但し、株主を軽視し、株式価値を毀損するようなアクションを起
   こす経営者に対しては、当社は徹底的に対抗していく。そういう意味では、
   状況によりTOBも必要な手段だと思うし、経営陣を変える必要がある場合
   にはこれも検討する可能性もある。基本的には経営者個人の人間性が、企
   業のガバナンスや将来に大きく影響すると考えているからである。

Q. 帝国臓器やサンテレホンのケースでは、DIの姿勢が理解されず、会社が対
   抗策とも思える政策を実行したが?

A. 投資先に対してはかなり長い期間をかけて経営陣との対話を重ね、我々の
   目指すものを伝えている。それでも残念ながら真意が伝わらないことや、
   誤解が生じるような場合はある。我々としても出資者の財産を守る受託者
   義務があり、必要な対応を取っていかざるを得ないケースもあろう。

Q. 今後の日本での取り組みは?

A. 長い期間にわたり投資をしていく。日本でも資金をさらに集めて投資の規
   模を拡大していく。そのためにはレピュテーション(評判・信用)が重要
   である。そのためあまり過激な手法はとりづらいし、とるつもりも無い。
   繰り返しになるが、我々は投資先の企業にとってファイナンシャル・プラ
   ンナー、あるいはアドバイザーのようなものだ。金融・財務についてはプ
   ロであるが、事業については会社の意向を尊重していく。時間をかけて、
   企業価値向上の道筋を話し合っていくスタンスだ。こうした姿勢を理解し
   てもらう努力も必要だ。

 

コーヒーブレークのブログ書いています。http://ameblo.jp/mplstwins/

株式会社フィナンテック IRコンサルタント 深井浩史
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