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編集長のジャストフィーリング 〜 IPOは茨(いばら)の道〜

東京IPO編集長 西堀敬

 

あおぞら銀行の東証への上場が先週承認された。

同銀行の前身は読者もよくご存知の日本債券信用銀行である。1998年に経営破綻し一時国有化され上場廃止となった。2000年にはソフトバンクが中心になり民営化され、名称をあおぞら銀行と変更して再生が始まった。

しかしながら、再生の中軸となるはずだったソフトバンクは2003年には持ち株を米投資ファンドのサーベラスに譲渡してその役割を放棄してしまった。その後は筆頭株主として経営をリードしてきたサーベラスが得意な投資やデリバティブ分野で業績を伸ばし、今回の上場にこぎつけたのである。

サーベラスが株式を取得したのは2003年9月であるから、ちょうど3年でイクジットするわけだ。目論見書に記載のある予想売り出し株価590円で計算するとサーベラスは約1,000億円のキャピタルゲインを得ることになるらしい。再生ビジネスの対価はキャピタルゲインという形でしかないのかもしれないが、株主全員がイクジット狙いのように見えてならない。事実、大株主上位3名、サーベラス、オリックス、東京海上日動火災は各々の保有株式数のうち1/3を売り出すことになっている。

企業価値を上げる努力をしてきたサーベラス、オリックス、東京海上日動火災のグループはそのお役目を終えたことを宣言したようなものである。

また株主の名簿を良く見ると、実は上述の3社の大株主以外にも整理回収機構と預金保険機構という国の機関も優先株式を保有しており、普通株式に転換されると発行済株式数の33%を保有することになる。そして整理回収機構も売り出しで1,400億円近いキャッシュを手にすることになる。こちらのほうは時限立法的な性格の機関であるため現金化もやむを得ないかもしれないが、官民あげての投資回収を行うためのIPO色が濃いことは事実である。

では、あおぞら銀行という法人にとっての上場のメリットは何であろうか?

1990年代後半から不良債権処理の為に自己資本比率を維持できなくなり経営破綻や合併を余儀なくなれた銀行が多く、その傷跡はまだまだ完全に回復してきたわけではない。そのような中において、あおぞら銀行の財務健全性指標である自己資本比率は2006年3月末で19.4%と日本のメガバンク3行(三菱UFJ:12.2%、三井住友:12.39%、みずほ:11.63%)や再生して再上場を果たした新生銀行15.53%と比較すると相当高い水準にある。

ならばあおぞら銀行はこれ以上の自己資本の充実、言葉を変えれば資本調達は、高い自己資本比率が足枷になりROEが低下する可能性がでてくることを考えればその必要性は非常に少ないことになるだろう。

またIPOのメリットを社会的な信用力や認知度の向上に求める企業もあるが、同社にとっては今更そのような必要もないと考えられる。

一方、デメリットとは言い切れないがIPOによって不特定多数の株主が生まれる。いままで経営陣と一体になって企業価値向上に勤しんでくれた株主は去り、知恵は出さずに業績向上を期待する株主ばかりになるのである。

今回のIPOが売り出しのみであることから株主分布を上場廃止前の状態に戻すことが再上場かもしれないが、新しい株主が期待する経営陣のコミットメントは破綻から再生の道程よりも険しいと言わざるを得ない。

資本や資産規模からすれば、現状の収益水準はピークといえるかもしれない。新しいビジネスモデルの構築をせずに今のステージでIPOすることは、既存の株主にとってはHAPPYかもしれないが、経営陣にとっては茨(いばら)の道を歩むことになりはしないだろうか。

 

東京IPO編集長 西堀敬 column@tokyoipo.com

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