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コーヒーブレイク 〜「いちご」の成長に期待します(1)〜

株式会社フィナンテック IRコンサルタント 深井浩史(CFA協会認定証券アナリスト)
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東京鋼鐵(株)(JASDAQ5448、以下「東京」)が、22日に開催する臨時株主総会で、株式交換により大阪製鐵(株)(東証1部5449、以下「大阪」)の完全子会社となるという会社提案の特別決議が行われます。

経営陣同士が合意したM&Aが総会で否決される事態になれば、日本で初めての事例となるそうです。これに反対する「いちごアセットマネジメント(以下、いちごAM)」が株主権の行使により株主名簿を閲覧、東京の株主に対して、大阪による株式交換契約に関する議案を否決することを目指した委任状勧誘を行いました。

このような委任状争奪戦も非常に珍しい事例です。M&Aは珍しくなくなりましたが、TOBが利用される場合がほとんどで、そうした場合、一般株主はTOBに応じるか否かの選択をすることになります。しかし今回の件では、臨時株主総会でその是非が問われます。総会に向けて機関投資家と個人投資家が団結して、会社側の提案に反対の意思表明をするという点でも稀有な“事件”です。さらにいちごAMの行動は、プロの投資家の果たすべき責任というものを示した例としても意義のあることと考えます。

東京経営陣は株式交換により大阪の完全子会社となり、競争力を高めていく方針を決めました。実現すれば東京は上場廃止となります。昨年10月の発表に対して、それ以前から東京への投資を検討していたいちごAMは、総会の基準日(議決権が確定する日)である昨年12月22日までに10%の株式を取得し、さらに特別決議の否決が可能となる3分の1の議決権を確保するための委任状獲得を開始しました。いちごAMが反対理由として表明している意見は以下の通りです。

・東京は非常に効率的に経営されており、世界的に見てもこの分野でのエクセレント・カンパニーである。さらに大阪の子会社となり競争力を高める方針 は十分に理解できる。

・しかし、今回の株式交換の比率が適正なものでないため賛成できない。会社提案では東京1株について大阪株式0.228株を割り当てるとしている。これは発表当日の株価に対して5.8%のプレミアム、直前1ヶ月間の平均株価に対しては0.3%のプレミアムにとどまる。一方、いちごAM独自の評価では、少なくとも0.295株が妥当であると考える。

・比率が適当でないとする理由は、以下の4点:

     
  1. 東京は株式交換発表と同時に06年9月中間期の上方修正を発表したが、これが株式交換発表時の株価に反映されていない。
  2. 大阪は東京を完全子会社化することで、東京既存株主から経営権を取得する。このコントロール・プレミアムが反映されるべきである。
  3. 東京の株式益回りは大阪のそれを大幅に上回る(東京のPERは大阪に比べて非常に低い)。大阪株主からすると益回りの改善となるが、 東京株主からすると益回りの低下となる。
  4. 東京と大阪の連携で大阪グループの収益力は大幅に強化される。今後のポジティブな変化が織り込まれていない。

また評価の公平性を損なう可能性がある点として、大阪のメインバンクである
三菱東京UFJ銀行と同グループの三菱UFJ証券が、東京の第三者機関とし
て交換比率を算定している点も挙げられています。こうした明快な主張が他の
株主の理解を得て、決議を否認するに必要な議決権の3分の1に近い委任状が集
まっているようです。

いちごAMはモルガンスタンレー証券(東京)で役員を務めたスコット・キャ
ロン社長が昨年春に設立しました。日本の拠点は投資顧問業を行い、シンガポ
ールの拠点が運用業務を担当。運用資産は30億円で、海外の個人の資金などを
運用。 国内小型株対象のバリュー投資を専門とし、現在の投資銘柄は13社、
東京鋼鐵以外ではニッキ(東証2部6042)について大量保有報告が出ています。

委任状争奪戦も佳境を迎えた15日にオフィスを訪問してお話を伺いました。
外国政府機関の同居する洒落たビルに居を構えています。

今回の件についてのコメントは以下のようなものでした。

「昨年春の会社設立以来、東京を調査し非常に高い評価をしており投資を真剣
に検討してきた。その中で突然の大阪の子会社化発表に驚いた。提案内容を検
討し、大阪との組み合わせは非常に良いものと判断したものの、株式交換比率
には大いに失望した。東京の経営陣の業務執行能力は評価しているが、一方で
このように一般株主の利益を損なうと思われる判断がなされた理由は理解し難
い。大阪・東京の経営陣としては、一体となって業績を伸ばしていくことで、
株主にも長期的にメリットがあると考えたと推測する。その目的は良いが、実
行するに当たり、東京の既存株主への配慮が欠けている。東京の役員会に、株
主の利益という観点で物事を考える人がいないことが要因ではないかと考えて
いる」。

総会で特別決議が否決される可能性が高いと言われているが、仮に可決された
場合どうするかという問いには、「それが株主の意思ならば尊重し、大阪株式
の保有という形で引き続き東京を支援する」とのことでした。結果もさること
ながら、日本でこうした行動が影響力を持ち始めていることに大きな意義があ
ると考えます。(以下、次回に続く。

 

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株式会社フィナンテック IRコンサルタント 深井浩史
(CFA協会認定証券アナリスト)

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