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編集長のジャストフィーリング 〜TOB成功で束の間の休息が終わる〜

東京IPO編集長 西堀敬

2月下旬に「日興、東証上場廃止」の大見出しが日経新聞の1面を飾ってからすでに2ヶ月が過ぎ去ろうとしている。

上場廃止の報道は日興コーディアル証券(以下、日興)社員の心を大きく動揺させたに違いない。それに加えて、米国のシティーグループとみずほ証券が買収に動き出して、まさに俎板の鯉状態で仕事が手につかなかった社員も多くいたことだろう。

3月に入り、日興は米国のシティーグループとの包括的戦略提携に合意し、みずほ証券に統合されることはなく、日興の名前は存続することになった。

まずこの時点で、日興社員は安堵の気持ちが芽生えたのでないだろうか。みずほ証券は来春には新光証券と統合が決まっており、その下に入るとなれば重複する部門や営業拠点の整理統合はやむを得なくなる。仕事やポストがなくなるとの推測から今後の身の振り方さえ考えていた社員も多かったはずだ。

この時期には上海株式市場に端を発する世界同時株安などもあり、顧客対応も大変な時期であったが、しばらくして3月13日に東証と大証が正式に上場維持を発表した。

社名は変わらず、上場も維持となり、大リーガーのイチローが登場するテレビCMも復活して、日興の社員は完全にいままで通りの日々が蘇ったように感じたに違いない。

そのような日常が続く中で、水面下では更なる憂鬱の種が着々と進んでいることに気付いている日興社員はどれだけいるのだろうか。

シティーグループは1株1700円で完全子会社化を目指している。

その計画を実行するには約1兆7,000億円(発行済株式数977,822,749株×1700円)を投じることになる。

昨日発表された日興の決算短信を見ると、自己資本の額は967,789百万円、当期利益は78,128百万でROEが9.5%である。

一方、シティーグループであるが、ROE17.51%という水準ですら世界的なリストラを発表している。

仮に完全子会社となった場合、1兆7千億円の投下資本に対して17.51%のリターンを得ようとするならば、税引き後の利益が約3,000億円、経常利益となると5,000〜5,500億円は必要となる。

ところが日本の最大手証券会社である野村ホールディングですら外部環境は良かった前期連結決算で4,500億円の税引き前利益を出すのがやっとである。

5,000億円を超すような経常利益を実現することが如何に難しいことであるかは言うまでもないことだ。

明後日になればTOBの結果はでるだろう。たとえ一部の大株主がTOBに応募しなくても個人株主などがいなくなり株主数で上場基準を満たさなくなるはずである。

そうなれば3月13日の東証および大証の上場維持方針発表はもともと時限立法であったということになる。大証の個人投資家に売買の機会を提供し続けたいという想いももう十分な期間が過ぎたと考えられる。

日興の役員は決算発表の席上で「シティのTOBが成功してほしい」と発言したそうだが、その後に待ち受けている1人の大株主からのプレッシャーをしっかりと理解しているかどうかは疑問が残る。

筆者は非上場となるであろう上場銘柄の「日興」に関して投資家としての興味は徐々に薄れていくが、日興そのものの今後には大いに興味がある。

上場廃止、そして外資が大株主になったケースとして、経緯は異なるが新生銀行がひとつの例だろう。

顧客本意のサービス提供を実現する銀行に生まれ変わり、再上場を果たした新生銀行のようにドラスティックな変化を日興にも期待したい。

一方、シティーグループは投資した1兆7,000億円を何らかの形で回収しなくてはならないはずだ。とても営業上の利益だけでは回収できるとは思えない。さすれば再上場は視野に入っていると考えていいだろう。

外資系のプラベートエクイティの期待利回り25%で計算すれば、1兆7,000億円は3年後に3兆3,000億円にならねばならない。PER20倍とするならば税引き後の利益が1650億円、税引き前で前期決算の利益の3倍となる3,000億円程度必要だ。

これらの数字の実現に奔走することになる日興社員の姿を想像すると、いっそのことみずほ証券傘下に入ったほうが社員にとって幸せだったのではないかと考える。

TOBが実現すれば、この1ヶ月が束の間の心の休息であったことを日興の社員は改めて実感するのではないだろうか。

そんなXデイが明日に迫っているが、一投資家としては日興がどのように変化するのかのほうが楽しみである。

東京IPO編集長 西堀敬 column@tokyoipo.com

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