『外国人投資家にとって
      まだ日本株投資は魅力があるのか?』

ジャパンインベストCOO マーク・バージズ ワトソン氏に聞く

2003年の事業開始当時に日本株投資を魅力と感じた背景は?  

2003年春先は正直言って日経平均のボトムはどこだかは想像がつかなかった。

ただ誰の目にもはっきりとしていたことは、日本経済はGDPに対する企業利益の割合(レシオ)が1992年〜1993年に底であったことだ。1990年の半ばにおいて米国企業は利益を伸ばしたが、日本はまったく伸びなかった。この大きな理由は、日本では金融システムの崩壊によって企業の資金調達が困難であったことやデフレーションにあり、企業の潜在的な成長力としてはバブル崩壊以降順調に回復が続いていたということである。従って株価は(企業業績などのミクロ要因よりも)金融危機などのマクロ要因によって過小評価されていたとういうことだ。

そして2000年に入り、ネットバブルが崩壊して日本の株式市場も陰の局に入っていった。そういう厳しい環境の中で、2001年5月には小泉内閣が発足し、翌2002年9月には竹中金融・経済財政政策担当大臣が就任したことにより、日本の疲弊した金融制度の改革を推進してゆくという政府のメッセージが海外にまで伝わることになる。

当時を振り返ると、東証2部に上場している中小型株などは多額の現金をもっているにもかかわらず、株価の評価は相当低くなっていた。その中には自社の製品が世界でもトップシェアを持つリーディングカンパニーであるにもかかわらず、証券アナリストが誰もカバーしていないような銘柄が存在していたのである。

今でも良く覚えている銘柄としては、アマダ(東証1部6113)があげられる。この銘柄は、2003年3月期に歴史的な損失を出したことで当時PBR0.3倍の水準まで株価は売り込まれていた。ところが、その株価では計算上16年間同じ損失を出し続けてもPBR1倍にはならない水準であり、そのレベルまで売り込まれていることに大きな疑問を抱くことになる。

当時私はロンドンで日本株式のセールスをやっていて、アマダの買いを機関投資家に推奨していたが、その時価総額が1500億円を切ったというだけで割安にもかかわらず機械的に売却を進めていた米国の投資家がいたことを覚えている。結果的にはそういう機関投資家の売りもあって私の買い推奨後も2ヶ月程度値を下げ続けたのである。

 

こうした中、ジャパンインベストは2003年3月にロンドンに事務所をオープン、同年4月には東京事務所をオープンすることになった。そして4月7日に当社最初の日本株式のリサーチ・レポートを出した。これがまさに日経平均株価が大底を打つ時であった。

最初から当社ではリサーチの焦点を、(ブルーンバーグ画面などで)業界アナリストが存在しない小型株セクターのカバレッジに置き、それがビジネスのブレイクスルーとなった。

2003年4月と2007年4月では市場はどのように変化したのか?

まずマクロ経済的に見ると、日本国内の個人消費は2003年も今も状況は同じで弱いと見ている。例えばOECDの経済レポートなどでは日本経済の成長率を低く見積もられているのが通常だ。これは欧米の成長は堅調な国内経済で支えられているが、日本経済は輸出の伸びだけで支えられているとの見方があるからである。

一方、株式投資の環境でいえば、2003年4月時点では外国人投資家が日本株をほとんど保有していなかったが、2007年4月では過去に購入してきた株式をいったん利食いするなどしていることから、投資のサイクルとしては一巡したのではないかと見ている。

つまり、マクロ経済環境においては個人消費が弱く、株式市場環境においては日本国内に「ロングオンリー(買いのみの)』の長期的な機関投資家が不在であることが今の日本株式のパフォーマンスの阻害要因になっている。

少し視点を変えて物事を見ると、株式相場というものは様々な種類の投資家が参加することによって初めてその国の経済成長に合わせて緩やかに発展していくものである。

たとえば、年金ファンドとヘッジファンドではそれぞれ投資期間や投資単位の金額が異なるので、欧米などでは短期投資のヘッジファンドが売りを先行させても年金ファンドがその売りを吸収することが十分可能である。ところが、日本では短期投資のヘッジファンドだけが大きく台頭しており、ヘッジファンドが買いポジションを手仕舞っていても、買い手となる年金ファンドなどの長期スタンスの機関投資家が不在であるために、株価の下落を支えることができなくなっている。

また日本国内の投資主体別売買を見ると、個人投資家の売買金額シェアは30%超まで膨らんできているが、国内の機関投資家のシェアはさほど増えていない。市場参加者の構成という視点で考えると、今後は欧米市場にみられるような積極的な日本の機関投資家の取引参加(株式投資)が重要である。

外人投資家は今の日本市場をどのように見ているのか?

日経平均株価は、2003年4月に大底を打った後、2004年4月に戻り高値を付けた。その後18ヶ月間のボックス相場を経た後、外国人投資家の大幅買い越しで2005年8月から大フィーバーを演じたが、現在はPERの水準からみても割安とは言いがたく、相場全体に対して若干興味を失っている感がある。

2005年夏以降の上昇相場では、内需は冴えなかったが、大企業の輸出の伸びが材料となり全体の株価を牽引していた。

ところがここに来て、米国経済の減速懸念が台頭してきている。例えば直近の米国の住宅着工は前年比でマイナス8%まで落ち込んできたこともあって、外需という意味において特に米国に頼ることはいまや難しいと言えるだろう。

一方、国内の内需という意味においては、例えば個人消費のひとつの指標である百貨店の売上高は前年同月比でマイナスに推移してはいるなど、その伸び率自体が鈍化してきている。つまり個人消費はあまり強くないと見ている。

また設備投資が国内の需要を喚起するのではないかと言われ続けてきたが、設備の稼働率が2005年の終わりにピークアウトして、今は横ばいになっている。日銀短観調査データをみても日本企業は今期に積極的な設備投資するような状況になく、すでに需要に見合った設備投資はほぼ一巡したと考えられる。そして設備投資額が減少することが企業収益にもネガティブに動くのではないだろうか。

このような見方をしている限りにおいては日本株へ投資する興味は高まらないと考えられるが、ポジティブな動きとしては、国内需要に関して次のようなものが考えられる。

  1. モノの価格はすでに上昇したが、サービスの価格はこれから上値があると考えられる。

  2. 銀行からの借入高については、個人部門での住宅購入などまだまだ増加する可能性がある。

  3. 地価は、貸出し規制が行なわれないかぎり、今後も上昇する可能性が高い。なぜなら地価の水準はまだまだ土地バブルの頃に比べてもまだまだ低く、15年以上沈滞している。

  4. 団塊世代の潜在的な消費力の高さ:
    • 孫の世代が就職につけるようになった。
    • 保有する住宅の価値が上昇。
    • 外貨への投資で含み益。

等々、日本株式にとってポジティブなマクロ的要因はまだまだ沢山でてくると考えている。

またさらに当社が考える、次なる相場のテーマとしては:

  1. 企業の配当性向の向上
  2. 三角合併などによる国内M&Aの加速
  3. 金融業界の持続的な再編 → 銀行、証券、保険の垣根の撤廃
  4. 地方行政の改革

等である。 これらの動きが水面下で起こっていることに多くの外国人投資家はまだ気がついていないと考えている。

欧米の株式との比較した場合、現在の日本株の魅力はどこにあるか?

米国のS&Pに対するTOPIXの動きは2005年6月〜2006年4月まではアウトパフォームしていたが昨年の4月でピークアウトしている。外国人投資家は日本株を買ってはいるが、他の市場をもっと買っているということだ。

米国経済は住宅着工指数などが急速に減速しており、かなり景気の先行きが厳しくなってきている。米国では通常大きな借入れをして不動産を購入していることから、金利が上がれば住宅着工は下がってくると考えている。またここのところホームエクィティローンでの個人の借入高が大きく増加してきているので、金利が少し上昇しただけでも消費に与えるインパクトが大きくなってきている。住宅着工が減少すると米国の個人消費に陰りが出て、米国の企業業績の減速にも繋がってくると考えられる。

以上のことを考える限りは、S&PがTOPIXに対してもつ優位性は徐々に解消されつつあるように思える。まったく異なる視点だが、ここ数年間の野村証券と東京電力の株価チャートを比較してみると、日本の株式市場が活況だったときは野村がアウトパフォームし、市場が弱気に傾くと東京電力が優位になっている。この1年間は東京電力が優位であったが、ここにきて野村の株価が東京電力株価に対して下げ止っていることからも、日本株式市場が再び活況になりそうな予感がする。

今年の外国人投資家の動向をどのように予測するか?

ヘッジファンドやプライベートエクイティ・ファンドは金利に対してセンシティブなので、低金利が続く限りは今後もこれらのファンド(買収ファンドも含む)などが活発に日本企業を買ってくるだろう。また、彼らは資金の調達金利と株式のリターン比較で投資を決定しているので、日本の国内景気が悪くなり企業業績(株式のリターン)が低下してくると、そのスプレッドが取りにくくなり投資活動が沈静化してくる可能性もある。

一方、純粋なバイサイドである年金ファンドなどは企業業績中心の投資決定を行なう。当社が想定するような市場のテーマに沿った業界において今後も収益の増加が見込まれるのであれば大幅買い越しになる可能性もある。また年金ファンドの運用担当者にしてみれば配当の増額は大きな投資判断材料になるので、増配は日本株へ投資する大きなインセンティブとなろう。

聞き手: 東京IPO編集長 西堀 敬

 

マーク・バージズ ワトソン氏(Mr.Mark Burges Watson)

1989年英国ケンブリッジ大学卒業後、BZW証券(英国)やJPモルガン証券(英)において17年以上日本株式の証券営業に従事。2003年3月ジャパンインベスト・ホールディングス(現ジャパンインベスト・グループplc)に入社後、2005年12月より最高執行責任者に就任(現任)。


 企業DATA    ジャパン・インベストメント・グループplc
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□ホームページ http://www.japaninvest.co.jp/
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