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2007.5.23 No.499



『〜外資系投資ファンドは長期の株主になれるのか〜』 

 

毎年、この季節になると株主総会に関連する話題が新聞紙面を飾りだす。

今朝の日経新聞でも楽天のTBS株主に対する委任状争奪戦に関する記事が大きく紙面を割いていた。

日本の企業同士が株式の取得を巡って戦うことは今まで少なかったと言えるが、ここ数年でその数は増えてきたと言えるだろう。

事業会社がM&Aを仕掛ける場合は、株式を長期保有することで買収企業が被買収企業とのシナジー効果を狙うことができることくらいは我々でも容易に想像できる。例えば、結末はまだどうなるかわからないがHOYAのペンタックスへのTOBなどはその一例であろう。

さて、このM&Aでよく登場するようになった外資系ファンドであるが、彼らは本当に短期の利鞘取りだけが目的であろうか?

今週の日経ビジネス誌でインタビュー記事があった米国投資ファンドのスティール・パートナーズは約8,000億円を運用している。

そのうち日本株での運用額は約5,000億円だそうだ。すでにサッポロ・ホールディングス、アデランス、江崎グリコ、松風など約30社に投資をしている。

インタビューで代表のウォーレン・リヒテンシュタイン氏は「短期投資が目的ではないか?」との質問に「短期的な利益には興味がない」と答えている。

日本人である我々は「短期投資ではない」と言われても、過去から積み上げてきた利益剰余金を一時に配当として払え!なんて言われると、そう簡単に信じることはできない。

だが、彼らの投資の手法ではなくて彼らのビジネスモデルを理解すれば短期投資が本音ではないことが見えてくる。

投資ファンド運用者の報酬は、管理報酬と成功報酬の二つに分けられる。

管理報酬は運用結果にかかわらず運用資産残高から受け取る報酬である。一般的には、ファンドの純資産の1.5%程度が報酬となる。スティールの場合は、この管理報酬が1.5%で計算すると120億円(=8,000億円×1.5%)となる。つまりスティールは運用資産が減らなければ、毎年120億円が自動的に収益になるわけである。

まさか全世界で何百人もの社員を雇っているわけではないだろうから、120億円あればそれなりの待遇で十分な数のプロフェッショナルを抱えることができるはずである。

成功報酬に関しては大きな期待はせずにファンドへの投資家が解約しない程度に、パフォーマンスを上げておけばいいということであろう。

その意味において、投資先はオールドエコノミーに属する企業を軸にしており、アクティビストとして投資先の経営者の意識改革を迫ることによって経営改革による業績向上なり株主還元を高めることができる銘柄をピックアップしている。

つまりニュービジネスやこれから市場を開拓しなかればならない企業は対象外というわけだ。濡れ雑巾を搾ればまだまだ利益や配当がでる企業が投資先となれば、投資した元本がそうそう割れる心配もないだろう。

彼らの目的は投資先の日本企業をいじめるのが仕事ではなくて、長期にわたり株価が少しずつ上昇していけばいいだけである。その方法論としてアクティビストとして活動しているだけだと考えたほうがいいのである。

短期でイグジットしてしまえば、また次なる投資先を探さなければならない。それは投資ファンドにとってはあまり得策ではない。

このように考えると、経営権を取るのが目的ではなく、長期投資ができる経営をしてくれる企業が最高の投資先となろう。

外資ファンドが投資した企業の経営者は、敵対的だと考えずに長期保有の株主 だと考えて胸襟を開いて投資ファンドと話し合ったほうがいいだろう。

ただ単に彼らは、値下がりリスクのない株式を長期に保有したいだけかもしれない…

 

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東京IPO編集長 西堀敬  column@tokyoipo.com