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アイティメディア株式会社
(東証マザーズ・2148)
大槻社長インタビュー
専門情報サイトがネットマーケティングを変える

米メディア大手のニューズ・コーポレイションが米新聞大手のダウ・ジョーンズ(DJ)を買収することが先週決まった。

ここのところに来て海外ではメディアがメディアを買収する動きが激しくなってきている。その背景には、ペーパーメディアの没落とネットメディアの勃興がある。米国では1980年代には1日6,000万部を越えた新聞の発行部数が近年は5,200万部まで落ち込んできている。

日本に目を向けると、各新聞社の新聞発行部数よりもウェブのユーザー数が多くなっているケースも見られる。ペーパーメディアが衰退し、ネットメディアが主流になっていくのだろうか?

そんな動きの中で、最初からネットメディア一本で立ち上がったのが4月19日に東証マザーズに上場したアイティメディア(2148)である。今回は大槻社長にお時間を頂いて、事業内容や今後の展開についてお話をお伺いした。

事業内容

「ITmedia(http://www.itmedia.co.jp/)」というポータルサイトを運営する。インターネットだけでIT関連分野の情報を配信する非常にユニークな存在。

大槻社長は、新聞や雑誌といった紙媒体のネットメディア展開は上手くいっていないと分析する。その理由は、@紙メディアとのカニバリゼーション A情報の専門性の低さ B雑誌や新聞のような有料媒体、がネックだと言う。

166名いる社員の半数はIT関連専門のプロの編集者・記者で、新製品や事象について一から取材をしてオリジナルコンテンツ(=記事)を作る。前期1年間で閲覧された年間ページビューは13億3,000万PVにのぼり、ユニークユーザー数も月間1,000万人前後と質の高い専門的な記事が支持されている。

そしてユーザーである読者に一切課金を行わずに、広告収入だけでサイトを運営している。その広告の中身と質が既存のメディアとは完全に異なる。○○新聞というブランドと発行部数があれば広告が売れるという時代は過去のものとなり、今後のインターネット広告のキーワードは「ターゲティング」だそうだ。

当社が従来のネット広告と一線を画すのは、最近では当たり前になってきている“ターゲティング広告”を、さらに進化させ追及している点である。

ターゲティング広告とは、ユーザーをカテゴリに分けることで特定の層にプロモーションをして高い効果を狙おうとする広告手法である。一般的に、検索したキーワードに関連する広告が選ばれて表示される“キーワード・ターゲティング”(検索連動型広告)や、過去に見たページの履歴を元に嗜好を分析して広告が選ばれる“行動ターゲティング”などが用いられている。日常的にヤフーやグーグルを利用していれば実感することも多いが、ユーザーは自ずとターゲティングされ、関心があるだろうと思われる広告を見せられているのだ。

そしてこれまでのターゲティング広告の10倍の単価がつくというのが、当社の“コンテンツ・ターゲティング”である。はじめからターゲティングされた専門性の高いコンテンツを用意し、そこに関連した内容の広告をダイレクトに掲載するという手法。専門的な情報を求めている読者に支持される、良質でハイレベルなコンテンツを持つメディアだからこそ可能なやり方である。興味のある人だけが訪れるコンテンツを構築し、効率的にリーチできる環境を作っているので、広告主の立場に立ってもより一層効果的なプロモーション活動が出来るという仕組みだ。

こういったサイトの専門性と集客力を利用した戦略から、さらに“プロファイル・ターゲティング”という当社の強みとなる領域が生まれた。現在急成長している、広告主と読者のマッチングを行うマーケティング支援サービスである。

登録された会員のみが記事を閲覧できるという会員制WEBサイトを用いてユーザーのプロファイルを取得し、本人の許可を得て、顧客企業へ見込み客としてプロファイルを提供するのだ。プロファイルの情報提供には確かな手ごたえを感じているという。日経BPやリクルート(キーマンズネット)も似たビジネスを展開しており、当分野では追われる立場でもある。

紙媒体が本業の大手新聞・出版社もネットへの対応を迫られて二兎を追っている現状の中、当社は「従来のメディアには頼らない」という覚悟のもと、情報の専門性を活かし、クライアントの望む環境を築こうと試行錯誤で独自のメディアを改善してきた。広告から個告へ。PV数と広告の値段が比例するという考え方は時代遅れ。ユーザーと広告主の両者にとっての理想的な環境を、インターネットだから出来るやり方で実現していく。

売上げの内訳は、07年3月期でメディア広告型ビジネスが86.6%、プロファイル型ビジネスが13.4%。08年の第1四半期の売上げ構成を見ると、プロファイル型の占める割合が18.2%まで拡大している。

設立経緯

大槻社長は96年4月のYahoo! JAPANが始まった当初、ソフトバンクの出版事業部に所属し、その立ち上げに関わった。「出版もインターネットの時代へ移行していく」という展開にいち早く取り組んでいたソフトバンクは、97年9月には当社の前身となる“ZDNet JAPAN”というサイトを出版事業部の中でオープンさせる。99年末には、ソフトバンク、ヤフー、米国ZDNet3社のジョイントベンチャーとして法人化した。

法人化した当時、2000年から02年まではサバイバルの時代であった。本当にこのビジネスで生き残れるのか、と自問自答する日々を経た後、03年に入ってからは急速に立ち上がってきたという。

 

苦しいときも紙に戻らず専業特化でやってきたという自負はある。当初の目論見より大分遅れてはいたが、漸くIT広告が世間に認知され始め、当社の事業に世間が追いついてきたといえる。市場拡大、顧客拡大と好転し、売上げ5億で経常損失を計上していた02年(3期)から、07年(8期)には売上げ30億近くを稼ぎ出すまでに成長している。

今後について

毎年3割の成長を持続していきたい。実現すれば5年後には100億に手が届く計算だ。インターネット広告の市場規模は、2011年には9,800億円まで拡大すると予測されているので、まだまだこれからシェアを伸ばしたい。配当への取り組みも課題だが、今は株主に納得してもらえる株価で成長を遂げたいと考える。現時点では人材育成・設備投資資金も必要。メディア再編に積極的でM&Aも視野にある。ゆくゆくはIT以外の柱を作り、ネットメディアの可能性を模索していく。

業績(連結)の推移(百万円)

決算期
売上高
経常利益
当期利益
純資産
2005/3
2006/3
2,151
355
344
1,215
2007/3
2,923
462
268
1,483
2008/3(予想)
3,626
550
323

(注)2008年3月期の数字は会社発表業績予想


■西堀編集長の視点

大槻社長との面談で私自身が本当に勇気付けられた。 東京IPOのサイトとアイティメディアを一緒にするような事はおこがましくてできない話であるが、コンテンツを絞り込んで情報発信するサイトとしてある種の親近感を持たせていただいた。

私のところにやってくるネット専業の広告代理店の営業マンがいつも聞くことは、PV(ページビュー)とUU(ユニークユーザ)の数である。インターネットはプル型メディア、テレビはプッシュ型メディアと言われている。PVやUUはプッシュ型メディアであるテレビと同じ指標でインターネットメディアを測っていることになり、その指標ではプル型メディアは評価できないはずだ。

大槻社長の言うとおり「インターネットメディアの強みはターゲットできること」であるとするならば、その結果を携えてアイティメディアが広告主に営業することにより、インターネットこそがマーケティングにおいて非常に高いROIを得られるツールであるとの認知が広がってくるはずである。

そして広告の出稿主はアイティメディアなどの専門性の高いコンテンツを扱うサイトを使えば、マスに向かって広く薄く情報発信するのではなく、絞り込まれた潜在的な顧客のみに情報を発信することができるようになるはずである。

さすれば広告業界の常識が少しずつ変化してくることになり、インターネットメディアの価値も評価の方法が変わってくるのではないかと期待できる。

アイティメディアの更なる成功が、東京IPOのような専門情報サイトの広告業界での認知度向上に繋がると信じたい。
その意味でも大槻社長には先導役として既存のメディアとの戦いに勝ちつづけていただきたいものである。


 企業DATA    アイティメディア株式会社
□証券コード 2148・マザ株価情報へ
□ホームページ http://corp.itmedia.co.jp/
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