最近のメディア報道では中小REITにおいて、上位株主の持分が非常に大きくなり、REITに認められている法人税の優遇措置が適用されなくなり、分配金が大きく減る可能性が出てきたという記事が時々出ています。エルシーピーREITやFCレジデンシャルREITなどが該当するようです。買い進んでいるのは自らもプロスペクト・レジデンシャルREITの母体であり、運用会社を経営するプロスペクト・アセット・マネジメントとのこと。FCレジREITとその母体の(株)ファンドクリエーションに対しては、「母体企業はFCレジREITの運用会社の株式をもっと強力なスポンサーとなりうる会社に売却せよ」と要求しているそうです。自社グループのREITとの合併なども画策しているのかもしれません。REITは上場法人数が40超まで増えましたが、最近は新規上場が非常に少なく、特に新興の不動産企業がスポンサーとなるREITはまったくありません。自社の運営する私募ファンドの物件を、自分がスポンサーとなるREITに売却するというモデルが機能しなくなったようです。私募ファンドとグループREIT間の取引の透明性、それぞれの運営の独自性等についての監督が厳しくなったことがあります。また投資家のREITに対する評価が極端に二分化して、新興企業系REITは価格が純資産割れで、公募増資ができず新規投資ができない状況。それでますます人気も落ちるという悪循環です。REITは差別化が難しい商品です。以前は物件の供給さえ継続的にできればREITは成長していくと多くのスポンサーが考えたでしょうが、REITにとって同じくらいに重要なのは他のREITよりも自社のREITを一生懸命売ってくれる販売会社だったのではないかと思いますが、そこを各社とも十分考えていなかったようです。三井・三菱・野村・森・東急などブランドのある大手や、福岡など地元金融機関も含めて地域で支援するREITはいいのですが、新興・首都圏・オフィス&住宅ミックス型REITは差別化要因がなく、厳しい状況です。
REITの数値を見てみます(出所:ブルームバーグ、9/28時点)。全上場REITの時価総額は5兆5千億円で、世界最大である米国REITの約10分の1の規模、米国、豪州、フランス、英国、オランダについで世界6番目の規模です。最大の日本ビルファンド投資法人(三井不動産系)は8,483億円で全体の15%を占めています。二位のジャパンリアルエステイト(三菱地所系)は5,658億円で10%、3位の日本リテールファンド(三菱地所系)は3,865億円で7%を占めています。上位8銘柄(約2割)の時価総額が3兆円(54%)に達しており、上位2割で8割を占めるのパレートの法則まではいきませんがかなりの規模になります。一方で下位8法人の合計はわずか1,723億円で、規模の二極化を感じます。また三井不動産や三菱地所など日本を代表する総合不動産会社のREITビジネスでの存在感が際立っています。三井不動産は、帝国ホテル株を取得して日比谷の一体開発に取り掛かるということですが、帝国ホテルに隣接する大和生命ビルも三井系の日本ビルファンド投資法人の所有で、この大型再開発にこのREITも何らかの形で参加すると予想されます。最近では東急不動産の銀座東芝ビル取得、森トラストの虎ノ門パストラル取得など大手が大型物件の取得し大型再開発を進めるようです。こうしたプロジェクトには、それぞれの系列REITも参加し、魅力的な大型案件をポートフォリオに組み込んでいくことで成長していくと思われます。
全REITの配当利回りは平均で4.42%ですが、上位大型REITは2%台、一方下位小型REITでは6%台です。PBRは平均1.37ですが、利回りと同様に上位大型REITは2倍前後、一方下位小型REITでは0.9倍前後という格差。下位REITの不人気は顕著で、ファイナンスもできず、こうしたREIT市場全体の傾向が変わらない限り、下位リートは本当にM&Aでの局面打開が必要かもしれません。
新興系で健闘しているのは、潟Pネディクス系のケネディクスREITとダヴィンチ系のDAオフィスREIT。時価総額で10位と11位、PBRでも1.38と1.43と平均水準です。新興不動産企業では一段抜けた強さを見せている母体企業の力を反映した形です。ただ配当利回りには極端な違いが出ています。ケネディクスは3.4%に対して、DAは6.5%です。ダヴィンチはいろいろ世間を賑わす企業でその系列REITのブランド力・人気はまだ弱く、上乗せ金利を要求されているものの、大型物件(芝パークビル(通称軍艦ビル)、PCCWビル、虎ノ門パストラルにも参加)を次々取得するパワーと、噂に聞く強烈なテナント向け賃料上げ交渉力で、非常に高い収益を上げて配当しているということでしょうか。
信用力や格付けを反映した価格、利回りという面もあるにせよ、現状のREITの価格形成はやや非合理的で、アービトラージ機会がありそうです。M&Aも可能性はありそうで、イベント型投資機会としてもREIT投資を検討する投資家は増えてきそうです。