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コーヒーブレイク 〜 日本企業の進む道は 〜
株式会社フィナンテック IRコンサルタント 深井浩史(CFA協会認定証券アナリスト)

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今年証券市場で最も活躍したうちの一人である、いちごアセットマネジメントのスコット・キャロン社長にお話を伺いました。前回、2月にインタビューして、ご紹介した際は、東京鋼鐵の委任状争奪戦が終盤を迎えている時でした。今回(12/10)は折しも、投資先の潟pトライト(9/14の大量保有報告書では9.82%保有)において、6月の総会で経営権を取り戻したオーナー家側が、さらに今MBOを目指してTOBを実施している最中でした(12/17まで)。今回のTOBはいちごアセットが主体のアクションではなく、TOB期間中でもあることから、この件については触れませんでした。ただ、その結末と、どう投資判断をしたのか興味深い点ではありました(結果は末尾に記載)。

今年は米国系のスティール・パートナーズ、ダルトン・インベストメンツなどの投資家は、企業に対してMBOを要求したり、TOBを仕掛けるなど、一方的に強硬なアプローチを仕掛ける姿勢が目立ちました。一方、英国など欧州の投資家を見ると、株主総会での大幅増配要求、社外取締役の選任などを要求、さらには、オートバックスセブンのファイナンスの差し止め請求など、比較的手順を踏んで、他の少数株主にも賛成を求めるような形でのアクションが多かった印象があります。

12月15日の日本経済新聞には、英国の運用会社や年金基金などが日本企業にコーポレート・ガバナンス改革を求めるための組織「日本フォーカスグループ」を創設したとあります。また英国の運用会社であり議決権行使助言サービスなども行うGovernance for Ownersも東京事務所を開設し、国内最大手機関投資家からスカウトしたガバナンスの専門家を日本代表に据えて活動を積極化しています。これも個人的な印象ですが、スティールなどの米系ファンドは、自由度は高いが取り締まりは緩い日本の証券市場のスキをついて収益を虎視眈々と狙っている。英国を筆頭とする欧州投資家は、我々が推進する西欧風の進んだ企業統治を取り入れるべきだ!と正面から要求してきているという感じがします。

そうした中で日本の企業はいかなる企業統治をしていくのか???。米国出身で米国の社会・文化の中で価値観を形成してきた外国人として、また日本に長く滞在し、尊重する日本の価値観も取り入れてきて、日本に深い関心・知識を持つ個人として、さらに日本が世界で一番のバリュー投資の機会であり、ここでモノを聞く株主、として投資していくというキャロン氏にプロの機関投資家としての観点からお話を伺いました。

Q. 英国風に言うところの“Responsible active ownership(責任を持ち行動する株式所有者)”のOwnerとして、いかに責任を果たすのですか?

― プロの投資家は個人投資家の代弁者として行動する責任がある。個人投資家はリソースが限られているし、取りうる行動も非常に限定されている。

Q. 日本企業はどのようなコーポレート・ガバナンスのシステムを構築していくのがよいのでしょうか?

― 最初に申し上げたいのは、国の横並びは必要ないということ。アメリカの統治も欧州の統治も真似る必要はない。日本は日本らしいルール、システムを構築しなくてはならない。今の日本のルールが日本の国民のために機能しているか?と問えば、残念ながら十分機能していない。

文化、社会的には世界トップレベルなのに、資本市場は世界的に中低位。株式のリターン、配当性向、国債の利回りなど多くの面で日本の市場のリターンは低すぎる。これは海外投資家でなくて、自国国民のために不実である。少子高齢化進行で年金不安も高まっている。対策として年金給付を下げる、あるいは消費税など税率を上げるなどの検討がされている。しかし、その政策はお金の余裕が少ない方々に大変な痛みを付けるので、それよりも国内の資産効率を上げる、投資のリターンをあげることが重要。それで多くの問題が解決できる。経済大国日本はこれができるに違いない。これまで蓄積したストック資産が豊富にある。これらの再活用、効率的な利用をすればまだまだリターンは増やせる。肝心なのは経営者の自信の問題だ。経営者に対するインセンティブ、モチベーションが不足しているように感じる。企業を上手く経営して社会、国民に富を還元している経営者はもっと賞賛されていい。そうした仕組みが必要である。企業の使命は三つあると思う。

@安定雇用
A良い商品とサービスの供給
B社会・国民の資産への貢献。
これは利益を上げて企業価値、株価上昇、配当増加による。
  この三つをバランスよくやらないといけない。

Q. 海外投資家の間では、将来性も含めて日本の株式市場に対する評判が良くないようですが?

― 日本の市場、企業行動は着々と変わってきている。しかし、海外ではまだそれが認識されていない。でも日本こそは世界で一番のバリュー投資の機会である。日本の投資家の皆様はここで世界一のリターンを上げていけると信じている。

Q. Responsible active ownershipを実践するために、1つの銘柄についてどのくらいの比率を保有するのですか?

― 5〜10%くらいが良いと考える。責任ある投資家として活動するには、ある程度の資金を投資して、それを継続保有していく。そうすると簡単には売れなくなる。投資家としてもコミットメントを示し、長期に渡り、経営者と人としてのつきあい、互いに信頼しあうような関係を持ちたい。

Q. 中小型株が投資対象だが、新興株は買わないのですか?

― バリュー投資家として、しっかり経営してきたトラックレコードのある企業、経営者、優良なストックのある企業に投資したいので、原則としては新興企業に投資していない。

Q. Responsible active ownershipを実践するには、運用資金の出し手、誰のお金を運用しているかも重要と思います。御社はどうですか?

― 確かに資金の出し手は重要である。今は年金基金の顧客がずいぶん増えた。こうした資金で長期投資をしていく。

Q. ヘッジファンドの短期志向が市場をゆがめているという批判があり、ヘッジファンドを規制するべきだという意見が強くなっていきているが、どう思いますか?

― 市場参加者の短期志向に良くない点はあるが、何より長期投資で利益が上がらない市場自体に問題がある。長期で見て健全なリターンが得られる市場であることが重要だ。その上で、長期投資を優遇するような仕組みはあってもいいと思う。例えば、米国では投資期間の長短でキャピタルゲインの税率が違う。1年内の売却は一般課税、一年超は税率の低いキャピタルゲイン課税になる。日本の投資家にも長期保有を促すために、そのような仕組みはあってもいいかもしれない。

Q. これも以前のインタビューで、いずれ会社をIPOさせたいと言っていたが、今も同じですか?

― 投資先の企業と同じ苦労をしている、相手の立場が良くわかる、ということは重要であると思う。しかし運用会社が上場していることがいいのかどうかはまた別な観点で考えなければいけない。また実際に上場するのは大変なことだろう。

<インタビュー後日談>
今、書店に並んでいる本で「株式会社はどこへ行くのか」(著=上村達男・金児昭)という日本の企業統治、証券市場、法制度についての対談本があります。企業法務研究の第一人者である早稲田大学法学部長の上村氏と、元信越化学工業常務取締役で経済・経営評論家の金児氏の熱い議論が載っています。

これによれば、アメリカは非常に会社の自由度は高いが、一方で非常に厳しく強力な取締の仕組みを整備している。一方、欧州型の企業・市場統治は自由度を低く抑えている。いずれの立場も国民の財産を守ることを根本的な目的としており、国民の資産・生活を脅かすような行為は厳しく規制する、あるいは取り締まる仕組みがある。

しかし日本は、本来景気対策的な既成緩和策を新会社法で恒久的な制度としてアメリカ流の大きな自由を市場参加者に与え、規律を緩めた。しかしアメリカには存在する厳しい取締の仕組みを欠いているため、制度を悪用した金儲けを考えるものが出てくる。日本は、日本国民の利益・社会の繁栄を第一に、アメリカ型でも欧州型でもない、日本に相応しい企業統治ルールを構築する必要があると結んでいます。

今回お話を伺ったスコット・キャロン氏も、同様の日本的な仕組みの下、日本企業は日本国民のために、国民の資産を増やすために努力しないとならない。それを実践する経営者は高く賞賛されるべきだ、と言っています。日本国民のための日本的な仕組み(法律・企業統治・経営戦略・人事制度・社会貢献・・・・)。これは国内の市場に関わる人たちが協力して、ぜひ創り出していかなければならないと考えます。

(株)トライトのTOBは12月17日で終了。結果は買付者(オーナーの資産管理会社)が94.97%を保有することになり、上場廃止、MBOは成功となりそうです。いちごアセットは、6月の総会で経営権を取り戻したオーナー家経営者を支持するというリリースを8月に出していましたが、オーナー家経営者の強いMBO意思に理解を示し、今回のTOBにも応じて持株を全て売却しました。

過去のインタビュー記事はこちら⇒ http://www.tokyoipo.com/column/07guest2007.htm

コーヒーブレークのブログ書いています。 http://ameblo.jp/mplstwins/

株式会社フィナンテック IRコンサルタント 深井浩史
(CFA協会認定証券アナリスト)

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