株式・債券・商品、現物・先物・信用(証拠金)、売りも買いも、日本物・海外物、何でも1つの口座で可能なとっても便利な投資。それがCFD取引です。英国から日本に進出してきたCMC Markets Japan (以下CMC Markets)が今年4月からCFD取引の提供を開始しました。昨年の夏にCFDに先駆けてFXのサービスを開始しましたが、日本で本腰を入れてやっていくのは、このCFD取引です(CFD取引:Contract For Difference、差額決済契約の略。現物株、商品、債券、指数などの原資産の値動きをそのまま反映しながらも物理的に原資産を所有することはなく、売買の価格差だけを決済します)。
取引をするにあたっては証拠金を口座開設先(CMC Markets)に預けて、その証拠金の最大100倍の額面の原資産の売買をすることができます。レバレッジも取引手数料も対象原資産によって異なります。また買いの場合は金利負担があり、売りの場合は金利受取が発生します。このあたりは信用取引と同じです。CMC Marketsのような事業者が顧客の投資家の取引のカウンターパーティーとなり、市場で反対売買をしてポジションは取りません。この点はFXなどと同じ仕組です。各国で提供する商品に大きな違いはありませんが、株式の取扱い銘柄にはある程度、それぞれの国の投資家のニーズを反映して増やしていくそうです。日本株式の取扱い銘柄は、現在は日経225銘柄のみですが、将来的には銘柄を追加していく可能性はあるそうです。取引時間はそれぞれの原資産の取引市場の時間に合わせています。世界中の資産を扱うだけに、平日は24時間何らかの取引が可能です。
このCFD取引、金融機関向けにはかつてはエクイティスワップという名前で以前から存在していました。これをCMC Marketsが2000年に初めて個人投資家向けに提供を始め、現在では世界70カ国で取引されている金融商品です。同社は1996年には世界で初めてオンラインFX取引の提供を始めたことでも知られる非常に革新的な企業です。英国から欧州各国、さらに米国や豪州などにCFD取引を展開し、アジアでもシンガポールや香港など英語圏には確固たる地盤を築いています。本国英国のロンドン証券取引所へのIPOを目指していますが、一方でゴールドマンサックス証券の出資を受け入れ(持分約10%)、世界的な事業展開を強力にサポートするパートナーも確保しています。
そんなCMC Marketsですが、個人の金融資産1500兆円の日本への進出には時間をかけました。英語圏での展開は共通のシステムが利用できる面が多いですが、日本では日本語インターフェースの開発に時間がかかり、今年満を持してのサービス開始となりました。一昨年に日本法人を設立し、昨年まずFX取引をスタートしています。そして今年サービス開始のCFDは大きな可能性を秘めています。日本でも2000年ごろからネットバンキング、ネット証券取引が普及し、さらにこの数年でFX取引が非常な勢いで浸透してきました。その結果、個人投資家のネット金融取引の習熟度の向上、金融知識の向上、リスクマネジメントが求められる証拠金取引に対する姿勢の変化、という点では機が熟した環境下での真打登場と言えるのかもしれません。実際にサービス開始後に同社が開催するセミナー参加者は増加傾向にあり、その参加者の評判は高いようです。国内のネット証券やFX業界の状況を見ると、独立系事業者が先行し、いずれ大手金融機関が参入して大激戦に。いち早くトップランナーとしての地位を確保したものだけが生き残り、中堅以下は再編淘汰。CMC Marketsもこれからの一定期間で、既存のネット金融事業者との連携も含めて、いかに多くの顧客を開拓し、囲い込めるかが勝負ではないでしょうか。
1つの口座・1つのインターフェースで、銀行取引、証券取引、FX、商品・・・なんでも取引できる、というのはすべての金融事業者が考える長期的なサービスの方向性だと思います。なかなか実現には時間がかかるでしょうが、ある意味でこれを既に実現しているのがCFD取引です。CMC Marketsは海外での顧客属性の分析結果から日本での想定顧客としても、比較的若い現役世代、アクティブなトレーディングをしている投資家をターゲットとして、これらの投資家が既に行っている株式、商品、指数取引などのリスクヘッジとしてのCFD取引の意義をアピールしていく方針のようです。CFDの先行した海外においてはヘッジファンドがこれを利用し、M&Aなどの際に影響を及ぼすことがある(下記のサイト参照)とか、投機性が強い取引であるとの批判もあるようです。そうした批判も出てくるのは、それだけ利用価値があり普及していることの証しとも考えられます。今後のCFD取引の成長に注目したいと思います。
*参考
野村総研「知的資産創造 2007年10月号〜M&A市場の撹乱要因となっているCFD取引」
http://www.nri.co.jp/opinion/chitekishisan/2007/pdf/cs20071010.pdf
CMC Markets Japan HP
http://www.cmcmarkets.co.jp/
コーヒーブレークのブログ書いています。 http://ameblo.jp/mplstwins/
東京IPOスタッフ CFA協会認定証券アナリスト 深井浩史