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東京IPOトップインタビュー:セレンディップ・ホールディングス(株)(7318・東マザ)

セレンディップ・ホールディングス株式会社(2021年6月24日上場 /東証マザーズ 7318)


セレンディップ


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セレンディップ・ホールディングス株式会社は、中小企業の「経営の近代化」を推進し、M&Aによる事業承継とプロ経営者の派遣を事業の中核とする。国内の企業のうち99%を中堅・中小企業が占める。こうした企業の後継者不足や経営者の高齢化、経営ノウハウ不足は、日本の慢性的な社会問題にもなっている。ここに新たな事業の可能性を見出したのが同社で、最近では現場改善に長けた経営陣を派遣する再生支援のニーズも高まっているという。2006年に同社を設立した代表取締役会長 ?村徳康さんに、2014年に代表取締役社長 竹内在さんが参画した。金融と経営、それぞれに異なる分野で経験を積んだツートップ体制で中堅・中小企業をM&Aで買収して事業を承継、経営に悩むオーナーがプロ経営者にバトンを渡せる土壌をつくる。ともに汗を流す事業スタイルで経営改革を主導し、着実に成長する企業へと導く高村さんと竹内さんに、事業を手がける背景や思いを伺った。







ベンチャー支援から突然舞い込んだ赤字のベーカリーチェーンの立て直し

セレンディップHDが転機を迎えたのは赤字のベーカリーチェーンの事業を立て直した2013年のこと。設立当初から手がけてきた、ベンチャー企業を対象とする経営コンサルティングや事業再生支援、IPO支援という事業から、自らM&Aで事業継承し、ものづくりに優れる中小企業を自らの手で成長路線を描く事業へと大きく舵を切るに至った買収案件であり、竹内さんが参画を決めたきっかけとなった。

セレンディップ2

↑左から、代表取締役社長 竹内在さん 代表取締役会長 ?村徳康さん

このベーカリーチェーンは、国内に70〜80の店舗を抱える中堅企業。店舗で焼成して販売する生地を冷凍した状態で工場から出荷するスタイルで、大手スーパーで店舗を展開していた。このベーカリーチェーンを2013年に高村さんと竹内さんが個人で買収し、100%のオーナーシップのもと、わずか6ヶ月で黒字化、12ヶ月でエグジットに成功してみせた。

2人が個人で買収したのは、当時、同社が手がけていたベンチャー支援事業とも性質が異なる領域であるという経営判断によるものだ。このベーカリーチェーンに社長として参画した竹内さんは、買収する価値を見出せた理由をこう話す。「サプライチェーンに勝算がありました。工場、センター倉庫、物流ネットワーク、消費者に近い店舗もある。それだけ手を入れる場所がありますし、改善し甲斐のある会社でした。店舗ごとの売り上げ分析もできていたし、経営が改善した時のリターンは大きくなるという見込みがありました」

優れた技術や事業基盤があるにも関わらず、後継者や経営ノウハウの不足により、赤字体質に陥る中小企業は少なくない。また、M&Aを経営戦略の中心に据える企業もまだまだ少ない。ここにテコ入れして「磨けば光る中小企業のポテンシャル」を、高村さんと竹内さんは、ベーカリーチェーンの買収で確かめる格好となった。こうした1社1社の個性を見極めながらの中小企業の経営改革において、2021年6月に上場を迎えるまで11社11連勝で黒字化に成功している。高村さんは「中小企業のオーナー社長からセレンディップになら引き受けてもらいたいという指名を受ける機会が増えた」と、事業に対するニーズの高さに手応えを感じている。

ベンチャーにはない中小企業の骨太な成長ポテンシャルに着目

「社員は真面目だが経営力が衰えている。経営を見直せば輝く会社はたくさんある」と、高村さんと竹内さんは声を揃える。同社がフォーカスするのは、国際競争力あるサプライチェーンが強固な自動車業界を支える製造業の領域だ。「サプライチェーンが強固というのは、代替がきかないということ。この会社だからこそ作れる。この会社だからこそ、この部品の納品を任せられる」という生態系が産業構造に根付いていると高村さんは話す。こうしたサプライチェーンを支える国内の中堅・中小企業数万社が後継者不在に悩まされ、廃業に追い込まれる事態が起きているという。この問題に切り込み、産業構造の課題解決に挑むのが同社のミッションでもある。

「日本は経営者を育てる文化が遅れている。これが痛手で、後継者不在に繋がっている」と高村さん。「経営は練習と経験。プロの経営者は育てることができる。ここを若手が担うようになると、設立当初のベンチャー支援事業に通じるものがある」と続ける。

また、中堅・中小企業の経営の近代化にM&Aが重要な役割を果たすと考える一方で、「M&Aが経営戦略になっていない。ゼロから作り上げるところに価値観が寄せられている」と竹内さんは見る。竹内さんが在籍していた米オラクル社は当時でも年間に20社以上買収していたといい、2週間に1社のペースで新しい技術を持った会社が傘下に入ってくる計算になる。これは「シリコンバレーでは当たり前の経営戦略で、自社でゼロから作り出せる人材も資金もあるとしても、M&Aをすれば時間を買うことができる。これを合理的と見るか否かでしょう」

ゼロからイチを生み出すベンチャー企業は、事業アイデアの持ち主である創業社長個人に経営判断が委ねられることが多い。また、投資をしても資本の原理として持株比率が5%にとどまれば、投資家に経営ノウハウがあろうとも、アドバイスを聞き入れてもらえる可能性は低い。一方、ある程度の基盤がありながらも立て直しを迫られる中小企業は、後継者不在であったり、経営ノウハウが不足したりといった課題を抱えていることが多い。組織という集団の経営課題を改善するというところに、同社の強みが生かされる。




個人投資家へのメッセージ

M&Aで長期成長を目指すビジネスモデルです。経営の変革は一夜で成せるものではなく、従業員との会話、取引先との信頼関係の継続、確かな経営者にバトンを渡したいというオーナー社長の願い、事業を取り巻く環境、さまざまな要素から、未来を導き出していくわけです。セレンディップHDは、国際競争力ある国産の「ものづくり」を「経営の近代化」で支えてまいります。長い目で見守ってください。




編集後記

高村さんの座右の名は「鶏口となるも牛後となるなかれ」。父親から「小さな会社でも取締役や経営者にならないと面白くないぞ」と幼い頃から聞かされてきたそうです。面白いことばかりではなく、トーマツ監査法人時代に築いた広い人脈が、セレンディップを起業した時に95%の人が歩き去った2006年の苦労は今でも忘れられないそうです。

竹内さんに苦労話を伺うと、あまり感情に抑揚がなく「苦労は仕事。マネージメントの役割」と割り切っているというコメント。恐れることがあるとしたら、正しい判断を下すのが遅れることだと言います。読んで面白かった本は、セールスフォースの創業者であるマーク・ベニオフ著「トレイルブレイザー」で、経営者としてのスタンスが興味深かったそうです。コマツの創業者である竹内明太郎を曾祖父に持つ竹内さんは、「工業は富国のもと」という信念を引き継ぎ、「日本の製造業を元気にしていきたい」と意気込みを見せます。

 

(掲載日 2021年7月30日)


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