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東京IPOレポート特別編:「ドローン視点で読み解く未来航路2020 Vol.2」

未来学者 小林一郎氏 x 農業総合研究所 及川智正氏 対談


「IT x物流による農産物流通プラットフォームの台頭」


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農業はドローンの産業利活用が進んでいる分野の一つで、2020年には4兆円規模になると目されている。また、担い手不足を補うIT技術としても期待が集まっている。特に、農地と住宅が混在する小規模面積の近郊農家では、地上約1メートルから正確に農薬散布できるほか、近隣への飛散を防げるため需要が高い。

搭載する赤外線カメラで作物の水分保有率を調べたり病害虫を効率的に除去することができるなど、利用範囲は幅広い。日本の農業を変えるべく農業総合研究所を2007年に立ち上げ、ITと物流を駆使した農産物流通プラットフォームをつくり、2016年には農業分野で初の東証マザーズへの上場を果たした起業家、同社代表取締役社長の及川智正氏に「農業の今」を聞いた。

聞き手は連載の第一回に登場した、一般社団法人 ドローン操縦士協会(DPA)理事長であり未来学者の小林一郎氏が務めた。




スーパーマーケットの青果売り場で見かける「農家の直売所」。農協とも協力体制を組みつつ、約1200店舗へ全国展開する。これを手がけるのが農業総合研究所で、「生産者が儲かる仕組みを作りたい」というのが及川氏の狙いだ。

 

農業での起業を志してキュウリ農家に

(小林)農業総合研究所の事業構想は本社の和歌山で生まれたのでしょうか。

(及川)僕は東京農業大学出身で、農業関係の仕事に就きたかったのですが、バブルがはじけた就職難の時期だったこともあり、その思いは叶わず、産業用ガスを扱う商社に入社しました。東京で就職して栃木で営業をしていました。営業は楽しかったですし、そのまま営業の仕事を続けようかと思ったこともありましたが、農業への思いは変わりませんでした。

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(↑農業総合研究所 代表取締役社長 及川智正氏)

そんな折に結婚相手の実家が和歌山でキュウリ農家をしていたため、寿退社して和歌山に移り、キュウリづくりに専念。農協に納める日々が続くなか、「自分が育てたキュウリは農協の先の消費者までどうやって届くのか」を考えるようになり、2年目には生産から販売を手がけ始めました。その時の年収は企業に務めていた頃の10分の1以下。農業の担い手不足は深刻化していますが、儲からないところに人は集まりませんし、集まっても続きません。

生産者が儲かる仕組みを作ろうと立ち上げたのが、農業総合研究所です。創業から9年、2016年に東証マザーズに上場してからは、大手との業務提携も加速しています。例えば、空輸。日本航空と業務提携して、日本の農産物を世界のスーパーに流通させています。この他、日本郵政と提携して、農産物の集荷拠点として、郵便局を使うといった取り組みをしています。すでに確立したサービスと連携することで、スピード感をもって農業の新しい市場を生み出そうと取り組んでいます。

農業ベンチャー初の上場を果たす

(小林)農業ベンチャーを育てようという、まさに国策モデルと言えそうですね。

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(↑ドローン操縦士協会 理事長 小林一郎氏)

(及川)ありがたいことに農業ベンチャー初の上場を果たすことができました。同時に、農業大国でありながら、我々よりも前に上場できるプレイヤーは本当にいなかったのだろうかという疑問もあります。農業でビジネスが成り立つ世の中に変えていくことが、僕らの使命だと感じています。

農業ベンチャー同士のシナジーも生まれると思いますが、競争なしに市場は育ちません。そういう意味でも新陳代謝を促すような存在でありたいと思います。ビジネスだけで世の中を動かすことは難しく、政治と経済、ビジネスが融合して世の中は変わっていくものだと考えています。そのバランスを取っていきたい。

生産者が儲かる流通の仕組みを作りたい

(小林)農業にITを活かそうと取り組まれています。その狙いは?

(及川)最近、農業も職業の選択肢として話題にはなってきています。ただ、「農業=生産」と考える人が多い。「どうやって生産性を上げるか」とか「いかにいいものをたくさん作れるか」にフォーカスが当たりやすいのですが、現実はいいものをたくさん作っても儲からない分野です。「豊作貧乏」という言葉があるぐらいですから。これを突き崩すべく突破口を考えなければなりません。その一つが、いいものをたくさん作れた時に、ちゃんと生産者が儲かる流通の仕組みです。これがない限り、いくら生産性を向上させても、生産者は浮かばれません。

悪いことだとは思いませんが、「農業は儲からないけど安定したモデル」として定着しています。ただし、農業が儲からないのではなくて、農業で儲かっていない人があまりにも多いから、そう見えるだけなんです。農業を去る人もいれば参入する人もいるといった、人材の流動性も低い。農業を選ぶ人に農地と時間とお金が集まるようになれば、日本の農業はもっと発展すると思います。

農業は作ることだけが仕事ではなくて消費者に食べてもらうこと。そこに価値が生まれ、それを農業の使命だとすれば、実現可能な土壌を育てるのが僕らの仕事です。

(小林)最終的な落とし込みというのはプラットフォーマーになるということでしょうか。

(及川)僕らは今、流通のプラットフォームを構築しようとしており、投資家さんからは「リアル楽天」「リアルアマゾン」と言われます。彼らがインターネット上で物が売れる仕組みを作っているように、僕らはITを活用してリアルで物が売れる仕組みを作ろうとしている。このプラットフォームをITだけではなくて物流を絡めて築いている。ここが、僕らが評価をいただいているところです。

農業でこれができれば、水産業でもできると思いますし、畜産でもできると思います。絵画でもできると思います。売りたいお店と買いたいお店がある限り、広く波及できればと思っています。

農業ベンチャーが見るドローンの行方

(小林)ドローンの産業利活用に関しては農業分野に一番発展性があると言われています。ダム、橋脚、トンネル、下水道管といった駆体インスペクションにIT技術を使う「i-Construction」に匹敵する市場規模で、2020年には4兆円ぐらいになると目されるほど、需要としては大きい。

「精密農業」や「スマート農業」と言われるように、作物の生育状況をドローンで調べる技術は進んでいます。DPAでも「ドローンベリー」というブルーベリーの生産に協力したことがあります。ドローンベリーはすぐに完売し、市場からは「明るい未来を感じる」という声をたくさん頂きました。

農業で一番注目されているのは農薬散布です。約1メートルの高さからピンポイントで散布できるドローン活用に需要がある。1ヘクタールを約10分で散布できることも評価されています。肥料の散布場所や水分補給量などはセンシング技術でわかりますので、人手不足の農業の合理性向上が期待されています。とはいえ、活用が少しずつ広がってはいるもののまだまだ改良の余地は大きいのが現状です。

(及川)まだ農業の現場でのドローンの活用は試験段階で、普及にはまだ時間がかかりそうです。試験的に使いながら、どんどん現場で使って、現場から声を吸い上げていかないと、いいものはできないと思います。農業と一言で言っても、野菜、果物、花、お米があります。野菜農家にはトマト農家もあれば、キャベツ農家もあるため一緒くたにはできないので、作物ごとのニーズにも対応できる技術革新が求められるのではないでしょうか。

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(掲載日 2018年9月28日)


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