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代表権の無い社長が急増中!
株式会社ティー・アイ・ダヴリュ  代表取締役 藤根 靖晃
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「社長」と言えば「代表取締役社長」が当たり前と思っていたら、最近、代表 取締役では無い「社長」が急増しているようである。ご年配の方はご存知だと 思うが、昔は社長に代表権(=代表取締役)のあるのが当たり前だっただけに 、名刺の肩書きは、「取締役社長」とだけ表記するのが一般的であった。実際 に今でも証券会社などの金融機関や伝統的な企業では「取締役社長」と表記し ている。 しかし、新興のベンチャー企業で「取締役社長」の名刺が増えており、念のた め確認を取ってみると「代表取締役」ではない場合がその殆どの場合である。 何故、「社長」から代表権が無くなってしまったのであろうか? それを考察する前に「社長」に代表権の無いパターンを挙げてみると次の2つの パターンが考えられる。@代表取締役では無いけど商法上の取締役の場合。 この場合は、代表取締役会長が別に存在している。大体の場合、会長が企業の オーナーであり、実権を持っている。 A商法上の取締役でも無い場合 執行役員制を採用している企業に稀にある。「代表執行役社長」というような 肩書きで、別にCOOなどの表現が付いている場合もある。これも前述の場合 と同じように代表取締役である会長が存在する(CEOの肩書きを持っている 場合もある)。 いずれの場合もオーナー(大株主)である会長が代表取締役を持っている場合が 多いようである。古くは、会長は社長を退いた立場、又は親会社の社長(又は 所轄官庁からの天下り)という場合が多く、会長は通常は代表権を持たないも のであった。しかし、昨今の会長職は40歳代、50歳代と若く代表権を保持して いる。

さて、「代表取締役」であるのとないのとでは何が違うのか?について説明し ておこう。代表取締役の権限であるが、商法上では重要な意思決定は取締役会 によって決議を行い、これに対する業務執行の権限は代表取締役が有するとあ る。取締役会の決議事項は、1)多額の借入、2)新株の発行、3)株主総会の招集 、4)代表取締役の選任、5)その他の重要な業務執行、である。法律上は代表取 締役は執行権限であるが、役員会で仮に決定されても代表取締役が最終的に合 意(=代表者印を押す)しない限り決定事項が執行できない、というのが実際 では無いだろうか。このように代表取締役には強い権限が与えられていること を鑑みれば、代表権の無い社長がいかに心もとない存在であるかは明白であろ う。増してや取締役でない社長とは果たして何だろう(商法上の取締役でない と社長の名前が有価証券報告書に出てこない場合もあります)。

こうした意見に対して、米国流の「経営と業務執行の分離」のトレンドとして 前向きにとらえるべきである、と反論する方もおられるかもしれない。しかし 、米国の主要な企業を見る限りにおいては、ボードメンバー(取締役)に入っ ていない社長(President)は存在しない。実例を挙げよう。まずはマイクロソ フト。CEOはスティーブ・バルマー、ビル・ゲイツは会長兼CSA(Chief Softwa re Architect)、COOはジョン・シャーレイでこれら3人はいずれもボードメン バー(取締役)である。社長(President)の役職者はExecutive Officer(執行 役員)には居ない。インテル=アンドリュー・グローブ会長、グレイグ・バレ ットCEO、ポール・オティリーニ社長兼COOはいずれもボードメンバー。オラク ル=ラリー・エリソンCEO、ジェフ・ヘンリー会長、それに社長が二人、いずれ もボードメンバー。デル=マイケル・デル会長、ケビン・ロリンズ社長、いず れもボードメンバー。やや例外なのがHP(ヒューレットパッカード)=Execut ive Officerを兼務しているボードメンバーはキャリー・フォリナー会長兼CEO ただ一人。しかし、Executive Officerには上席副社長(Senior Vice Preside nt)は居ても社長(President)のポストは空席。GMもこのパターン=ボードメ ンバーは会長兼CEOのみ、Executive Officerに二人の副会長(Vice Chairman) と副社長(Executive Vice President)が存在する。ちなみにフォードは会長 、社長兼CEOともにボードメンバーである。こうして見てみると米国では、会 長(Chairman)並びに社長(President)という呼称はボードメンバーにのみ 与えられるようである(もし、良くご存知の方がいらっしゃいましたら教えて ください)。

さて、話を本題に戻すが、何故代表権の無い社長が増えたのか?何人かの方々 (会計士、ベンチャーキャピタリスト、IPOコンサルタント)と意見交換をした ものを以下に挙げてみる。 @人材の流動化が進み、外部から社長を招聘するケースが非常に増えた。 A外部から招聘した社長を本質的には信用していない。いざとなったら首を挿 げ替える。 B社長はIRに多大な時間を割かなければならなくなっており、その煩雑・繁忙 から逃れたい。 C投資家の発言権が増すことによって(特に公開企業やベンチャーキャピタル の投資先)は業績に対する責任が重くなっている。 Dコンプライアンス責任も重くなっており、不祥事が発生したら社長は辞任を しなければならなくなった。 E商法改正によって取締役会に重要事項の決議が株主総会から移行する方向に あり、役員の(オーナーに対する)造反リスクが高まった。 FM&Aが活発化する中で、買収先への支配力を強める必要性が増えた。

まとめれば、オーナー経営者が投資家等からの厳しい要求を回避しつつ、権限 だけは保持したいという “いいとこ取り”、と言えそうだ。 今後も投資家からの要求や社会責任の概念が強まる方向にあるだけに、代表権 の無い社長(=雇われマダム)は益々増えて行くのかもしれない。 また、経営の機動性を図るため、制度上の取締役会の権限が強化されてゆく中 で、現場の造反を防ぐために、オーナー経営者がプレッシャーから逃れるため の「盾」として、経営と執行の分離を御旗に、執行役員制を取り入れるオーナ ー系企業が増えるかもしれない。 極く最近に起こった、40%を保有する大株主の意向が完全に無視されて、敵対 的MBO(マネジメント・バイ・アウト)がまかり通ってしまったコールセン ター会社の事例は、こうした傾向に拍車をかけるかもしれない。極論を言えば 、授権株数に余裕があればたとえ100%子会社であっても発行済み株式の2倍超 の増資を行えば経営権を暴力的に奪取できる。多くのオーナー経営者、グルー プ会社を抱える企業経営者はあの一件には震撼したことであろう。

さて、最後に代表権を持たない社長は、またそうした体制をとっている会社は 投資対象として評価できるのか、ということについてであるが、例外もあるか もしれないが基本的には“バツ”だろう。執行役員制も有名大企業ですら上手 く行っている事例が殆ど見当たらないだけに、ましてやベンチャー企業では単 なる形式に過ぎず(それだけの人的なリソースがあるとは思えないだけに)意 味が無い。だからと言って、社長が代表権を持っている会社の方がいいかとい うと必ずしもそうは言えない。旧来型の企業もただのサラリーマン社長は多い 。オーナー系企業の非オーナー社長は実権が無く極論を言えば、傀儡であった り、単なるIRオフィサーであったりする場合もあるようだ。それに比べれば こうした体制とっている企業は投資家にとって誰が意思決定者であるかが分か りやすいだけに、逆説的に言えばディスクロージャー優良とも言えるのではな いだろうか(いちおう皮肉)。 株式会社ティー・アイ・ダヴリュ 代表取締役  藤根 靖晃 (私は「代表取締役」ですが、「社長」ではありません。弊社には社長という 役職は今のところありません)

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