東京IPO

English

東京IPOトップインタビュー:(株)カワニシホールディングス(2689・東1)

株式会社カワニシホールディングス(2000年12月21日上場 /東証1部:2689)


PDF版のダウンロードはこちらから


カワニシホールディングス


国内トップ5に入る医療機器商社のカワニシホールディングスは、2021年に創業100周年を迎える。創業の地である岡山県から中国・四国・関西・東北地域を中心に事業を伸ばし、2020年3月13日には東証二部から一部へと市場変更した。多岐にわたる医療機器の流通を手がけ、独自の目線で新しい市場を生む「医工連携」にも積極的だ。また、海外ベンチャーの技術を導入し、呼気による乳がん検出システムの臨床試験を国内で進めるなど、世界に先駆ける開発への投資にも力を入れる。医師として医療現場を知り、企業家として医療現場を支える同社の代表取締役社長の前島洋平さんに話を伺った。






新たな市場を生み出せる医療機器ディーラーの強み


昨今、全国各地で「医工連携」が加速している。医工連携とは、医療現場の困りごとを工学などのものづくり技術で解決する取り組みをいう。長い歴史を経て、ここ数年の医工連携は、製品の企画段階から市場展開を見据えた事業構想が求められるようになった。ここに、カワニシHDの強みがあるという。


医療機器産業は、主に製造販売業(医療機器メーカー)、販売業(ディーラー)、製造業、修理業、賃貸業で構成される。その中で、カワニシHDはディーラーにあたる。複数の医療機器メーカーの製品を横断的に扱い、医療機関に卸す。言わば、医療機関にとっての目利き役であり、医療機器メーカーにとっては医療機関とのパイプ役というわけだ。


カワニシホールディングス前島氏


↑代表取締役社長 前島洋平


医療現場には、「こんな機能があれば」「ここを改良したらもっと使いやすくなるのに」といった医療機器に対する開発ニーズが溢れている。同社の営業社員は、日頃からそういった声を医療従事者から吸い上げ、社内に蓄積する。


かつての医工連携は、医療従事者がものづくり企業に直接掛け合い、製品開発を進めるというのが主流で、「医療に貢献しよう」と熱い思いで取り組むものの、販売の難しさに辛酸をなめるものづくり企業も少なくはなかった。製品が完成した後に、流通網を持った医療機器メーカーやディーラーに販売の相談を持ちかけても、仕入れや修理など販売後の体制にかかるコストとのバランスが合わず、製品化をしても“出口”にこぎつけられないからだ。


「医療機器は実用化まで、3年以上かかることが多いため、市場規模、顧客動向、類似製品など徹底した市場調査と販路開拓は欠かせません」と前島さんは強調する。新たな市場を生む医工連携において、カワニシHDが販売戦略を視野に入れた企画力に定評を得ているのは、地道な営業活動を通じて開発ニーズを把握し、市場規模や医療技術のトレンド、競合する製品の分析調査ができる体制が培われているからと言える。同社は、ものづくり企業や医療機器メーカーと開発の初期段階から連携し、地域産業支援機関の支援を活用しながら、最終的には医療現場で実際に使われる場面まで落とし込んだ製品開発を徹底する。


苦痛から患者を解放する医療機器開発に着目

同社が手がける案件は、医工連携の中でも事業化のフェーズに差し掛かるものも多い。公的産業支援機関から市場調査や販路開拓支援の商談会を受託することもある。その事例の一つに鳥取大学医学部附属病院がものづくり企業と共同で開発した、胃や食道の内視鏡検査で内視鏡スコープを挿入する時の吐き気を感じにくくする「Gagless マウスピース」がある。内視鏡スコープの挿入口のあるマウスピースを前歯で噛んで固定する従来品に対し、奥歯で噛んで固定するデザインだ。咽頭反射が84%軽減され、その結果、患者は吐き気を感じにくくなる。同社はこの「Gagless マウスピース」の事業化を手がけ、現在、国内総代理店を務める。

この他、同社が世界初を目指している開発がある。すでに国内での実証試験を終え、今後の大規模臨床試験を経て、2022年の上市を見据えるのが、「呼気」で乳がんを発症しているかを判定する医療機器で、イスラエルのベンチャーと提携して開発を進めている。開発品は口紅ほどの大きさのサンプラーに息を吹き込むという簡便さで、もちろん患者に痛みはない。現在の乳がん検診はマンモグラフィで行うため、痛みを伴う上に放射線被曝も懸念されることから受診率が低いのが実情だ。乳がんは日本で年に約9万人が発症し、約1.4万人が命を落としている。患者は40歳代に多く、社会的にも問題になっている。同社の取り組みがこれを打開する一手になることに期待が高まる。

吐き気や痛みなど身体的苦痛を伴う検査は、患者の受診率を下げる原因になりうる。同社は、検査を受けるハードルを下げるための医療機器の開発と普及に努めることで、社会に貢献する。

人財育成、物流、ITの推進を事業成長の基盤に

「グローバル・ヘルスケア・カンパニーとして200年続くサステイナブル企業でありたい」と話す前島さんは、事業継承により岡山大学病院で腎臓内科専門医・教授として医療機器を使う立場から、供給する側に転じている。前島さんが抱いていた「腎臓病学を究める」という志も次第に「自社の公共的存在価値を高め、国民の医療レベルの向上・健康長寿社会の実現に貢献する」に変わっていった。

また、研究、臨床、教育を中心とした生活から、企業経営への大転身でもあったわけだが、事業領域が医療機器であることから、比較的スムーズに順応できたという。「今は、医療従事者が顧客です。長年医師として医療に従事してきたので、顧客視点から現場ニーズを把握し、医療現場の課題解決に貢献するサービスの提供を心掛けたい。そのための社員教育にも力を入れています」(前島さん)。

東証一部への市場変更の準備を進めるとともに、2019年の春以降は身にまとうことがなくなった白衣に、医療従事者が患者と向き合う姿を思う前島さんは、「カワニシグループは社員一丸となって医療を支え、医療を取り巻く社会に貢献する企業経営で事業成長を目指してまいります」と意気込む。

同社は、海外展開も視野に入れ、医療・介護機器の販売のみならず、ロジスティックスの効率化やITを活用した予防・検査・診断・治療から介護までシームレスなヘルスケア事業を、サステイナブルに展開する体制構築を進める。また、イスラエル発の呼気による乳がん診断システムに続く先端的海外医療技術の国内導入も積極的に行っていく構えだ。

医療機器ディーラーとして、SDGsの17の開発目標のうち、『すべての人に健康と福祉を』『産業と技術革新の基盤をつくろう』『パートナーシップで目標を達成しよう』という3つを、医療・介護機器流通、呼気診断などの最先端技術の投入、医工連携を通じて実現を目指す。

(掲載日 2020年5月25日)


その他のインタビュー記事はこちら>>