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コーヒーブレイク 〜(株)フェローテック(JASDAQ 6890)の研究(第2回) 〜
東京IPOスタッフ CFA協会認定証券アナリスト 深井浩史
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2.フェローテックの過去

個性豊かで強いリーダーシップを持つ山村章が社長率いるフェローテックですが、オーナー企業ではなく、過去の資本の変遷は非常に興味深いものがあります。当社は米国フェローフルイディクスの日本法人として1980年に設立、以来、山村社長が経営にあたってきました。それから30年近くが経過し、売上高は2007年3月期で320億円まで拡大してきました。

この間、フェローテックは何度か大きな変化を経験しています。1987年(売上高24億円)には米国親会社の経営が厳しくなり、日本法人を売却することになりました。そこで山村社長は、日本合同ファイナンス(現在のジャフコ)や大株主であるクボタなどをパートナーにMBOを実行しました。その後1996年(売上高36億円)にJASDAQ市場に上場を達成。そして1999年(売上高56億円)、米国ナスダック市場に上場する元親会社のフェローフルイディクスをTOBにより子会社化するという大胆な買収を仕掛けて、これを成功させました。

成長するフェローテックが活躍の場を世界に広げるに連れて、元々の親子間の競合が強まるという状況を解消することが大きな目的でした。この買収で当社は米国から欧州にかけての市場を獲得し、さらに成長が加速しました。その結果、2001年には売上高が一気に100億円を突破しました。近年耳にすることの多くなったMBO−IPO−TOBなどの大きな資本政策を、日本のベンチャー企業が20世紀のうちに実行していた事は見事、と感じます。

しかし2001年以降、当社は厳しい局面に遭遇しました。90年代までの当社は、磁性流体を利用した、PCやサーバーのHDDのモーター軸受けに搭載されるCPシールを世界に一手に供給することで利益の大半を稼ぎ、小さな組織で大きな利益を上げるエクセレント・スモールカンパニーでした。しかし悪く言えば一本足打法、次第にHDD軸受構造の革新的な変化が進み当社のCPシールは数年で需要は消滅し、商品寿命を終えることが予想される状況になりました。この難局における当社の対応策は・・・・。

経営者の一番重要な役割は、企業の戦いの場を定めることだと言われます。勝てる場所がどこなのかを常に見極めて、皆をそこに導くこと。勝てる場所に来たら、そこで頑張るのは幹部や社員層です。当社も21世期に入って直面した厳しい時期に大幅な事業ポートフォリオの再構築を進めました。経営陣のエレクトロニクス関係の技術の方向性や産業構造についての見識、洞察力に基づき、当社は磁性流体技術のCPシール以外の用途の強化、サーモモジュールなど新たな基礎技術の製品展開、中国に土地と人員を確保した上で生産要素技術の集約・移転した上で有技術・低コストの生産拠点整備によるCMS(受託製造事業)の展開を強力に推進しました。その為に三井物産を引受とする第三者割当増資、スイスフランCB発行、公募増資、銀行借入とあらゆる手段を用いて資金を調達し、投資を継続しました。

この間、予想通りにCPシールの収益は徐々に低下、中国への集中的な投資、生産の移管による投資の償却、金利負担、諸費用に加えて、SARS(サーズ)の流行、シリコンサイクルの低下局面も重なり半導体製造装置向けの真空シールは需要低迷、立ち上げた受託製造事業は歩留まりが悪く、大きな赤字・・・2002年3月期〜04年3月期までは3期連続の最終赤字という大変厳しい状況が続きました。

しかし必死の努力は報われました。その後、半導体サイクルの上昇、液晶をはじめとするFPDという新たな市場の拡大による真空シールと石英製品需要の拡大、自動車シート向という市場を開拓したサーモモジュールの急拡大、技術移転が完了し操業が安定した中国でのCMS事業も歩留まり向上で収益を生むという諸要因で、05年3月期以降は黒字転換を果たしました。そして07年3月期は過去最高の純利益を計上、08年3月期は経常利益で過去最高に近い水準を計画しています。この間に一時筆頭株主であった三井物産から、自社株買いを実施して自己株式を5%程度保有し、スイスフランCBの株式転換行使に利用し、発行済み株式の希薄化を軽減する金庫株にするなど、資本政策においてもやや余裕が見られます。

2000年以降について、連結全社の収益は勿論、セグメント別の利益、営業・投資・財務の各キャッシュフロー、設備投資と減価償却額、生産能力などの数値を時系列で見ると、会社の取組とその成果が如実に現れています。製造業の構造転換にはある程度の時間とお金を要することを再認識し、これをやり遂げるリーダーシップの重要性を痛感します。
(続く)

第1回はこちら⇒ http://www.tokyoipo.com/column/m20080130.htm

コーヒーブレークのブログ書いています。 http://ameblo.jp/mplstwins/

 

東京IPOスタッフ CFA協会認定証券アナリスト 深井浩史

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