Vol.79「投資家はなぜ先行投資企業を忌避したがるのか」
日経平均2万円台乗せが実現しない中で再び調整場面を迎えた株式市場ですが、短期投資家の心理を反映した相場展開と言えます。短期志向の投資家が多い日本の株式市場では企業との思いにズレが生じてしまいます。アグレッシブな企業は長期的な視野に立ってできるだけ高い成長を遂げるべく先行投資を行い本来の投資家の期待に応えようとします。先行投資には減価償却費の増加を伴う設備投資のほか人材投資、営業拠点の拡充、研究開発費、広告宣伝費など様々にありますが、思い切った先行投資を行った結果、期間利益を損なうケースも出て参ります。売上は伸びても先行投資で利益は減益になるという場合や極端な場合、赤字になるといったこともあり、そうした場合には短期的な視点で企業を単純に評価する多くの投資家は持ち株を売ろうとします。一方、長期的視点で保有する意向の投資家は中期計画への信頼性をベースにそうした売り物を下値で時間分散して投資しようとします。株価が短期には上がらないと見た短期投資家の売りと中・長期的に大きなリターンを上げようとする中・長期投資家の買いが入り株価は均衡していきます。
直近の事例では夢テクノロジー(2458)のケースが挙げられます。同社はエンジニアの派遣事業で着実な成長を続けてきましたが、IT業界の人員不足を見越したこれまで以上の積極的な人材採用に向け中期計画を思い切って見直しました。結果として人材採用の費用増、研修費の増加など先行投資が今期の業績見通しを下方修正に追いやりました。一方で中期計画の目標となる2019年9月期の売上高178億円、営業利益16億円、期末エンジニア数4200人へと事業規模を一気に拡大させる方向に舵を切りましたが、今期の営業利益、経常利益がこれまで見込んでいた6億円から1.8億円へと大幅な下方修正が示されたことで株価は大きく売られています。こうした株価の状況を見て今後、同社は投資家の理解を求めるためにIRを積極的に行うとしています。
また、直近のIPO企業のケースではバーチャレクス・コンサルティング(6193)が積極的な人員採用を行うことで売上は拡大を見込む一方で利益は前期を更に下回る減益見通しを示し株価は上場来安値水準に落ち込んできました。これも一定部分は先行投資の積極化が背景になっていますが、これに対して投資家の理解が進んでいないことが株価のトレンドを悪くしていると推察されます。同社はこうした状況下で上場後初のアナリスト説明会を5月31日に行う予定です。時価総額20億円という水準にまで株価の低迷が見られる昨年6月IPO企業の復活を期待したいところです。
一方、シロアリ防除のアサンテ(6073)は昨日決算説明会を開催しましたが、やはり人材の先行投資を図ったこととその効果が遅れたことで前期の業績が下方修正されたとの説明がありました。同社の場合は退職給付引当金の影響もあって期初から減益見通しを示していましたので、株価には相当に織り込まれていたと見られますし、投資家は中長期視点での投資に重点を置いた国内外の機関投資家や配当利回りの高さを目当てにした個人投資家だと推察されますので株価の変動は小さくなっています。何よりもIR活動に熱心なことも株価の安定感を増しています。ただ、ローリング方式で毎年見直しをしている中期計画目標がやや慎重になった点は気になるところではあります。
こうした先行投資による業績下方修正銘柄を短期投資家が嫌う理由はこれまでの経験則に基づいています。過去の経験でそうした銘柄は短期に株価の上昇が期待できないこと、PERなどの指標が短期的には通用しなくなるとの判断も働いてしまいます。また中長期的な事業拡大の方向性が十分に投資家に伝わらずに売り優勢で株価が形成されてしまいがちなことも投資家の売りを誘ってしまいます。もちろんポートフォリオ運用されている投資家は株価の見込みがない場合、思い切って業績の良い銘柄に乗り換えようとしますので、この場合も株価の水準に関わらず売り物が出やすいことになります。
中長期投資家はこうした短期投資家の売り物に対して時間分散を図りながら買い向かうスタンスでしょうが、未来の結果は誰にもわかりません。企業が先行投資をする意図を改めて確認して十分な理解をして頂ければ幸いです。
直近の事例では夢テクノロジー(2458)のケースが挙げられます。同社はエンジニアの派遣事業で着実な成長を続けてきましたが、IT業界の人員不足を見越したこれまで以上の積極的な人材採用に向け中期計画を思い切って見直しました。結果として人材採用の費用増、研修費の増加など先行投資が今期の業績見通しを下方修正に追いやりました。一方で中期計画の目標となる2019年9月期の売上高178億円、営業利益16億円、期末エンジニア数4200人へと事業規模を一気に拡大させる方向に舵を切りましたが、今期の営業利益、経常利益がこれまで見込んでいた6億円から1.8億円へと大幅な下方修正が示されたことで株価は大きく売られています。こうした株価の状況を見て今後、同社は投資家の理解を求めるためにIRを積極的に行うとしています。
また、直近のIPO企業のケースではバーチャレクス・コンサルティング(6193)が積極的な人員採用を行うことで売上は拡大を見込む一方で利益は前期を更に下回る減益見通しを示し株価は上場来安値水準に落ち込んできました。これも一定部分は先行投資の積極化が背景になっていますが、これに対して投資家の理解が進んでいないことが株価のトレンドを悪くしていると推察されます。同社はこうした状況下で上場後初のアナリスト説明会を5月31日に行う予定です。時価総額20億円という水準にまで株価の低迷が見られる昨年6月IPO企業の復活を期待したいところです。
一方、シロアリ防除のアサンテ(6073)は昨日決算説明会を開催しましたが、やはり人材の先行投資を図ったこととその効果が遅れたことで前期の業績が下方修正されたとの説明がありました。同社の場合は退職給付引当金の影響もあって期初から減益見通しを示していましたので、株価には相当に織り込まれていたと見られますし、投資家は中長期視点での投資に重点を置いた国内外の機関投資家や配当利回りの高さを目当てにした個人投資家だと推察されますので株価の変動は小さくなっています。何よりもIR活動に熱心なことも株価の安定感を増しています。ただ、ローリング方式で毎年見直しをしている中期計画目標がやや慎重になった点は気になるところではあります。
こうした先行投資による業績下方修正銘柄を短期投資家が嫌う理由はこれまでの経験則に基づいています。過去の経験でそうした銘柄は短期に株価の上昇が期待できないこと、PERなどの指標が短期的には通用しなくなるとの判断も働いてしまいます。また中長期的な事業拡大の方向性が十分に投資家に伝わらずに売り優勢で株価が形成されてしまいがちなことも投資家の売りを誘ってしまいます。もちろんポートフォリオ運用されている投資家は株価の見込みがない場合、思い切って業績の良い銘柄に乗り換えようとしますので、この場合も株価の水準に関わらず売り物が出やすいことになります。
中長期投資家はこうした短期投資家の売り物に対して時間分散を図りながら買い向かうスタンスでしょうが、未来の結果は誰にもわかりません。企業が先行投資をする意図を改めて確認して十分な理解をして頂ければ幸いです。
2017年5月18日 東京IPOコラムニスト 松尾範久