東京IPO特別コラム:「トランプ代替関税よりもヤバい、オイルショックリスク」

~語られないものを視る眼~

短信:トランプ代替関税よりもヤバい、オイルショックリスク

オリンピックやトランプ代替関税に、気を取られている場合ではありません。真剣にことの行方を注視せねばならない、大きなリスクがあります。それが、アメリカ・イスラエル連合VSイラン戦争であり、それに伴うホルムズ海峡封鎖により、同地域から日本への石油供給が止まるというリスクです。

12日間戦争後のアメリカ・イラン交渉
昨年の12日間戦争後、イランと米欧との間で、イラン核問題について協議が続いていました。イランは、ヨーロッパ勢がもはやアメリカを押える力を持たないことに苛立ちを隠しません。まだ近隣のアラブ諸国の方が、アメリカに対しアメリカ・イラン戦争は望まないと明言してくれますし、実際オマーン等が現在仲介に入っています。*

昨年はイスラエルと直接戦うにしても、アメリカとの全面戦争を回避しようと自制的な戦いをしました。しかし、アメリカは、その戦争でイランと直接軍事攻撃を行うことを厭わず、さらにトランプ大統領は、交渉中にこそ、軍事的圧力を最大限にするということも、イランは学びました。そして、今まさに、2隻目の空母を中東へ向かわせています。**

よって、イランは、近隣諸国に駐在する米軍を報復攻撃するといい、昨年自制していたホルムズ海峡封鎖の可能性に示唆しました。***そして、イスラエルに寝返った人々を粛清し、破壊された軍事施設をコンクリートで強化しています。****さらに、ホルムズ海峡を実際に一部封鎖し、ロシア海軍と共同軍事演習を行いました。*****

こうした状況下、アメリカとイランは外交的解決を模索中です。もちろん、この協議の行方は、当事者以外は分かりません。しかし、憂慮すべきポイントが2点あります。

憂慮すべきポイント1:イスラエルの要求吊り上げ
今年のアメリカ・イラン交渉中に、またもやイスラエルが新たな要求をアメリカに突きつけ、ルビオ国務長官はイスラエルの要求をそのままイランに提示すると発言しています。その新たな要求とは、交渉の中身をイラン核問題にとどまらず、以下の2点を追加することです。
1.イランの(弾道)ミサイル削減/廃棄
2.いわゆる「抵抗の枢軸」(レバノンやシリアで暗躍するヒズボラ、イエメンで活動するフーシ派)への支援停止******

当然、イランは反発します。元々議論の俎上にあったのは、イラン核問題であり、従来のイランの主張から推察するに、しばらくウラン濃縮は「不可能」であるため、一定期間(破壊された核施設が再建されるまで)濃縮は行わず、その期間中は経済制裁の緩和できるという読みであったでしょう。それに加えての要求は、交渉を取りやめるための口実と見なされても仕方がありません。

もちろん、イスラエルのネタニヤフ政権には、そう主張する理由があります。CNNによれば、分裂の危機にあるネタニヤフ連合(強硬・超強硬派)政権は、3月末までに国家予算を通さねばならず、それが無理な場合は、自動的に90日以内(今年6月)に議会を解散し、総選挙を実施せねばならないという事情があります。ただでさえ、首相本人の汚職スキャンダルを抱え、不人気な政権が再選されるには、イスラエルがイランと戦争状態にあり(ハマスとの戦いは一応終結しています)、ネタニヤフ首相だからアメリカを自由に操れると主張する必要があります。そのため、ネタニヤフ首相は、訪米予定を前倒ししてでも、トランプ大統領と会談し、イラン問題について協議したのです。元々イスラエル(超強硬派)が反対している、アメリカとイランの直接交渉を止めさせ、実質決裂させるために。*******

憂慮すべきポイント2:交渉のコメント舌戦
イラン外相がジュネーブで行われている協議について、「いい進展を見せている」と発言し、大筋合意に達したと発言した一方、ホワイトハウス報道官は、「若干の進展」があったにすぎず、まだ大きな隔たりがあると発言しています。********

これは、いい兆候ではありません。イラン外相の発言は、イランは前向きな姿勢を採っているにも関わらず、拒否しようとしているのはアメリカ側、すなわち交渉を難しくさせているのは、アメリカである、という印象を世界に与え、アメリカの動きをけん制しようとしています。

もし本当にイラン外相のいうような進展があるのなら、双方は第三者の介入を招くようなコメントはせず、粛々と交渉しているはずです。ただでさえ、イスラエルという介入する気満々の第三者がいるのですから。

そのイスラエルを動揺させるためでしょう、イラン外相は追い打ちをかけました。「アメリカ政府は、イランに対しウラン濃縮を止めるよう要求していない」と発言したと報じられました。*********但し、トランプ大統領はその火消しでしょうか、すぐにハメネイ政権転覆を目的とした、米軍によるイラン攻撃を示唆しました。**********

NYタイムス紙の報道では、トランプ大統領は、実際にホワイトハウス内のシチュエーションルームで行われた国家安全保障会議で、イラン攻撃について検討したとしています。その席上、ベネズエラ侵攻時のような成功の保証を、トランプ大統領に迫られたケイン統合参謀本部議長は、確約出来なかったと報じています。**********

冷静に考えれば、政権転覆を目指せばイラク戦争の二の舞になることは明らかなのですが、そこは何をやってもおかしくないトランプ大統領。2月19日に、「10日か15日以内に核問題について合意できなければ、とても悪いことが起こる」と、例によって期限設定をしました。***********

そのXデーは、3月5日(日本時間は6日?)。予断は全く許されません。
* “Iran’s Araghchi slams European powers for ‘irrelevance’ in nuclear talks”, Al Jazeera, February 15, 2026.
https://www.aljazeera.com/news/2026/2/15/irans-araghchi-slams-european-powers-for-irrelevance-in-nuclear-talks
** “U.S. Military Moves Into Place for Possible Strikes in Iran”, NY Times, February 18, 2026.
https://www.nytimes.com/2026/02/18/us/politics/us-military-iran.html
*** “Iran will not bow down to US pressure in nuclear talks, Pezeshkian says”, AL Jazeera, February 22, 2026.
https://www.aljazeera.com/news/2026/2/22/iran-will-not-bow-down-to-us-pressure-in-nuclear-talks-pezeshkian-says
**** “Iran builds concrete shield at military site amid acute US tensions”, Al Jazeera, February 19, 2026.
https://www.aljazeera.com/news/2026/2/19/iran-builds-concrete-shield-at-military-site-amid-acute-us-tensions
***** “US renews threat of military action as Iran, Russia announce naval drills”, Al Jazeera, February 18, 2026.
https://www.aljazeera.com/news/2026/2/18/white-house-says-iran-would-be-wise-to-take-deal-amid-military-buildup
****** “Trump says he ‘insisted’ to Netanyahu that Iran talks go on, as PM stresses security needs”, Times of Israel, February 11, 2026.
https://www.timesofisrael.com/trump-says-he-insisted-to-netanyahu-that-iran-talks-go-on-as-pm-stresses-security-needs/
******* “Netanyahu leans on Trump ties as Israel heads toward elections”, CNN, February 12, 2026.
https://edition.cnn.com/2026/02/12/middleeast/netanyahu-trump-israel-elections-meeting-intl
******** “Iran says ‘good progress’ made in nuclear talks with US in Geneva”, Al Jazeera, February 18, 2026.
https://www.aljazeera.com/news/2026/2/18/irans-araghchi-hails-good-progress-in-nuclear-talks-with-us
********* “Iran Says U.S. Has Not Asked It to Stop Enriching Uranium”, NY Times, February 20, 2026.
https://www.nytimes.com/2026/02/20/world/middleeast/iran-us-nuclear-uranium.html
********* “Trump Considers Targeted Strike Against Iran, Followed by Larger Attack”, NY Times, February 22, 2026.
https://www.nytimes.com/2026/02/22/us/politics/trump-iran-strike-attack.html
********** “Trump warns Iran of ‘bad things’ if no deal made, sets deadline of 10-15 days”, Reuters, February 19, 2026.
https://www.reuters.com/world/middle-east/russia-warns-escalating-iran-tensions-amid-us-military-build-up-2026-02-19/

吉川 由紀枝 ライシャワーセンター アジャンクト・フェロー
慶応義塾大学商学部卒業。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)東京事務
所にて通信・放送業界の顧客管理、請求管理等に関するコンサルティングに従事。2005年
米国コロンビア大学国際関係・公共政策大学院にて修士号取得後、ライシャワーセンター
にて上級研究員をへて2011年1月より現職。また、2012-14年に沖縄県知事公室地域安
全政策課に招聘され、普天間飛行場移転問題、グローバル人材育成政策立案に携わる。