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東京IPOトップインタビュー:ENECHANGE(株)(4169・東マザ)

ENECHANGE株式会社(2020年12月23日上場 /東証マザーズ:4169)


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ENECHANGE株式会社は、エネルギー分野のデータサイエンスに特化したベンチャー企業で、欧州と日本との多国籍のエンジニア陣が活躍する。2015年の創業から1年を待たずして電力、ガス、石油業界の大手企業に実力を認められ、わずか5年で上場にこぎつけた。脱炭素社会を牽引するがごとく、同社の存在感は高まっている。まさに「エネルギー革命の風雲児」と呼びたくなる同社代表取締役CEO城口洋平さんに起業の想いを伺った。







ENECHANGE城口氏

↑代表取締役CEO  城口洋平

2016年に電力自由化が始まり、2050年の脱炭素社会に向かう我が国では、エネルギー業界が変革へと大きく舵を切る。2020年代はその動きが加速する。こうした背景において、同社は、電力・ガス会社向けに「エネルギーデータ事業」、個人・法人向けに「エネルギープラットフォーム事業」を展開する。

「エネルギーデータ事業」では、電力・ガス消費予測技術をもとにした他社との料金比較、電力・ガス切り替えシステムによる顧客獲得や顧客管理、小売電気事業への新規参入などをサポートする。これらは「EMAP」というプラットフォーム上で提供され、全て同社が培った技術に基づく。

「エネルギープラットフォーム事業」では、個人や法人が最適な電力・ガスを選べるよう切り替えサービスを提供する。

表裏一体をなすかのように、前者はエネルギー供給側、後者はエネルギーの需要側へのサービスを提供するのは、そこに同社の狙いがあるからだ。「エネルギー産業の変革を実現するためには、需要と供給の両側から変わっていく必要がある」と城口さんは強調する。「価格を比較するためではなく、エネルギーは自ら選べることを知ってもらい実践してほしい。需要が変われば供給も変わる。消費者の行動変容はエネルギー革命において極めて重要です」。

エネルギー革命の風雲児を生んだ東日本大震災

城口さんは、もともとデータ解析・統計分野がバックグラウンドのデータサイエンティスト。その城口さんがエネルギーの世界に足を踏み入れたのは起業する4年前に起きた東日本大震災がきっかけだ。1995年の阪神・淡路大震災の被災地である神戸・東灘区で中高時代を過ごした経験から、「何かできることはないか」という思いに駆られ、福島や岩手に足を運びボランティア活動に参加した。「この頃、エネルギーに対して何かしらの意識を持ったのは私だけではないと思います」と城口さんは振り返る。

とにかく決断力と行動力の塊のような城口さんは、エネルギーに対する課題意識を突き詰めようと、ケンブリッジ大学工学部修士博士課程のエネルギー分野に応募した。当時、海外留学をすることは決めていたが、そこに「電力データの解析」というテーマが急浮上したというわけだ。願書を書いて受かったのが2012年。渡英してケンブリッジで研究生活を始めた。そこでの研究成果から英国での産学連携のチャンスが舞い込んだ。研究所を立ち上げるため、イギリス国内外から研究者を募集したところ、何百人もの応募があった。その時の一人が、同社代表取締役COO で共同創業者の有田一平さんだ。欧州からはイギリス人、フランス人、ドイツ人、イタリア人を採用し、7人の多国籍メンバーが揃った。2013年の後半に産学連携で研究室「ケンブリッジ・エナジーデータ・ラボ」が始動し、間もなくして実用化への機運が高まった。

「2016年に日本で電力自由化が始まる。その前に事業基盤を築いておきたい」と、 2015年にエネチェンジを創業した。

エネルギー政策において日本は欧州に後塵を拝する。その欧州の動向から電気・ガスの切り替え事業が必要とされることは明白。電力自由化に合わせて海外事例の調査研究とエネルギーのデータ解析をベースにしたサービスを立ち上げたのだ。

2016年、イギリスでも研究所のメンバーがSMAP Energy社を立ち上げ電力データ解析事業をスタートした。2017年にはエネチェンジがSMAP Energy社を買収する形で統合し、現在に至る。

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↑エネチェンジが立ち上げたJapan Energy Challengeのバナー
を手にする城口さん(左)と同社欧州メンバー(右)と受賞企業

 

初めて射止めた顧客は業界最大手
欧州のエネルギー事情に精通するノウハウと
エネルギーに特化したデータ解析エンジニアリングが最強の営業力に

創業当初の営業活動は、エネルギー企業のお問合わせ窓口から売り込むという地道なものだった。「海外のエネルギー事情とデータ解析のノウハウに関心がないはずはない」という城口さんの見込みは正しかったが、それでも最初の契約を獲得するまでは苦労が続いた。

驚くべきか否か。最初の契約は国内最大手の東京電力だったという。「日本のエネルギー業界が変革している証拠」と城口さんは受け止めた。電気や化学、材料分野などのエンジニアに恵まれている企業にとって、エネチェンジは、エネルギー業界が補わなければならない「世界のエネルギー事情に精通したデータ解析のエンジニアチーム」だったことが採用の決め手となったのだ。

2011年3月11日の東日本大震災から10年が経つ。「エネルギーの未来に一石を投じたいという思いで取り組んできました。このタイミングで上場することができることの意味の大きさは言葉にできません」と、城口さんは感慨深そうな面持ちだ。

「エネルギー業界は全力で変わろうとしています。そこで私たちも役割を果たしていきます」と力を込め、2030年という次の節目に向けてエネルギーの未来を見据える。




個人投資家へのメッセージ

この度の上場は、取引先企業様の安心感につながるとともに、経営の透明性を高めることができると考えています。経営者として、この先の10年、20年、30年、エネルギー革命の中長期的なビジョンを掲げるエネルギー産業とお客様へのコミットメントを果たしてまいります。

脱炭素社会を実現するために、2020年代は勝負の時です。だからこそ、私たちのようなエネルギーテックと言われる会社が電力、ガス、石油業界を、間接的にサポートをする役割が求められる時代だと信じています。

少なくとも次の10年は私が代表としてコミットしてまいります。 欧州を中心にデータが語る事実と独自の技術を生かした事業展開を通じ、日本の脱炭素社会の実現に寄与してまいります。




編集後記

「座右の銘はないが、好きな言葉ならあります」と城口さんが話してくれたのが「志高く」だ。IT革命を起こした孫正義さんのように、エネルギー革命を起こしたい。その志は、10年、20年、30年先も変わらないと言い切る。この信念がもたらすエネルギー変革の動向から目が離せない。

 

(掲載日 2020年12月23日)


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