東京IPO特別コラム:「米中資源グレートゲーム:アメリカの攻勢@アフリカ&南米」
米中対立は、しばしば人々の話題をさらうテーマですが、実際には正面切って戦えないことは、当事国が互いに一番よく分かっています。しかし、だからといって信頼関係がしっかりあるわけでもありません。すなわち、水面下でバトルが繰り広げられることになります。
その昔、欧米列強が世界の全土を探検し、その土地をいずれの植民地とするかで競い合いました。これをクロス・カントリー・レースとも、特に英露の競争をグレートゲームと呼びました。その際には土地という資源を求めての鍔迫り合いでしたが、現代では石油や金等の地下資源を巡る戦いになっています。そうした視点で2025年を振り返り、アメリカの2か所での攻勢を見ていきたいと思います。
アフリカ:ルワンダ‐中央コンゴ共和国との和解
トランプ第二期政権で目立つのは、トランプ大統領の外戚と本当に一握りの取り巻きをコアとし、その次にバンス副大統領やルビオ国務長官がいるという構図です。*外戚と言われてまず思い浮かべるのは、親イスラエルの立場で中東政策に介入する、娘婿のジャレード・クリシュナーでしょうか。加えて、その父親は駐仏アメリカ大使です。
実は、この他にもう一家あります。トランプ大統領のもう一人の娘、ティファニー嬢と結婚したマイケルの父親、マサド・ボーロス氏です。この人物が、係争中のルワンダとコンゴ両政府の間を取り持ち、今年6月に和平が成立しました。
このように紹介すると、好人物のように聞こえますが、実際には色々取りざたされる人物です。元々はレバノン系移民で、ナイジェリアで財を成した富豪と言われていますが、それほどの財は成しておらず、さらにティファニー嬢との婚約直後にクリシュナ―相手に高級ヨットの取引があったのですが、過剰請求で揉めていると、報じられています。**
さらに、トランプ政権から拝命した肩書は、「アメリカ大統領特別顧問 中東・アフリカ担当」であり、それも「中東」は名目上だとされているにも関わらず、自身の名刺には「大統領特別顧問」とのみ記載し、大分大風呂敷を広げて、周辺を惑わせていたようです。***とはいえ、やがて自分の担当領域は、アフリカのみであることを悟り、「精力的に」活動するようになりました。
さて、ルワンダとコンゴの争いは、1990年代のルワンダ虐殺の延長線上にあります。この事件で、ルワンダで多数民族のフツ族が少数民族のツチ族を虐殺し、ツチ族は周辺国在住のツチ族からの支援を受け、フツ族政権を倒し、現在のカガメ政権を打ち立てました。カガメ政権では、ガチャチャという和解政策を進め、農業改革と情報通信技術(ICT)産業の育成に力を注ぎ、近年「アフリカの奇跡」と呼ばれる経済成長を実現させています。
しかし、片方の部族が政権に就けば、近隣の反対部族は警戒し、隙あれば政権転覆を秘密裡に画策するのは、当然です。コンゴでは反政府勢力と言われても、カガメ政権にすれば、同胞のコンゴ在住ツチ族による武装集団であり、支援対象になるわけで、(そして、その逆の武装集団もあります)コンゴ東部で紛争が続いています。そこで、「支援活動」の代償なのか、実質支配しているコンゴ東部でとれる地下資源が、ルワンダへ流出し、ルワンダ繁栄の財源の一部となっているという批判もあります。****
アフリカの途上国で紛争はよく聞かれるところですが、こうしたことが頻発かつ長期化する理由は、ただ一つ、先進国がほしい地下資源が眠っているからです。中央政府のガバナンスがきちんと機能していない国の地域で反乱、内戦、内紛が長期間あるということは、地域勢力(分かりやすく言えば、戦国大名でしょうか)が地下資源を外国企業に売り払い、その代金で武器を買い、戦いが長期化するのです。
まさに、映画「ブラック・ダイヤモンド」の世界ですが、地域勢力が売るものは、ダイヤモンドだけでなく、金、石油、そして近年レアアース等と多岐に広がります。こうした地下資源の密買は、紛争を延長させることにしかならないという国際世論の圧力はあるものの、中国などあまり欧米の主張に重きを置かない国々が、彼らの顧客リストに載るわけです。そして、資源を効率的に本国に運び出すための鉄道、道路等のインフラ整備を「政府開発援助(ODA)」や「一路一帯政策」の名の下に資金提供します。*****
こうした中国とアフリカ間のズブズブな関係は、中国がグローバルサウスの味方になっている、グローバルサウスは中国の勢力圏下にある、という批判に繋がります。但し、視点を変えれば、アメリカがアフリカ最大の援助国であるにもかかわらず、それほど影響力行使にうまく活用してこなかった、怠慢あるいは無関心がもたらした結果に過ぎません。
結局こうした紛争を解決するには、利害関係者である各武装集団に対し武器の放棄に合意してもらう必要があるのですが、当然タダではありません。何かしらの「アメ」が必要なのですが、ボーレス氏が持ち出したのは、アメリカ企業による投資です。******アメリカ企業が安全に地下資源を採掘するには、当然地上での戦いを止めねばなりません。そこで、アメリカ政府(ボーレス氏)が武装集団のスポンサー的ルワンダ、コンゴ両政府と交渉し、双方の武装集団の武装解除と引き換えに、一定の資金を与え、戦闘部隊は地下資源採掘の労働者として雇用する等の条件が提示され、合意を見たのでしょう。(次に、スポンサールワンダ、コンゴ政府と、支援を受けている武装集団間の利益配分交渉が必要ですが)
もちろん、アメリカ企業による投資に付帯する条件は、表に出せる程きれいな取引内容ではないでしょうし、詳細は全く報じられていません。報じられることがあるとしても、大分先のことでしょう。ボーレス氏が仲介手数料にいくら受け取るかは分かりませんが、功績としては、30年以上も続いた戦闘に終止符らしきものがついたこと、アメリカがコンゴ、ルワンダに眠る、タンタル等レアアースへのアクセス権を得、中国の牙城の一つに楔を打ち込んだこと、これまでトランプ大統領の関心を引かなかったアフリカへ政権の関心を寄せたことが挙げられます。
但し、ボーレス氏は単身で動き、国務省も事前にその行動内容を完全に把握していなかったともいわれていますので、詳細のツメがどこまでなされているか怪しく、また履行のモニタリングをうまく国務省へ橋渡ししないと、現場での和平は成立しないでしょう。
南米:ベネズエラ船舶拿捕
トランプ政権が、12月ベネズエラ政府への圧力を強め、ベネズエラ沖で石油タンカーを3隻拿捕しました。表向きは、麻薬対策と称していますが、NYタイムス紙の報道では、ベネズエラは麻薬製造をしていないし、麻薬経由国であっても、その行先はほとんどヨーロッパであるといいます。よって、真の狙いは、ベネズエラに眠る石油、天然ガス資源にあると言っていいでしょう。********
ベネズエラとアメリカの関係が悪いのは、やはり前大統領のチャベス大統領が、石油資源の国有化をし、アメリカ利権を奪ったからです。その石油収入を社会福祉等に充て、国民の人気を得ていましたが、やがて独裁者にありがちですが、生涯大統領であり続けることを望み、反対意見を弾圧する等して、憲法改正を成功させました。その後チャベス大統領の病死を受け、副大統領であったマドロ氏が大統領に選出され、チャベス路線を継承しています。
これに対し、反対政党指導者にして2025年ノーベル平和賞受賞者であるマチャド氏は、マドロ政権を倒せた暁には、「ベネズエラの石油や天然ガスの資源は、全ての会社に開かれている」と述べ、トランプ政権へ秋波を送っています。よって、マドロ政権を倒せば、ベネズエラ石油利権はアメリカの手に落ちるという皮算用が、働いていると考えられますが、もう一歩踏み込んでみましょう。
すなわち、ベネズエラの最大の石油先は、中国、次いでアメリカなのです。これまで、シェブロン社がベネズエラで合弁会社を設立し、操業するという特権を得ていましたが、この契約は今年5月に打ち切られました。打ち切ってしまえば、シェブロン社の利権は中国に渡ってしまう、という懸念を持ちましたが、政権の目玉である「大きく美しい一つの法案(OBBB)」可決のため、ベネズエラに対し強硬姿勢を求められたトランプ大統領は、この場では妥協しました。*********
そして、しばらく間をおいて「麻薬戦争」の一環という「大義名分」(濡れ衣といった方が正しいですが)の下、中国へベネズエラ産石油が流れないように軍事行動を行ったことになります。さらに、マドロ政権を倒せれば、ベネズエラの国有化された石油は自由化され、恐らく中国の石油会社は顧客リストから外されるでしょう。
これもまた、アフリカの場合と同様、中国の勢力圏にある資源に対し、アメリカが楔を打ち込んだ形ともいえます。資源をキーワードとして、来年以降も世界の動きに、ますます目が離せません。
* “The Trump back channel: how diplomacy works in Washington”, Financial Times, December 16, 2025.
https://www.ft.com/content/05bdc758-7d2e-46bc-bba8-f5858e9b3ad7
* “He Asked Tiffany Trump to Marry Him. Then the Deals Started Coming.”, NY Times, August 21, 2025.
https://www.nytimes.com/2025/08/21/world/europe/michael-boulos-tiffany-trump-business-deals.html
** “‘Everyone knew it but him’: Tiffany Trump’s father-in-law has seen role diminished since the transition”, POLITICO, May 4, 2025.
https://www.politico.com/news/2025/05/04/massad-boulos-trump-africa-envoy-limited-influence-00324284
*** 「ルワンダ虐殺30年、「奇跡の成長」の功罪 大統領4選へ」日本経済新聞、2024年7月14日。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR140430U4A710C2000000/?msockid=1651d75cd9d062873cc6c753d83a637f
****例えば、”China-Rwanda Relations: A Comprehensive Strategic Partnership”, Africa-China Review, September, 2025.
https://africachinareview.com/2025/09/15/china-rwanda-relations-a-comprehensive-strategic-partnership/
****** “Trump Signs Major Rare Earth Minerals Deal in Africa: What To Know”, Newsweek, June 30, 2025.
https://www.newsweek.com/trump-signs-rare-earth-minerals-deal-africa-2092499
******* “Venezuela’s Oil Is a Focus of Trump’s Campaign Against Maduro”, NY Times, December 16, 2025.
https://www.nytimes.com/2025/12/16/us/politics/trump-maduro-venezuela-oil-tanker.html
******** “Behind the Seized Venezuelan Tanker, Cuba’s Secret Lifeline”, NY Times, December 12, 2025.
https://www.nytimes.com/2025/12/12/world/americas/venezuela-cuba-oil-tanker.html
********* “How Oil, Drugs and Immigration Fueled Trump’s Venezuela Campaign”, NY Times, December 27, 2025.
https://www.nytimes.com/2025/12/27/us/politics/venezuela-trump-maduro-oil-boat-strikes-immigration.html
吉川 由紀枝???????????????????? ライシャワーセンター アジャンクトフェロー
慶応義塾大学商学部卒業。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)東京事務所
にて通信・放送業界の顧客管理、請求管理等に関するコンサルティングに従事。2005年
米国コロンビア大学国際関係・公共政策大学院にて修士号取得後、ビジティングリサーチ
アソシエイト、上級研究員をへて2011年1月より現職。また、2012-14年に沖縄県知事
公室地域安全政策課に招聘され、普天間飛行場移転問題、グローバル人材育成政策立案に携わる。
著書:「現代国際政治の全体像が分かる!〜世界史でゲームのルールを探る〜」
定期購読はこちらからご登録ください。
https://www.mag2.com/m/0001693665
その昔、欧米列強が世界の全土を探検し、その土地をいずれの植民地とするかで競い合いました。これをクロス・カントリー・レースとも、特に英露の競争をグレートゲームと呼びました。その際には土地という資源を求めての鍔迫り合いでしたが、現代では石油や金等の地下資源を巡る戦いになっています。そうした視点で2025年を振り返り、アメリカの2か所での攻勢を見ていきたいと思います。
アフリカ:ルワンダ‐中央コンゴ共和国との和解
トランプ第二期政権で目立つのは、トランプ大統領の外戚と本当に一握りの取り巻きをコアとし、その次にバンス副大統領やルビオ国務長官がいるという構図です。*外戚と言われてまず思い浮かべるのは、親イスラエルの立場で中東政策に介入する、娘婿のジャレード・クリシュナーでしょうか。加えて、その父親は駐仏アメリカ大使です。
実は、この他にもう一家あります。トランプ大統領のもう一人の娘、ティファニー嬢と結婚したマイケルの父親、マサド・ボーロス氏です。この人物が、係争中のルワンダとコンゴ両政府の間を取り持ち、今年6月に和平が成立しました。
このように紹介すると、好人物のように聞こえますが、実際には色々取りざたされる人物です。元々はレバノン系移民で、ナイジェリアで財を成した富豪と言われていますが、それほどの財は成しておらず、さらにティファニー嬢との婚約直後にクリシュナ―相手に高級ヨットの取引があったのですが、過剰請求で揉めていると、報じられています。**
さらに、トランプ政権から拝命した肩書は、「アメリカ大統領特別顧問 中東・アフリカ担当」であり、それも「中東」は名目上だとされているにも関わらず、自身の名刺には「大統領特別顧問」とのみ記載し、大分大風呂敷を広げて、周辺を惑わせていたようです。***とはいえ、やがて自分の担当領域は、アフリカのみであることを悟り、「精力的に」活動するようになりました。
さて、ルワンダとコンゴの争いは、1990年代のルワンダ虐殺の延長線上にあります。この事件で、ルワンダで多数民族のフツ族が少数民族のツチ族を虐殺し、ツチ族は周辺国在住のツチ族からの支援を受け、フツ族政権を倒し、現在のカガメ政権を打ち立てました。カガメ政権では、ガチャチャという和解政策を進め、農業改革と情報通信技術(ICT)産業の育成に力を注ぎ、近年「アフリカの奇跡」と呼ばれる経済成長を実現させています。
しかし、片方の部族が政権に就けば、近隣の反対部族は警戒し、隙あれば政権転覆を秘密裡に画策するのは、当然です。コンゴでは反政府勢力と言われても、カガメ政権にすれば、同胞のコンゴ在住ツチ族による武装集団であり、支援対象になるわけで、(そして、その逆の武装集団もあります)コンゴ東部で紛争が続いています。そこで、「支援活動」の代償なのか、実質支配しているコンゴ東部でとれる地下資源が、ルワンダへ流出し、ルワンダ繁栄の財源の一部となっているという批判もあります。****
アフリカの途上国で紛争はよく聞かれるところですが、こうしたことが頻発かつ長期化する理由は、ただ一つ、先進国がほしい地下資源が眠っているからです。中央政府のガバナンスがきちんと機能していない国の地域で反乱、内戦、内紛が長期間あるということは、地域勢力(分かりやすく言えば、戦国大名でしょうか)が地下資源を外国企業に売り払い、その代金で武器を買い、戦いが長期化するのです。
まさに、映画「ブラック・ダイヤモンド」の世界ですが、地域勢力が売るものは、ダイヤモンドだけでなく、金、石油、そして近年レアアース等と多岐に広がります。こうした地下資源の密買は、紛争を延長させることにしかならないという国際世論の圧力はあるものの、中国などあまり欧米の主張に重きを置かない国々が、彼らの顧客リストに載るわけです。そして、資源を効率的に本国に運び出すための鉄道、道路等のインフラ整備を「政府開発援助(ODA)」や「一路一帯政策」の名の下に資金提供します。*****
こうした中国とアフリカ間のズブズブな関係は、中国がグローバルサウスの味方になっている、グローバルサウスは中国の勢力圏下にある、という批判に繋がります。但し、視点を変えれば、アメリカがアフリカ最大の援助国であるにもかかわらず、それほど影響力行使にうまく活用してこなかった、怠慢あるいは無関心がもたらした結果に過ぎません。
結局こうした紛争を解決するには、利害関係者である各武装集団に対し武器の放棄に合意してもらう必要があるのですが、当然タダではありません。何かしらの「アメ」が必要なのですが、ボーレス氏が持ち出したのは、アメリカ企業による投資です。******アメリカ企業が安全に地下資源を採掘するには、当然地上での戦いを止めねばなりません。そこで、アメリカ政府(ボーレス氏)が武装集団のスポンサー的ルワンダ、コンゴ両政府と交渉し、双方の武装集団の武装解除と引き換えに、一定の資金を与え、戦闘部隊は地下資源採掘の労働者として雇用する等の条件が提示され、合意を見たのでしょう。(次に、スポンサールワンダ、コンゴ政府と、支援を受けている武装集団間の利益配分交渉が必要ですが)
もちろん、アメリカ企業による投資に付帯する条件は、表に出せる程きれいな取引内容ではないでしょうし、詳細は全く報じられていません。報じられることがあるとしても、大分先のことでしょう。ボーレス氏が仲介手数料にいくら受け取るかは分かりませんが、功績としては、30年以上も続いた戦闘に終止符らしきものがついたこと、アメリカがコンゴ、ルワンダに眠る、タンタル等レアアースへのアクセス権を得、中国の牙城の一つに楔を打ち込んだこと、これまでトランプ大統領の関心を引かなかったアフリカへ政権の関心を寄せたことが挙げられます。
但し、ボーレス氏は単身で動き、国務省も事前にその行動内容を完全に把握していなかったともいわれていますので、詳細のツメがどこまでなされているか怪しく、また履行のモニタリングをうまく国務省へ橋渡ししないと、現場での和平は成立しないでしょう。
南米:ベネズエラ船舶拿捕
トランプ政権が、12月ベネズエラ政府への圧力を強め、ベネズエラ沖で石油タンカーを3隻拿捕しました。表向きは、麻薬対策と称していますが、NYタイムス紙の報道では、ベネズエラは麻薬製造をしていないし、麻薬経由国であっても、その行先はほとんどヨーロッパであるといいます。よって、真の狙いは、ベネズエラに眠る石油、天然ガス資源にあると言っていいでしょう。********
ベネズエラとアメリカの関係が悪いのは、やはり前大統領のチャベス大統領が、石油資源の国有化をし、アメリカ利権を奪ったからです。その石油収入を社会福祉等に充て、国民の人気を得ていましたが、やがて独裁者にありがちですが、生涯大統領であり続けることを望み、反対意見を弾圧する等して、憲法改正を成功させました。その後チャベス大統領の病死を受け、副大統領であったマドロ氏が大統領に選出され、チャベス路線を継承しています。
これに対し、反対政党指導者にして2025年ノーベル平和賞受賞者であるマチャド氏は、マドロ政権を倒せた暁には、「ベネズエラの石油や天然ガスの資源は、全ての会社に開かれている」と述べ、トランプ政権へ秋波を送っています。よって、マドロ政権を倒せば、ベネズエラ石油利権はアメリカの手に落ちるという皮算用が、働いていると考えられますが、もう一歩踏み込んでみましょう。
すなわち、ベネズエラの最大の石油先は、中国、次いでアメリカなのです。これまで、シェブロン社がベネズエラで合弁会社を設立し、操業するという特権を得ていましたが、この契約は今年5月に打ち切られました。打ち切ってしまえば、シェブロン社の利権は中国に渡ってしまう、という懸念を持ちましたが、政権の目玉である「大きく美しい一つの法案(OBBB)」可決のため、ベネズエラに対し強硬姿勢を求められたトランプ大統領は、この場では妥協しました。*********
そして、しばらく間をおいて「麻薬戦争」の一環という「大義名分」(濡れ衣といった方が正しいですが)の下、中国へベネズエラ産石油が流れないように軍事行動を行ったことになります。さらに、マドロ政権を倒せれば、ベネズエラの国有化された石油は自由化され、恐らく中国の石油会社は顧客リストから外されるでしょう。
これもまた、アフリカの場合と同様、中国の勢力圏にある資源に対し、アメリカが楔を打ち込んだ形ともいえます。資源をキーワードとして、来年以降も世界の動きに、ますます目が離せません。
* “The Trump back channel: how diplomacy works in Washington”, Financial Times, December 16, 2025.
https://www.ft.com/content/05bdc758-7d2e-46bc-bba8-f5858e9b3ad7
* “He Asked Tiffany Trump to Marry Him. Then the Deals Started Coming.”, NY Times, August 21, 2025.
https://www.nytimes.com/2025/08/21/world/europe/michael-boulos-tiffany-trump-business-deals.html
** “‘Everyone knew it but him’: Tiffany Trump’s father-in-law has seen role diminished since the transition”, POLITICO, May 4, 2025.
https://www.politico.com/news/2025/05/04/massad-boulos-trump-africa-envoy-limited-influence-00324284
*** 「ルワンダ虐殺30年、「奇跡の成長」の功罪 大統領4選へ」日本経済新聞、2024年7月14日。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR140430U4A710C2000000/?msockid=1651d75cd9d062873cc6c753d83a637f
****例えば、”China-Rwanda Relations: A Comprehensive Strategic Partnership”, Africa-China Review, September, 2025.
https://africachinareview.com/2025/09/15/china-rwanda-relations-a-comprehensive-strategic-partnership/
****** “Trump Signs Major Rare Earth Minerals Deal in Africa: What To Know”, Newsweek, June 30, 2025.
https://www.newsweek.com/trump-signs-rare-earth-minerals-deal-africa-2092499
******* “Venezuela’s Oil Is a Focus of Trump’s Campaign Against Maduro”, NY Times, December 16, 2025.
https://www.nytimes.com/2025/12/16/us/politics/trump-maduro-venezuela-oil-tanker.html
******** “Behind the Seized Venezuelan Tanker, Cuba’s Secret Lifeline”, NY Times, December 12, 2025.
https://www.nytimes.com/2025/12/12/world/americas/venezuela-cuba-oil-tanker.html
********* “How Oil, Drugs and Immigration Fueled Trump’s Venezuela Campaign”, NY Times, December 27, 2025.
https://www.nytimes.com/2025/12/27/us/politics/venezuela-trump-maduro-oil-boat-strikes-immigration.html
吉川 由紀枝???????????????????? ライシャワーセンター アジャンクトフェロー
慶応義塾大学商学部卒業。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)東京事務所
にて通信・放送業界の顧客管理、請求管理等に関するコンサルティングに従事。2005年
米国コロンビア大学国際関係・公共政策大学院にて修士号取得後、ビジティングリサーチ
アソシエイト、上級研究員をへて2011年1月より現職。また、2012-14年に沖縄県知事
公室地域安全政策課に招聘され、普天間飛行場移転問題、グローバル人材育成政策立案に携わる。
著書:「現代国際政治の全体像が分かる!〜世界史でゲームのルールを探る〜」
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