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東京IPO特別コラム:短信:キューバ陥落はイラン戦争という失点をカバーできるか?

トランプ政権が、キューバに対する締め付けを強化しています。元々キューバ革命以降経済制裁を加えていますが、ますますヒートアップしています。今年1月ベネズエラ侵攻後、キューバがベネズエラから融通されていた石油がもはや来なくなるため、トランプ大統領が、キューバはまもなく陥落すると発言しました。さらに5月には司法省が、ラウル・カストロ元大統領(キューバ革命のリーダー、フィデロ・カストロ大統領の弟)を、1996年のキューバ系アメリカ人の団体「ブラザーズ・トゥ・ザ・レスキュー」の航空機を撃墜し、アメリカ3名を含む4人を殺害したとして、起訴しました。*

アメリカとキューバの確執
もちろん、こうした動きの首謀者は、ルビオ国務長官です。キューバ系移民の子であり、キューバ政府に対する強硬論者として知られている人物です。ここで簡単にアメリカとキューバの確執を見ておきましょう。

革命前のキューバは、アメリカ資本のホテルが並び、カジノやラテン音楽が溢れる(今日でも、キャバレー・トロピカーナは世界的に有名です)、フロリダから気軽に行ける歓楽街の島でした。御多分に漏れず、観光収入の多くはアメリカ資本と、それに便宜を図る一握りの政府関係者やその周辺に流れ、庶民にはほとんど行きわたらない、という状態になります。やがて、庶民が立ち上がり、キューバ革命が成功します。

その結果、アメリカ資本とタッグを組んで富を蓄積してきた富裕層たち(アメリカから見たら、親米派)は、アメリカ、特にキューバに最も近いフロリダ半島へ亡命します。当初、アメリカ政府によるカストロ政権打倒を期待していましたが、冷戦期のこと、ソ連がキューバの味方に付くことで、それは叶わぬ夢に終わります。そのため、彼らは定住し、アメリカ人となり、海の向こうの祖国の豊かな暮らしや資産をいつか取り戻す夢を次世代へ託すわけです。その申し子の一人が、ルビオ国務長官です。

選挙対策としてのキューバ政策
さて、キューバ系アメリカ人はフロリダの特定地域に多く定住し、参政権を積極的に行使する民族グループです。過去十年の選挙データでは、約2/3が共和党、約1/3が民主党です。かつ、フロリダ州は、スイング州でも最大の大票田です。スイング州の定義は色々あるのですが、例えば過去10年で実際に民主党から共和党へ、あるいは共和党から民主党になった州の選挙人数(米大統領選では、各州での選挙結果を反映し、各州に割り当てられた選挙人が最終的に大統領選の票を投じます。よって、正確には有権者の投票率ではないのです)は、多い順でペンシルベニア州が19、オハイオ州が17、ジョージア州が16、ミシガン州が15です。対して、フロリダ州は30ですから、その重さが分かろうというものです。

これに、政治家が目を付けないわけにはいきません。歴代大統領や大統領候補たちが、キューバ系アメリカ人におもねるような政策を打ってきます。唯一の例外が、オバマ大統領でしょう。彼らの憎きキューバ政府打倒ではなく、彼らの海の向こうの親戚に配慮することで、差別化しました。オバマ政権下の2015年、キューバをテロ組織リストから削除し、同年相互に大使館を設置し、翌年にはオバマ大統領が、キューバを訪問するという歴史的イベントまでありました。こうした動きに対し、キューバ系アメリカ人の心は揺れますが、トランプ氏が大統領になると、やはり強硬路線に戻り、前述の通りエスカレートさせていきました。**

トランプ大統領自身には、特にキューバへの思い入れはありません。ただ、選挙対策として、キューバ系アメリカ人の票を握るルビオ上院議員を国務長官に抜擢したので、ルビオ国務長官を中心に政策は組み立てられていきます。

ましてや、トランプ大統領は、アメリカ国民の多くが望まないイラン戦争に突入し、ホルムズ海峡封鎖により、ガソリンを始めインフレーションを引き起こし、庶民の生活を圧迫してしまいました。しかも、今まで再三申し上げてきた通り、イラン戦争の終結、ホルムズ海峡の恒久的な開放を決めるのは、アメリカでもイランでもなく、イスラエルです。トランプ大統領としても、如何ともし難いところなので、キューバ系アメリカ人の票を確保すべく、キューバへの締め付けを強化し、***悲惨な状況になっています。****そして、アメリカ政府は、キューバ政府やカストロ家と交渉中であると報じられていますが、*****難航しているため、締め付けを日増しに強化していっています。

トランプ大統領の後継は、ヴァンス副大統領かルビオ国務長官か?
さて、トランプ大統領の後継者はヴァンス副大統領と見る向きが高かったのですが、ここ最近トランプ大統領が周囲にヴァンス副大統領とルビオ国務長官のいずれがいいかを尋ねまわっていると報じられています。******

こうした言動が様々な憶測をもたらすことを承知の上で、トランプ大統領が楽しんでいるのか、本当に悩んでいるのか、二人を競争させ、トランプ大統領への忠誠心を高めようとしているのか、見極めが難しいところです。

ただ、キューバ転覆に持っていければ、イランとの交渉を任されたヴァンス副大統領よりも、成績はよくなることは確かです。そのためか、これまでルビオ国務長官は、イラン戦争への関与が不思議なくらい薄いとみられていました。そのルビオ国務長官が、イラン戦争交渉にもルビオ国務長官が乗り出すようになったということは*******、いよいよキューバ転覆が実現できる目途が立ったためか、あまりにイラン戦争が問題になったので、駆り出されたのか、悩ましいところです。

いずれにせよ、2028年の米大統領選の行方に影響し得る、キューバの動向は要注意です。

* 「米司法省、キューバのカストロ元議長を殺人罪で起訴 1996年の航空機撃墜事件めぐり」BBC、2026年5月21日。
https://www.bbc.com/japanese/articles/cwy2ggdymjeo
** “U.S.-Cuba Relations”, Council on Foreign Affairs website,
https://www.cfr.org/articles/us-cuba-relations; WILLIAM M. LEOGRANDE, “CUBA’S ROLE IN U.S. PRESIDENTIAL ELECTIONS”, Quincy Institute, May 2024.
https://quincyinst-2.s3.amazonaws.com/wp-content/uploads/2024/05/22141402/QUINCY-PAPER-NO.-14-%E2%80%94-LEOGRANDE-1.pdf?utm_source=copilot.com
*** US Department of State, Cuba Sanction website.
https://www.state.gov/cuba-sanctions/
**** 例えば、5月にキューバ視察をした下院議員が、NYタイムス紙に寄稿しています。
Pramila Jayapal and Jonathan L. Jackson, “What We Saw in Cuba Shocked Us”, NY Times, May 11, 2026.
https://www.nytimes.com/2026/05/11/opinion/cuba-us-blockade.html
***** “U.S. Officials Visited Havana to Lay Out Proposals for Cuban Reforms”, NY Times, April 18, 2026.
https://www.nytimes.com/2026/04/18/world/americas/us-officials-cuba-trump.html
****** “Vance or Rubio? Trump Muses on Successor as the ‘Kids’ Fill Bigger Roles.”, NY Times, May 10, 2026.
https://www.nytimes.com/2026/05/10/us/politics/vance-rubio-trump-succession.html
******* “Rubio: US-Iran peace talks to resume next week”, NHK World Japan, June 26, 2026. https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/news/20260625_N02/

吉川 由紀枝 ライシャワーセンター アジャンクト・フェロー
慶応義塾大学商学部卒業。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)東京事務
所にて通信・放送業界の顧客管理、請求管理等に関するコンサルティングに従事。2005年
米国コロンビア大学国際関係・公共政策大学院にて修士号取得後、ライシャワーセンター
にて上級研究員をへて2011年1月より現職。また、2012-14年に沖縄県知事公室地域安
全政策課に招聘され、普天間飛行場移転問題、グローバル人材育成政策立案に携わる。
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