東京IPO特別コラム:「泥沼の中東大戦争回避のラストチャンス」

6月13日イスラエルによるイランへの直接攻撃が起きるまでは、外交でイラン核問題を解決する方向で動いていたトランプ大統領が、一転21日イラン核施設爆撃に踏み切りました。まずはその理由を探っていきましょう。

なぜアメリカも参戦したか?
もともと、トランプ大統領の支持基盤も、この件に関しては二分していました。アメリカ再建を最重視するMAGA派は、いつとも果てぬイスラエルとイランとの戦いに介入し、アメリカを再び泥沼の戦いに巻き込むな、アメリカ再建が最重要課題であると主張します。

一方、親イスラエル派は、イスラエルと共に攻撃に参加すべきだといいます。特に、イラン核施設が地下にもあり、イスラエル軍では地上施設しか破壊できず、地下施設まで破壊するには、アメリカ軍しか保有していない「バンクバスター」爆弾しかないと言われていました。ですので、イスラエルとしては是が非でも、それを使用したかったわけです。

両者が拮抗し、いずれにトランプ大統領が傾くか、トランプ大統領が決断するまで、誰も分かりませんでした。いずれ、さらに検証記事が出てくるのでしょうが、今までの報道によれば、トランプ大統領は国家安全保障会議(通称NSC)上、「エスカレーションを招かずに、イラン核施設を破壊することは可能」と聞かされたとのことです。*この回答が、トランプ大統領の背中を押したのでしょう。

アメリカ参戦が抱えるリスク
1)エスカレーションが本当にない保証はない
アメリカがイランを攻撃しても、イランからのエスカレーション(報復措置)を招かないという前提は、非常に疑問です。米軍はサウジアラビアやカタール等中東に米軍施設を持っていますから、イランはその気になればこれらの米軍基地や近辺を航海中の海軍船舶を攻撃できます。

実際23日にカタールの米軍基地が標的になり、ミサイル防衛システムで撃墜できました。今回はイラン政府によるカタール政府への事前通知があったため、迎撃はまだ容易だったでしょうが、今後被害が出た時、トランプ大統領は自制できるのでしょうか?自制できなければ、イランからの攻撃は続きますし、反撃すれば、全面戦争となり、泥沼戦争になります。

確かに、イスラエルがイランへ攻撃を1週間以上続けていますが、イランからの反撃は予想に反して被害が小さく収まっています。特に超音速ミサイルを発射したと言われていますが、事前に恐れられていたほどの威力を見せませんでした。この理由を、イラン革命軍の腐敗が激しいからだと分析する専門家もいるくらいです。

しかし、イランはアメリカや他国を巻き込まないように配慮した上で攻撃していたと考えられます。特に、米兵がたまたまイスラエル軍基地内にいたとなれば、イランがアメリカを巻き込んだと言われかねません。故に、簡単にイランがアメリカに対し、エスカレーションしないと言い切ることは、不誠実でしょう。

2)ホルムズ海峡閉鎖によるオイルショック再発も
加えて、イランは、目の前のペルシャ湾で最も狭いホルムズ海峡を封鎖することも可能です。世界の石油の4割がここを通ると言われているところですから、世界中でオイルショック再発は確実です。既にこのリスクが指摘されているだけに、産油国カルテルともいうべきOPECでは、緩やかな増産を目指すと言っていますが、すぐには対応できません。よって、世界中の石油供給が減少し、当然石油価格が高騰します。アメリカ再建を謳うトランプ政権には、支持層の生活へ大きな痛手を与えることができます。この影響は、日本にとっても重大です。(古々々々米の値段で騒いでいる場合ではありません。)

3)核拡散が勢いづく
なぜイランが攻撃され、なぜインド・パキスタンが全面戦争を自制し合ったか?と問う人々は多いでしょう。多くが出す結論は、核兵器の有無となります。今までイランはIAEAや米欧との交渉結果を遵守し、核兵器を「まだ」開発していませんでした。

故に、米欧と友好関係がなく、外交で戦争回避を考えていた国々は、その考えを改め、自衛のため核武装すべきだという結論に至ってもおかしくありません。特に北朝鮮の金正恩総書記は、IAEAの言うこと等聞かずに核武装していてよかったと、胸をなでおろしていることでしょう。

4)政変(レジーム・チェンジ)は親米政権を作らないし、金食い虫になるだけ
仮に、このままイランが本格的な攻撃ができず、現行政府が機能不全になったとしましょう。その場合、イラク戦争後のイラク同様、アメリカはイスラエルに協力し、イラン国内に多国籍軍を送り、しばらく軍政を敷くことが考えられます。(無政府状態の焼け野原で放置すれば、あっという間にテロの温床となります。)軍政とは、とどのつまり、一国分の政府機能をある程度外国から持ってくることですから、地元民の協力次第で必要なコストが変動します。

そしてこの場合、イラク戦争後のイラクよりも、割高を覚悟せねばなりません。イラクの場合、まだサダム・フセイン率いるバース党の圧政に苦しんだイラク国民がいたので、当初は歓迎されました。しかし今回、IAEAに加盟もせず国際社会の暗黙の了解で核兵器を保有するイスラエルが、IAEA規定に遵守していたイランを攻撃するという「理不尽」がまかり通り、これに仲介者の顔をしていたアメリカが攻撃に加わったため、両国への怒りが、イラン国民を結束させてしまっているからです。

加えて、イスラエル主導で動くのも難しいでしょう。イスラエルの人口は、たかだか1000万未満です。しかも、約200万のガザ市民と共存することもできずに持て余した結果、抹殺しようとしている国民ですから、約9000万人を抱えるイラン等まともに対処できないでしょうし、アメリカに丸投げするだけでしょう。

それでも軍政を敷いている間は、米イスラエル軍がテロ行為を直接押さえつけることは出来ます。しかし、いずれ軍政にかかるコストがアメリカ国内で問題となり、現地政府へと移行せざるを得なくなります。その場合、世俗政府(ハメイニ師という宗教をベースにした国家元首ではなく、国民が選出した人物を国家元首にする)を条件にしても、イラン国民に投票させれば、反米イスラエル政府になることは確実です。ですので、安易に軍政を解除もできません。

よって、アメリカがすべてのツケを払う形になり、最悪な泥沼です。

起死回生の秘策を切れるか?
事ここに至って考えられる起死回生案が、一つあります。それは、今回の爆撃により、アメリカがイランの核兵器開発能力のなさを「証明」したとして、現行政権の温存を許し、対イラン経済制裁を解除することです。ここで今までの米イラン交渉(イラン核武装放棄と対イラン経済制裁解除の取引)を決着させます。さらに、イスラエルの攻撃を止めさせ、イランの安全保障を与える代償として、に引き続きIAEA査察を受け入れるよう、イラン政権と取引することです。

もちろん、イスラエルはこの機に乗じて、さらに攻撃を継続したいというでしょう。しかし、そこを押さえられるか否かで、トランプ大統領がイスラエルの傀儡か否かを見極めるポイントになります。いざとなれば、ネタニヤフ首相をアメリカに呼んで国際刑事裁判所(ICC)に引き渡せばいいのではないでしょうか?ある意味、喧嘩両成敗ですし、近隣アラブ諸国にも多少納得感があるのではないでしょうか。その方がガザ虐殺を止める近道になるでしょうし、トランプ大統領の念願である、イスラエルとアラブ諸国との国交樹立、そしてノーベル平和賞受賞への道が開けるというものです。

「誰も自分が何をするか分からない」と豪語できる大統領にしかできない荒業ではありますが。。。

* “US joins Israel in attacking Iran, strikes Fordow, Isfahan, Natanz sites”, Al Jazeera, June 22, 2025.
https://www.aljazeera.com/news/2025/6/22/us-joins-israel-in-attacks-against-iran-strikes-key-nuclear-sites


吉川 由紀枝                     ライシャワーセンター アジャンクトフェロー

慶応義塾大学商学部卒業。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)東京事務所
にて通信・放送業界の顧客管理、請求管理等に関するコンサルティングに従事。2005年
米国コロンビア大学国際関係・公共政策大学院にて修士号取得後、ビジティングリサーチ
アソシエイト、上級研究員をへて2011年1月より現職。また、2012-14年に沖縄県知事
公室地域安全政策課に招聘され、普天間飛行場移転問題、グローバル人材育成政策立案に携わる。
著書:「現代国際政治の全体像が分かる!~世界史でゲームのルールを探る~

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東京IPO特別コラム:「「空飛ぶ宮殿」プレゼントの意味するもの」

トランプ大統領の中東歴訪と同タイミングで、ロシアとウクライナ間の停戦交渉が行われました。もし、アメリカとイランの間での核交渉も上手くいけば、ダブル和平になったところです。この「ビッグ・ディール」はまだ叶わず、単なるビジネス交渉の旅になったと専らの報道です。中でも、「空飛ぶ宮殿」ともいわれる豪華飛行機の贈呈は、中東のホスト国のトランプ大統領への歓迎ぶりを象徴しているのでしょう。

しかし、見返りなくして、プレゼントなし。ましてや、約580億円もする、カタール王室仕様のジャンボ機(ボーイング747型)です。*アメリカやトランプ大統領が好きだから、という理由ではありません。それ相応の仕事をしてくれたからか、これからしてもらうためのプレゼントと理解すべきでしょう。

では、いったい何を中東のホスト国は求めたのでしょうか?

イラン核問題の平和的解決への模索は続く
一言でいえば、イランと戦争してくれるな、ということです。今回の中東歴訪で、巨大な投資商談がまとめるニュースの裏では、トランプ大統領は、カタールがイランとの戦争を望まず、交渉でイラン核問題を解決するよう強く求めた、イランはカタールに大いに感謝すべき、さらに米イラン核問題交渉は、終結に向かっていると発言しています。**産油国の傍で戦争されたら、世界中オイルパニックになりますし、彼らのビジネスも立ち行かなくなります。何事も穏便に、と丁重なおもてなしをしたのでしょう。

その甲斐あってか、仲介国オマーンは5月23日にローマで米イランが再交渉すると発表しました。***但し、両者の要求の溝がまだ完全に埋まったわけではないようですが、アメリカがどこまで譲歩するかが、焦点となります。

以前お話しました通り、トランプ政権もウラン濃縮度を低程度にすればよいと考え、イランもオバマ時代からそれならよいと応じていたのですから、そこが落としどころなのです。それを、イスラエルの横槍で、トランプ政権が軌道修正を余儀なくされたのです。そこで、イスラエルとの内通者を実質更迭した上で、イランとの戦争を望まないアラブ3か国から、丁重なおもてなしを受けたのです。先月までイランとの交渉が不成立に終わったら、アメリカ主導でイランと戦争すると言っていた、トランプ大統領が振り上げた拳を何とか静かに下すための「政治ショー」を、トランプ大統領とアラブ三か国が演じたわけで、「空飛ぶ宮殿」は、その目玉商品なのでしょう。

加えて、今回の歴訪中、ハマスは人質に取っていた最後のアメリカ人(正確にはアメリカとの二重国籍を持つイスラエル兵)1名を解放しました。イラン側からの軟化した態度の表れとみるべきでしょう。イスラエルはガザ攻撃を全く止めていませんし、パレスチナ人を誰も解放していませんし、イスラエル政府による関与がないと報じられていますから、純粋にアメリカとハマス(、イラン)との交渉の結果なのです。****

イスラエルとの関係にすきま風?
ここで気になるのが、イランを敵視しているイスラエルです。日本の報道も、イスラエルを訪問せず、素通りを指摘していました。しかし、歴訪の目的が上記であれば、イスラエル側からお断りするでしょう。

とはいえ、どうしてトランプ大統領は露骨にイスラエルと距離を置くようになったのでしょう?

一つには、イスラエルには、アラブ産油国がアメリカに与えられる、巨大な投資資金はありません。むしろ、アメリカから資金を受け取る側ですから。今トランプ大統領が望むアメリカ再建には、多くの国からの投資・雇用創出が必要です。

二つ目として、トランプはノーベル平和賞を狙っているという指摘があります。確かに、ウクライナ戦争を終結させ、イラン核問題を平和裏に解決し、イラン戦争を回避できれば、ノーベル平和賞ものです。しかるに、イスラエルはこの野望を砕く方向に注力しています。

三つ目かつ最大のポイントは、アメリカでのイスラエル・ロビーの影響力低下です。ここ十数年のイスラエル右派、極右政権による、過度な人種差別/隔離、パレスチナ人虐殺を目の当たりにして、ユダヤ系アメリカ人が憂慮し始めています。こんなことを許容したら、世界に反ユダヤ主義を煽るだけであり、それはそのままイスラエル国外にいるユダヤ人への危害へと発展しかねませんし、起きつつあると言います。

こうした風潮を受け、AIPAC(アメリカ政界へのユダヤ系ロビー団体)、ニューヨークタイムス紙、英エコノミスト誌等、一部の大手国際メディアが、イスラエル支持に距離を置き始めているといいます。このようなイスラエルは、彼らが自負しているリベラリズムの正反対だからです。実際、ユダヤ系アメリカ人の多くは、イスラエルではトランプ大統領の人気が高いということに愕然としています。*****

さて、この現象はとても興味深いです。なぜここにきて、イスラエル本国とユダヤ系アメリカ人(ディアスポラ)との間に、すきま風が吹いているのでしょうか?少し掘り下げてみていきたいと思います。

ユダヤの純度が上がれば、レジリエンスが消える不思議
ユダヤ人が3人寄れば、4つ政党ができると言われる位、多様な考えを持つことで知られますが、その反面恐ろしく頑固なところがあります。それが、「ユダヤ教」です。約2000年間少数民族として肩の狭い思いをしてきた人々にとり、神に選ばれたという「選民」思想が、心の拠り所であったことは、想像に難くありません。

しかし、近代西欧において、基本的人権や宗教の自由といった思想が生まれ、絶対王政から法治国家へ変貌していくにつれ、ユダヤ人にも一般市民としての門戸が開かれるようになります。その波に乗って、西欧の学校(ユダヤ教のシナゴーグではない)にユダヤ人も入学が許されるようになり、ゲットーに居住しなければならない等の制約が撤廃されていきます。この恩恵を十二分に享受し得た人々は、共に近代化、国際化するチャンスに恵まれました。

すなわち、当時生まれ始めた法務や会計等の専門分野での高級官僚や、裕福な商人(国際ビジネスパーソンと言いましょうか)から形成されていく中流階級や大学教授や教師といったインテリ層への道が、開けていきました。こうした過程の中で、その道を選ぶ人々は、ユダヤ的思考を持ち合わせつつも、「ユダヤ教」の持つ閉鎖性、頑迷性を捨て、よりオープンなコスモポリタンに変貌していきました。その反面、西欧ユダヤ人社会全般で、シナゴーグやラビ(ユダヤ教司祭)の影響力は低下していきました。

当然、西欧でこのような自由化が起これば、次第に中欧、東欧へも波及していきます。その中で、中欧、東欧のユダヤ人が、同様のチャンスを求めて立ち上がった運動が、シオニズムです。西欧よりも近代化が遅れていた同地域では、同等の自由化は難しく、「神が約束したシオンの地(イスラエル)」へ行くべきだという思想になります。

そこで少しずつ入植がはじまるのですが、特にどこかの政府の支援があるわけでもなく、中欧、東欧よりも後進地域のパレスチナに移住するのですから、移住者自身にとっても、大いなる決断だったわけですし、大量移民ではなかったので、それほど周囲のアラブ人との摩擦はなかったようです。(どの道、パレスチナはイギリス領ですから、現地ではアラブ人もユダヤ人もどちらも「二等市民」の扱いです)

しかし、ナチスによるユダヤ人迫害、第二次世界大戦が終了し、イスラエルが建国されると、周辺のアラブ諸国在住のユダヤ人が大量移民してきます。ヨーロッパ出身のシオニストには、全く忘れられた存在で、同じユダヤ人ながら、ヨーロッパで得た知識や技術の高さから、ヨーロッパ出身者がイスラエル国内で高い地位を得ます。ここに、それまでずっと中東地域に居住しており、アラブ人との協調関係の歴史を持っている人々の声が、イスラエル歴代政権の中で大きくならない理由があります。

結果、ヨーロッパ出身の「建国の父」たちの手によって、多くのパレスチナ人は殺害、追放されたにも関わらず、「建国時、アラブ人は自主的にイスラエルの地を去っていった」とイスラエルの歴史教科書は書かれるようになりました。

一方、欧米・キリスト教圏中心の国際社会では、神がイスラエルの地をユダヤ人に約束したというロジックは通ります。また、ナチスによるユダヤ人虐殺・虐待を見て見ぬふりをしていた良心の呵責を逆手に取り、欧米のディアスポラが手厚い支援や欧米国内でのイスラエル・ロビーを活発に展開してくれます。

そのおかげで、イスラエルによるパレスチナ人への人権侵害は、うやむやにされ、国際社会からの制裁が加えられないことをいいことに、イスラエル政府はますますパレスチナ人の多いかつ、ユダヤ教的な聖地にわざわざ「入植」する人々(往々にして右派か極右)を支援します。すなわち、入植地周辺に住むパレスチナ人の畑や家をブルドーザーで潰し、他地域への立ち退きを余儀なくさせ、他国へ移住するか、安い賃金労働者として、ユダヤ人の都市へ「出稼ぎ」するよう、実質強要します。これは完全に、南アフリカで少数の白人が大勢の黒人を「合法的に」搾取するアパルトヘイト政策と同じです。

こうした悪循環を、イスラエル国内で「正当化」する役割を果たしているのが、「ユダヤ教」のラビや狂信者たちです。世界各地に散らばっていたユダヤ人が集まるようになると、彼らを繋ぐのは、昔の心の拠り所である「ユダヤ教」しかありません。約2000年間別々の地域に居住していて、一体感を持つには、「共通の記憶」が何よりです。ここに、ラビという「ユダヤ教」の権威が復活し、イスラエル政界内に強い影響力を持つようになり、もはやイスラエル政界では彼らの声を無視した政権運営は、不可能となったといいます。******

最初はユダヤ人が他民族に迫害されない自らの国を作りたいだけだったはずなのに、イスラエルが徐々に国力を持ち、シオンの地とは、地中海からヨルダン川までであり、ユダヤ人が暮らすべきとなっていき、先住アラブ人は退去すべきと、エスカレートしていきます。

現実には、どんなに頑張っても、ユダヤ系イスラエル人より、アラブ系イスラエル人の人口は多く、暴力のみの対応ではユダヤ系イスラエル人の安全確保に失敗し続けているのにも関わらず、イスラエル指導層は、失敗の原因は、暴力が足りなかったせいと考え、さらなる暴力装置をつぎ込もうとします。パレスチナ人との共存を模索するという考えは、毛頭ありません。問題が起きるのは、アラブ人がイスラエルにいるせい、建国時に全員追放できなかったのが、間違いの元、と考えています。

そこには、一度大勢の弱き者へ暴力をふるってしまった、少数の強き者が持つ不安があります。一度殴ったら殴り続けるしか、身の安全を保つ方法がないと考えてしまうのです。そのためには、ユダヤ人は結束せねばならないというロジックに屈し、国内でパレスチナ人との共存を訴えるユダヤ系イスラエル人さえも、弾圧しようとしつつあります。例えば、国会議員の3/4が承認すれば、イスラエルでのパレスチナ人の戦いに支持を表明しない国会議員は、「武力闘争の煽動」を理由に議員資格をはく奪される、という法律が成立しました。*****

皮肉なことに、イスラエルでは自民族の純度が高まるほどに、「ユダヤ」であることが重視され、彼らが本来持つ柔軟性、レジリエンスを失い、暴力のみに訴え、世界から孤立する一方、自民族の純度が高い社会にいないディアスポラのユダヤ人の方が、彼らが本来持つ柔軟性、レジリエンスを維持し、暴力の継続利用を否定しています。

もちろん、このようなイスラエル政治に失望しているユダヤ系イスラエル人もいます。「イスラエルのユダヤ人社会では、自国の将来に対する不安が生じている。数万人、いや数十万人のイスラエル人がヨーロッパ諸国のパスポートを取得しようとしている。「将来、何が起きるか分からないからだ。イスラエルの若年層では絶望感が想像以上に広がっている。」*****

事態の推移には悲観的にならざるを得ませんが、今後も注視していきたいと思います。

*「カタールが米国にジャンボ機譲渡、特別仕様「空飛ぶ宮殿」の異名も…憲法違反の可能性浮上」、読売新聞、2025年5月22日。
https://www.yomiuri.co.jp/world/20250522-OYT1T50072/
** “Trump says US close to nuclear deal with Iran, but key gaps remain”, Al Jazeera, May 15, 2025.
https://www.aljazeera.com/news/2025/5/15/trump-says-us-close-to-nuclear-deal-with-iran-but-key-gaps-remain
*** “Oman confirms new round of US-Iran talks despite enrichment dispute”, Al Jazeera, May 21, 2025.
https://www.aljazeera.com/news/2025/5/21/oman-confirms-new-round-of-us-iran-talks-despite-enrichment-dispute
**** “Hamas frees soldier Edan Alexander as Gaza faces bombardment, famine risk”, Al Jazeera, May 12, 2025.
https://www.aljazeera.com/news/2025/5/12/hamas-frees-us-israeli-soldier-as-gaza-faces-bombardment-risk-of-famine
***** シルヴァン・シペル著「イスラエルVSユダヤ人 増補新版<ガザ以降>」。(今読むべき良書です)
****** ドナ・ローゼンタール著「イスラエル人とは何か」(こちらも、今読むべき良書です)


吉川 由紀枝                     ライシャワーセンター アジャンクトフェロー

慶応義塾大学商学部卒業。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)東京事務所
にて通信・放送業界の顧客管理、請求管理等に関するコンサルティングに従事。2005年
米国コロンビア大学国際関係・公共政策大学院にて修士号取得後、ビジティングリサーチ
アソシエイト、上級研究員をへて2011年1月より現職。また、2012-14年に沖縄県知事
公室地域安全政策課に招聘され、普天間飛行場移転問題、グローバル人材育成政策立案に携わる。
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東京IPO特別コラム:「トランプ大統領のマジックショー劇場:関税宣言の後ろに隠したい米・イラン核交渉」

関税宣言はShoot & Ask
今年4月の関税宣言に対する日本の反応は、非常に情けないです。元々大統領選挙運動時代から関税引き上げは、トランプ大統領の宣言するところであり、抜き打ちではありません。数字の高さとその計算方式が謎すぎるだけで、露骨に動揺していては、ますます相手に見透かされます。

トランプ大統領の交渉手法は、典型的なアメリカの交渉手法であるShoot & Askでしょう。すなわち、西部劇よろしく、荒野の中で近くに潜んでいると思われる敵か味方か分からない相手に聞こえるように、銃を空に向かって放ち、相手を怖がらせてから、聞きたいことや要求を言うのです。

これだけ日本の産業界やメディアが大騒ぎしたので、よほどのことがなければ、交渉はアメリカ有利に終始進められるものと思われます。最初に放つ日本側の質問は、実際の落としどころはどこか?ということでしょうから、きっとアメリカ側は一定期間言いません。日本がどんな交渉材料、譲歩案を出してくるかを見極めているからです。日本側は最初に小出しに出すような譲歩案は、検討に値しません。放置されるほどに、日本側はおののき、さらなる譲歩案を出すので、これ以上出せそうにないところで、トランプ大統領のつぶやき恫喝が1,2回あり、苦しい譲歩を強いられた上で、手打ちするものと思われます。完全に、トランプ大統領の手のひらの上で踊らされています。

また、日本側の動揺ぶりを見ると、いかに日本にリスク管理が根付いてないかが、よく分かります。(ちなみに、著者も共著した「危機管理の基礎と実践 リスク管理は最高のキャリア術」が出版されました。まずはこちらのご一読をおススメします)

多くの国がアメリカに関税率について話し合いたいと殺到しているのも事実ですが、EUのようにトランプ政権に近いイーロン・マスク氏がCEOを務めるテスラ車への不買運動を展開し、報復関税を実施する、また中国のようにそもそも交渉しない、などの姿勢も重々検討した上で、交渉に臨んでほしいものです。(ちなみに、前職ではこのような姿勢を「他人の土俵で戦わない」と言いました。)

トランプ・マジックショー劇場
さて、今回お話したいのは、日本の対応のお粗末ぶりではなく、なぜこのタイミングでトランプ大統領は関税宣言をしたのか、です。

トランプ大統領は、良くも悪くも現状打破の大統領です。国内の不文律はもとより、国際秩序を形成する様々なルール、不文律を作り変えようとしています。当然外国との交渉、Shoot & Askをたくさんせねばならない状態になります。ただ、トランプ大統領のShoot音は大変大きいので、世界中のメディアが相手国に押し掛け、取材してしまうと、相手国の態度は硬化せざるを得ません。そうなってしまうと、トランプ大統領の思惑通りにはいきにくくなってしまいます。

そこで、一度にすべての交渉相手に向けてShoot & Askするのではなく、小出しにしていくのです。例えば、今年1月の就任前から発言している、パナマ運河のアメリカ再所有化については、その後2月にバンス副大統領がミュンヘン安全保障会議でEU批判をし、さらに3月ウクライナのゼレンスキー大統領と公開口論をし、世界の注目はパナマから逸れました。その間、パナマとの交渉(圧力)は継続し、運河運営を委託していた中国系企業との契約は打ち切られ、アメリカ籍の船舶の通行料は無料となりました。自身の思い通りに事が運べば、パナマ運河の「所有」自体は問題ではないのでしょう。

すなわち、1発目のShoot & Askからしばらく間を置き、2発目のShoot & Askを放つのです。そうすることで、2発目のShoot & Askがいわば煙幕の役割を果たし、世界の注目を2発目に逸らします。そして、世界が忘れた頃の3月に、1発目のShoot & Askの成果が公表されるのです。同様に、しばらく忘れられていたゼレンスキー大統領との鉱物資源共同開発協定締結が、5月に発表されました。

このように考えると、3月ウクライナ戦争終結に向け、またイラン核問題についてイランと間接協議に合意した直後の4月に関税宣言があったこととなり、4発目のShoot & Askが放たれ、関税宣言を煙幕とし、米イラン交渉が人目を避けて交渉されていました。

煙幕の裏側の米イラン交渉
今年3月末、イランはアメリカとの「間接」交渉に合意しました。その実態は、オマーンが仲介となり、アメリカ側とイラン側が同じ建物の違う場所に陣取り、その間をオマーン外交官が往復し伝言していたといいます。静かに交渉できる環境が生まれたせいか、4月中に第3ラウンドまで終了しています。

しかし、不幸にして、そんな煙幕に騙されない国が当事国以外にいます。もちろんイスラエルです。イランがアメリカと交渉する用意があると発言した直後の4月当初、ネタニヤフ首相が訪米し、米軍中心でイスラエル軍と共に、5月にイランの核施設を壊滅させようと提案したと言います。いくらイランに対しタカ派の高官がいると言っても、さすがにトランプ政権はまず交渉を優先させることに決めました。それでも粘ったネタニヤフ首相に、もし交渉が不発に終われば、アメリカが主導してイランを不幸な状態に陥れようという言質を、トランプ大統領は与えました。*(よほど交渉が上手くいくことに自信を持っていたのでしょうか。。。)

そして確かに、まずオマーンの首都マスカットで第1ラウンド、ローマで第2ラウンドが行われました。(ローマを選んだのは、元々イラン核問題は、米ロ中英仏独EUとの間の協議でしたので、交渉相手をヨーロッパにまで拡大しようという意図があると、見て取れます。)ここまでスムーズに話は進んでいました。

とはいえ、イスラエルのガザへの攻撃や米軍のフーシ派への攻撃は、継続しています。特に、米軍は中東へ兵力増強しています。パトリオットミサイル2基と終末高高度防衛ミサイル(通称THAAD)システムを中東に、さらにインド洋のディエゴ・ガルシア諸島にB-2爆撃機6機(イラン核施設を壊滅させるのに充分であろう、合計約15tの爆弾を搭載可能)を配備したと報じられています。*(まさに、圧力MAXの中での交渉です。。。)

しかし、4月15日に事態は急変します。元々この交渉は、トランプ大統領とウィットコフ特使が二人で行っていました。検討案は、ほぼオバマが締結した合意内容(通称JCPOA)と一緒でした。それも当然で、オバマ政権もイランとこの合意に至るまでに様々イランに経済制裁等圧力をかけた末に出来上がった内容なので、トランプが新規に交渉すると言っても、ここから大きく逸脱することはないというのが、専門家の見立てでした。

ただ、イスラエルにとり、JCPOAに対する懸念点は、イランに低濃度のウラン濃縮を認めるということでした。イランにも核の平和利用をする権利はあるからですが、これを認めると、イランに核施設は存続し、イランの胸先三寸でいつ爆弾級の高濃度化が行われ、核兵器所有に至ってもおかしくないと、イスラエルは疑います。

そうしたイスラエルの懸念を重視していては、イランとの交渉はまとまりません。故に、ウィットコフ特使と二人で進めていたわけですが、やはり漏れるものは漏れ、4月15日に、ウィットコフ特使は、やはりすべてのウラン濃縮をイランは断念しなければならないと、公に発言せざるを得ませんでした。**

その後迎えた第三ラウンドは、当然不発に終わり、4月25日イランはロシアと40億ドル級の石油共同開発協定(イランの7油田をロシア企業と共同開発)を結ぶ***形で、ますますイランはロシアに傾倒しました。さらに同月28日には、イラン外相はイスラエルが交渉妨害をしているとして非難し****、とうとう第4ラウンドは延期(再開時期は未定)となってしまいました。*****

ウォルツ大統領補佐官更迭の真相
さて、ここで興味深いのは、ウォルツ大統領(安全保障担当)が「更迭」され、国連大使へ指名されたことです。当初米国記者へのフーシ派攻撃情報の事前漏洩が原因かと言われていましたが、そうでもなさそうです。

イスラエルのメディアによれば、ウォルツ氏はあまりに「タカ派」なので、「ハト派」トランプが求める関連官庁内調整ができず、更迭されたと言います。******その後、米ワシントンポスト紙による、ウォルツ補佐官とイスラエルとの「緊密」な接触が報じされるや、イスラエル首相官邸が即座にその事実を否定するという一幕もありました。*******

すなわち、トランプ大統領とウィットコフ特使とで秘密裡に進めていたイラン交渉案を、ウォルツ氏がイスラエル側にリークし、実質交渉決裂させたということになります。そこで、トランプ大統領への「裏切り行為」により、ウォルツ氏は更迭されたというわけです。但し、イスラエル側への配慮により、トランプ政権から完全追放はできずに、国連大使として留まり続けるということです。

この仮説を確信させるのが、ウィットコフ特使の留任です。本当にトランプ大統領がイスラエル寄りであれば、イランに有利な形での交渉を進めた責任を取らせる形でウィットコフ特使は解任され、それを注進したウォルツ氏は褒められるところです。しかし、その逆であるということは、トランプ大統領は、イスラエルの意向に反してでもイランと交渉成立させたいという意思を持っていることになります。であれば、引き続き交渉を再開する動きは、多少間をおいても生まれるでしょう。

さて、トランプ大統領がイランへ送ったとされる、交渉開始を求める書簡には、交渉期限は2か月、すなわち5月中であったと言います。対日関税交渉は3か月を目途に結果を出したいと言っていますから、本来であれば5月中にイランとの交渉が成功し、返す刀でウクライナ戦争も停戦し、バイデン政権が出来なかったことを成し遂げたわけで、トランプ大統領の威厳?偉大さ?が誇示され、ますます日本としては関税交渉がしにくい状況になったのかもしれません。

アメリカが日本に対し求めているものを見極めるのも大事ですが、アメリカの足元を見ることも重要です。

* “Trump Waved Off Israeli Strike After Divisions Emerged in His Administration”, New York Times, April 16, 2025.
https://www.nytimes.com/2025/04/16/us/politics/trump-israel-iran-nuclear.html
** “Iran ‘must stop and eliminate’ nuclear enrichment, says US envoy Witkoff”, Al Jazeera, April 15, 2025.
https://www.aljazeera.com/news/2025/4/15/iran-must-stop-and-eliminate-nuclear-enrichment-says-us-envoy-witkoff
*** “Iran to sign $4bn oilfields deal with Russia in bid to bolster ties”, Al Jazeera, April 25, 2025.
https://www.aljazeera.com/economy/2025/4/25/iran-to-sign-4bn-oil-deal-with
**** “Iran accuses Israel of seeking to disrupt nuclear talks with US, Al Jazeera, April 28, 2025.
https://www.aljazeera.com/news/2025/4/28/iran-accuses-israel-of-seeking-to-disrupt-nuclear-talks-with-us
***** “Fourth round of US-Iran nuclear talks postponed amid continued tensions”, May 1, 2025.
https://www.aljazeera.com/news/2025/5/1/fourth-round-of-us-iran-nuclear-talks-postponed-amid-continued-tensions
****** “Trump removes Mike Waltz as national security adviser, makes him new UN ambassador”, The Times of Israel, May 1, 2025.
https://www.timesofisrael.com/white-house-national-security-adviser-mike-waltz-said-forced-out-witkoff-may-replace-him/
******* “PM’s office denies report Netanyahu had ‘intensive contact’ with Waltz over Iran”, May 3, 2025.
https://www.timesofisrael.com/liveblog_entry/pms-office-denies-report-netanyahu-had-intensive-contact-with-waltz-over-iran/


吉川 由紀枝 ライシャワーセンター アジャンクトフェロー

慶応義塾大学商学部卒業。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)東京事務
所にて通信・放送業界の顧客管理、請求管理等に関するコンサルティングに従事。2005年
米国コロンビア大学国際関係・公共政策大学院にて修士号取得後、ライシャワーセンター
にて上級研究員をへて2011年1月より現職。また、2012-14年に沖縄県知事公室地域安
全政策課に招聘され、普天間飛行場移転問題、グローバル人材育成政策立案に携わる。
著書:「現代国際政治の全体像が分かる!~世界史でゲームのルールを探る~」

定期購読はこちらからご登録ください。https://www.mag2.com/m/0001693665

東京IPO特別コラム:「パックス・トランプ構想:トランプの望む平和な多極化世界」

トランプ流外交ディール:ウクライナと中東を一挙解決
今年始動のトランプ政権は、とにかく矢継ぎ早に外交政策を打ってきます。一方でウクライナ戦争終結のため、サウジアラビアでロシア高官と交渉中です。しかも、興味深いことにトランプ大統領が交渉初期に起用したのが、ルビオ国務長官ではなく、ウィットコフ中東担当特使です。

他方、イスラエルのガザでの虐殺を容認し、ハマスやフーシ等反イスラエル勢力の黒幕と目されるイランへの最大圧力外交を展開しています。イランから軍事支援を受け、紅海で海賊・テロ行為を展開するフーシ派へ、米軍が攻撃を激化させています。また、対イラン経済制裁も強め、イラクによるイランへの電力輸入許可も期限更新はしないと宣告し、さらにイランから原油を輸入している中国の独立系製油所に対し、制裁を加えると発表しています。

バイデン政権ではいずれの問題も解決できなかったものを、なぜ同時進行させているのでしょう?1期目で4年という任期中にできることの短さを痛感したこともあるのでしょうが、両方ともトランプ流外交ディールの一部だから、と考えると合点がいきます。

以前お話しましたが、ロシアはアメリカに、ロシアの隣国・ウクライナがNATOに加盟させないこと、即ち中立化を求めています。(内々には、ウクライナのみならず旧ソ連邦や一部の旧共産圏も求めているかもしれませんが。)いわば、1945年に立ち返り、強国ドイツとの緩衝地帯、あるいはロシアの裏庭を取り戻したいということでしょう。

一方、アメリカがロシアに対し求めているもの、それは中東、特にイランへの影響力です。トランプ大統領は、盟友イスラエルの安全保障を確立するため、イランからの間接攻撃を止め、あわよくば国交樹立させたいと考えています。1期目では、イスラエルと、サウジアラビアの露払い(衛星国)であるアラブ首長国連邦(UAE)、及びバーレーン、スーダン、モロッコとの国交樹立を実現させました。(アブラハム合意)

これを前哨戦とするなら、本丸はサウジアラビアとイランとの国交樹立でしょう。ここまですれば、イスラエルの安全を脅かす国はなくなります。ただ、一気にそこまで達成するのか不明ですが、まずはイランの核武装放棄が最低条件だと推察できます。

イランの核は本当に売り物なのか?
イランの核武装への攻撃姿勢の背景には、国際原子力機関(IAEA)が、ウランを核爆弾級に濃縮し、核爆弾製造に必要な量を確保できるのも、(そして核武装するのも)秒読みだと今年に入って報告しているからと報じられます。(但し、IAEAはアメリカ主導の国際機関なので、トランプ政権の対イラン最大圧力外交政策を正当化するための情報操作かもしれません)

ですから、米ロ間では既にウクライナ戦争終結で合意しているでしょうが、イランが核武装を放棄せず、ハマスが相変わらずイスラエル人人質を全員解放せず(イスラエルの諜報力を以てしても人質解放が出来ないのは、よほどハマスがパレスチナ人に支持されているのでしょう。これは驚嘆に値します)、強硬に頑張っています。

そのため、ウクライナ戦争終結の話は正式に発表されず、交渉の場は、ペルシャ湾をはさんだイランの隣国・サウジアラビアで行われているのでしょう。サウジアラビアとイランは、国交回復しましたし、イラン側が直接サウジアラビアに行き、内々に交渉するにしても、サウジアラビアから間接的に話を聞くにしても、好都合です。

もちろん、露骨な最大圧力政策に対し、今年1月イランのアラガチ外相は、アメリカやイスラエルによるイラン核施設への攻撃は、イランとの全面戦争を意味するとけん制しています。しかし、すぐにトーンが軟化していきます。2月アラガチ外相は、「最大圧力下では」アメリカと交渉しないという発言になり、さらに3月に送られたトランプ大統領の手紙に対し、イランの宗教(実質国家)指導者のハメイニ師は、アメリカと核問題について交渉しても、国際経済制裁解除に繋がらないので、アメリカと交渉することに意味がない、と発言しています。*

この発言は、非常に興味深いです。一見拒否しているようですが、裏を返せば、経済制裁解除という「実」があれば、核問題は交渉可能ということです。あるいは、既に水面下で交渉が進んでいて、解除される経済制裁の範囲をさらに広げるよう、あるいは全面解除をアメリカへ要求しているのかもしれません。そして、この発言の直後、中国がロシアとイラン代表団を招集し、3か国の共同宣言として、アメリカ主導の経済制裁を止めるよう求めました。**

そして、かなり交渉の目途が付いたのでしょう。ようやくアラガチ外相が、トランプ大統領の手紙がオマーン経由で届けられたこと、最大圧力政策が続くので、直接的に交渉したくはないが、間接的な交渉は続けると、公にしました。***(すなわち、既に交渉は始まっているということです)

北朝鮮が経済制裁解除や経済援助と引き換えに核開発、核武装を結局放棄しなかったことと比べれば、イランが核武装放棄の可能性を認めていることは、注目に値します。それほど経済制裁による経済不振が響き、民衆の声を聴かねばならないほど逼迫しているのでしょう。事実、今年3月経済大臣がインフレやイラン通貨下落の責任を取らされる形で、弾劾され解任されてしまいました。****

アメリカ版「栄光ある孤立」?
一見、トランプ流ディールは実を結びつつあるように見えますが、全くリスクがないわけではありません。まずフーシ派に関する理解です。よくこの武装集団はイランの手下のように説明され、トランプ大統領も、フーシ派から米軍への攻撃は、イランからの攻撃とみなすと発言しています。しかし、テヘラン大学のアーマディアン教授によると、過去イランから軍事支援を受けていたが、今はイランからの援助を必要とせず、自身の裁量で活動しているため、イランが本当にアメリカやイスラエルへの攻撃をやめるよう依頼しても、いうことを聞かないのではないか、と指摘しています。*****よって、この理解の相違により、誰も望まない全面戦争に突入するリスクがあります。

それ以上に不気味な沈黙をしているのが、西欧諸国です。このトランプ流ディールには、全く西欧諸国が関与していません。これまで、イラン核問題について国際的に議論する際には、P5+1と称し、ヨーロッパからイギリス、フランス、ドイツが関与していました。また、ウクライナ戦争に関しては、ヨーロッパ諸国もウクライナを支持し、トランプ大統領に振られたゼレンスキー大統領を英仏中心でかばう姿勢を示しています。

色々関与をしてきたのに、突然トランプ流ディールで除け者にされた国々は、当然面白いはずがありません。しかし、こうした国際介入に従事してきたフランスやドイツの支配層は、それどころではないかもしれません。現在ヨーロッパ大陸に極右勢力が勢いを得て、彼らを政権から引きずり降ろそうとしています。これに、トランプ大統領の盟友、イーロン・マスク氏が、ドイツの極右政党AfDの集会で演説する(ナチス式敬礼をした、しないで物議をかもしました)形で、トランプ政権は極右勢力を応援しています。その甲斐あってか、AfDは今年2月の総選挙で第2党に躍進しました。

そうした中、イギリスだけが、あまり極右の波に吞まれていません。(全く影響がないとは言いませんが)大陸と違い島国なので、欧州離脱(ブレグジット)や不法入国者の水際対策が有効であり、またアメリカのように実質二大政党制なので、大陸のように政権交代が起きにくいのでしょう。

イギリスのエリート層としては、アメリカがイギリスを除け者にするのなら、連合を組む相手は他のヨーロッパ諸国しかありません。しかし、大陸には仇敵・親ナチスが勢力を伸ばしているわけですから、中東に手を出す前に、足元をしっかりさせなければなりません。そのためには、ロシアとの協調も視野に入れざるを得ず、そのためにはトランプ流ディールに同意し、ロシアの裏庭への政治・経済・軍事介入を控えねばなりません。その上で、英露の共通の敵、ドイツの親ナチス勢力に対抗するという構図に持っていこうとするでしょう。何せトランプ政権が親ナチス勢力を煽っているのですから、アメリカはあまり頼りになりません。

すなわち、英露対独という勢力争いが生まれ、どの国も互いの国に注力せざるを得ず、自ずとパワーバランスが出来、それを崩れそうな場面が生まれれば、アメリカが多少介入し、バランスを取り戻すようにするでしょう。これこそが、まさに近代イギリスが大陸に対し行っていた、「栄光ある孤立」の現代版です。

元々米欧諸国が他地域に介入しなければ、積極的に外国に戦争を仕掛け、世界を危険に陥れる国は、ほぼありません。アジアでいえば、日中印はいずれも好戦的ではなく、周囲に競合する地域大国がいるので、互いに互いをけん制させておけば、自ずとパワーバランスは生まれます。(中国けん制に日印の不足分は、アメリカが補う気でいるでしょうが)

中東では、トランプ政権がイランの牙を抜いてしまうので、残るサウジアラビアも好戦的ではありません。中南米は、アメリカの「裏庭」なので、大きな戦争に発展することは無いでしょう。唯一アフリカが考慮されていませんが、当分アフリカの外に飛び火して大戦争が生まれる危険性は、考えにくいです。

その上で、西半球以外の世界を安全保障のジレンマに浸からせれば、文句はないでしょう。安全保障のジレンマを始めるには、トランプ大統領が同盟国に防衛費を上げろと、文句を言えばいいのです。日韓やNATO諸国が防衛費を上げれば、非同盟国のロシア、中国や周辺のアジア中進国は、この防衛費上昇に対抗してさらに軍備を増強せざるを得ません。それを見た同盟国がさらに防衛費を上げます。こうして、防衛費を上げているのに、誰も安心感を持てず、さらに防衛費を上げ合う状態を、安全保障のジレンマと呼ぶのですが、各国のこうした努力により、地域のパワーバランスは保たれます。(但し、ひとたび戦争となれば、各国が多くの武器弾薬を抱えているので、より危険になるのですが。)

そして、こうした状態こそが、トランプ大統領の望む、多極化世界なのでしょう。そうしている間に、トランプ政権は国内問題解決にまい進し、国力を上げたいと考えているのではないでしょうか。

但し、ワイルドカードがあるとすれば、それはイスラエルです。トランプ大統領の在任中はイスラエルを押さえられるでしょうが、退任後もネタニヤフ首相や似たような超好戦的政権が生まれるようなら、厄介です。

* “Iran’s Khamenei says nuclear talks with US won’t lift sanctions”, Al Jazeera, March 12, 2025.
https://www.aljazeera.com/news/2025/3/12/irans-khamenei-says-nuclear-talks-with-us-wont-lift-sanctions
** “Russia, China call on US to drop Iran sanctions, restart nuclear talks”, Al Jazeera, March 14, 2025.
https://www.aljazeera.com/news/2025/3/14/iran-russia-china-call-on-us-to-lift-sanctions-and-restart-nuclear-talks
*** “Iran responds to Trump letter on nuclear talks, state media reports”, Al Jazeera, March 27, 2025.
https://www.aljazeera.com/news/2025/3/27/iran-responds-to-trump-letter-on-restarting-nuclear-talks-state-media
**** “Iran’s economy minister impeached as inflation rises, currency falls”, Al Jazeera, March 2, 2025.
https://www.aljazeera.com/news/2025/3/2/irans-economy-minister-impeached-amid-rising-inflation-falling-currency


吉川 由紀枝 ライシャワーセンター アジャンクトフェロー

慶応義塾大学商学部卒業。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)東京事務
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全政策課に招聘され、普天間飛行場移転問題、グローバル人材育成政策立案に携わる。
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東京IPO特別コラム:「マクロンがトランプに媚び、バンスがヨーロッパに説教?:身の丈国家運営への抵抗」

米欧のあり得ない光景たち
昨今従来では考えられなかった動きが、いくつか米欧関係に見られます。米欧間の主要なつなぎ役であったイギリスよりも前に、フランスのマクロン大統領が、昨年12月まだアメリカ大統領に再任されていないトランプ氏をノートルダム大聖堂再開式典に招待し、会談に臨みました。また、今年に入り、イギリス首相が訪米する前に、マクロン大統領が訪米しました。従来、あまり見られない光景です。

一方、今年2月ミュンヘン安全保障会議において、アメリカのバンス副大統領が、米欧共通の脅威に対する今後の協力体制について語るかと思いきや、ロシアや中国以上に、ヨーロッパ内の「民主主義の後退」が問題だと主張しました。当然のことながら、出席した西ヨーロッパ諸国は反発します。

さらに、今後の軍事支援と引き換えにウクライナ国内の地下資源の提供についての協定調印のため訪米した、ウクライナのゼレンスキー大統領とアメリカ正副大統領によるメディアを前にした口論、その後ホワイトハウス内で予定されていた昼食会や調印式のキャンセルも、驚きの光景ではなかったでしょうか。

今回は、こうした一見あり得ない光景から、アメリカからのメッセージを読み解いてみたいと思います。

アメリカからのメッセージ:身の丈にあった国家運営をせよ
アメリカからのメッセージは、非常に単純明快です。身の丈にあった国家運営をせよ、です。ヨーロッパ単独でロシアに勝てないのだから、ロシア周辺の東欧諸国へEUやNATO参加を奨励し、ロシアの安全保障を脅かして、何を考えているのだ?いつまでもアメリカの威を借りて強気な外交攻勢をしているのではない、ということです。ロシアよりも、ヨーロッパの方が民主主義を堅持し、独裁国家とは違うと偉そうに言っても、ヨーロッパ全てにおいてそんな高い水準を満たしているわけでもない、選挙自体をキャンセルし、政権の延命措置を取っている国もあるではないか、どの口がロシア批判できるのだ?ということです。

かつてゴルバチョフ書記長が謳った「ヨーロッパの家」構想、そして独メルケル首相がロシアを孤独にさせず、ロシアから天然ガスを輸入する等の形でロシアとの健全な関係を維持しようとしたメルケル外交に戻り、身の丈にあった国家運営をせよ、ということです。

実は、再任早々トランプ政権は、NATO軍としてヨーロッパに駐在の米軍を2万人削減予定だとヨーロッパ側へ伝達し、ヨーロッパの防衛費を5%に引き上げるよう、要請しています。*その分ヨーロッパが肩代わりする意思はあるが、時間がかかると色々言い訳していたわけです。そのため、アメリカ側がしびれを切らし、バンス副大統領の演説で、どこかの番組風に言えば、「ぼーっと生きてるんじゃねえよ!」と言ったのでしょう。

ウクライナにしても同様です。いくら西欧諸国が煽ったからと言って、ロシアの隣国がロシアに配慮しない外交をしてどうする?ロシアの侵入の口実を作るような、ロシア系国民を弾圧してどうする?(この手は、16世紀以降、ロシア帝国がオスマン帝国に対し戦争をする口実に使っている、実に古い手口です)自国の国力を省みず、外国の援助に頼り続けるにも程がある、ロシアの隣国として西欧とロシアとの間でうまく共存し、身の丈にあった国家運営をちゃんとやれ、ということです。(実際、西欧が激しく煽るようになる前は、ウクライナはきちんと西欧・ロシア間でバランス外交していました)

そして、その一歩が、クリミア半島を含めすべての国土回復を頑なに要求する、ゼレンスキー大統領の従来の主張を取り下げ、アメリカが仲介する条件(ほぼロシアの要求そのまま)を受け入れるべきだ、ということです。事実、米欧からの軍事支援がなければ、ウクライナは戦争を継続できませんから、パトロン側からの当たり前すぎる最後通牒です。トランプ仲介に合意すれば、ウクライナは露骨に敗戦国と言われず、ゼレンスキー大統領自身も、不名誉な形での大統領職辞任を避けられるでしょう。

しかし、拒否すれば、頼りないヨーロッパ諸国の軍事支援で首都キーフ制圧まで何日持つかの世界でしょう。ホワイトハウスから追い出されたゼレンスキー大統領は、即行ヨーロッパへ泣きつきに行き、とりあえず何かしら形だけでも「ヨーロッパ再軍備計画」の進捗を見せてくれるショーは見せてもらいましたが、心もとないでしょう。。。

フランスの思惑
さて、アメリカがヨーロッパに対し、対米依存症からの脱却を求める中、ヨーロッパで最も真っ青になるのは、ゼレンスキー大統領以外にもう一人います。それは、マクロン大統領です。

もともと、NATOの存在意義を「アメリカを引き入れ、ドイツを下し、ロシアを入れない」と言います。その中の「ドイツを下す」という部分に、最も安心感を得ているのが、フランスです。19世紀の普仏戦争以降、フランスはドイツと単独で勝てたことはありません。第一次、第二次世界大戦でも、英米に救われ、かろうじて「戦勝国」を演じているだけです。

とはいえ、ロシアの脅威も否定できず、ドイツには対ロシアでは巨大な鉄壁であってほしいが、対フランスにはルクセンブルグのように安心できる隣国であってほしい、と自己矛盾した感情を本音のところでは抱いています。

しかし、第二次世界大戦後アメリカはヨーロッパから軍を引き、イギリスが大英帝国に目を奪われ、ドイツは戦後の混乱に苦しんでいる間に、フランスはヨーロッパのリーダーになれるチャンスに恵まれました。その後、冷戦体制が始まり、ドイツ再軍備を呑む代わりに、NATOを受け入れ、何かあれば米軍がドイツを下してくれる、と自らに言い聞かせたのでした。その上で、「戦勝国」フランスは、身の丈以上の高慢な態度で「敗戦国」にしてヨーロッパ経済の中心であるドイツに対し、経済的提携から始まり、今日EUという枠組みの中で、ドイツ経済の恩恵を受けつつ、謙虚なドイツと共存しています。

そして今、そもそもの前提である、「下す」はずの米軍というタガが、トランプ時代にほぼなくすというのです。

加えて、さらにフランスを苦しめるのは、ドイツの極右化現象です。フランス自体にも同様の現象はありますが、ドイツの極右勢は、ナチス政権の歴史を肯定する人々ですから、従来のドイツの謙虚さがなくなり、フランスにそこそこの発言権があったEU、NATOといったヨーロッパ諸機関は、今後ドイツが仕切り、フランスの発言力は凋落する―そんな未来が見えてきます。

恐らく、マクロン大統領は昨年からトランプ大統領に、上記の懸念事項を伝えているでしょうが、アメリカ自体の支出を削減し、自ら身の丈国家運営をしようとしている人物には、馬に念仏だったでしょう。フランスもウクライナ同様、隣国ドイツと、さらにはロシアと共存関係を築け、と反論されたでしょう。

一方、トランプ大統領は、ドイツの極右勢力を恐れてはいません。恐らくナショナリストとして理解しているからでしょう。ナショナリストであれば、外国に安全保障を頼り、安全保障上の制約(駐独NATO米軍)を取り払い、自らの力で自らを守ることを良し、とするはずですから。これは、アメリカからすれば、ヨーロッパの対米依存症症からの脱却です。このように考えれば、トランプ大統領の親友、イーロン・マスク氏が極右派へエールを送るのも理解できます。

そこで、今年に入りマクロン大統領自ら訪米し、盟友のイギリス首相や、ゼレンスキー大統領に訪米させても、トランプ大統領の意志は変わらないことを確認し、ヨーロッパ内でできることを見せ、トランプ大統領からもっと前向きな発言を獲得しようとしています。一方、マクロン大統領が、フランスの「核の傘」を他のヨーロッパ諸国に分かち合おうという発言は、ドイツからフランスの発言力を奪われまいとする、悪あがきの一環と見ていいでしょう。

ヨーロッパ・ウクライナを他山の石と見るならば
もし日本に身の丈にあった国家運営を求められたら、どうでしょう?それは、中国、ロシア、北朝鮮との関係修復を意味します。何せ、大西洋よりも「大きくて美しい」太平洋が、日本とアメリカの間にはあります。関係修復するということは、中国側に付くことでもあります。

日本単独で戦うには、中国軍は物量、兵員数の面で絶対に適いませんし、北朝鮮も核保有を諦めることはないと明言していますから、無理でしょう。そうした国に立ち向かう術は、もはや外交で仲良くやっていくということに外なりません。ただ、アメリカに捨てられたから、中国に仲良くしましょう、と言っても足元を見られるだけであることは、明らかです。

ある程度の自衛力を持った上での関係修復が、日本にとり、望ましいです。そのためには、核保有が最適解と言わざるを得ません。米軍が去るとなれば、日本にある核アレルギーが、とかナイーブなことを言っている場合ではありません。

しかし、日本の核武装をアメリカは容認するでしょうか?トランプ大統領でしたら、直観的な回答はYesでしょう。それは合理的な選択ですから。

しかし、アメリカの既存有識者は異を唱えるでしょう。日本がアメリカの「核の傘」から離れれば、日中で何をしでかすか分からない、また核不拡散、別名既存核クラブ国の優位性維持という観点からはよくないですから。そういう声を歴代アメリカ大統領は聞き入れ、日本も国内の核アレルギーを放置し、今まで「平和ボケ」と言われてきました。

さて、トランプ大統領の直観的な回答はYesですが、最終回答は何でしょうか?それは、トランプ大統領がどう中国と向き合うか、によります。対ロシアについては、プーチン大統領と直接取引をすることで、特別ヨーロッパが必要というわけではありません。但し、ロシアがアメリカの言うことを聞かない場合、ロシア産資源を買わないよう、国際社会にプレッシャーをかければ、天然資源を売るしか経済が回らないロシアは、最終的に屈します。

しかし、対中国については、トランプ大統領には決定打はありません。まずは中国からロシアを遠ざけ、伝統的なアジアの同盟国と結束し、かつ中南米の麻薬マフィアを排除する名目で、同地域への政治・軍事介入を辞さず、アメリカの方針を遵守させることで中国を孤立させ、アメリカからは関税を高くし、最先端技術が中国に流出しないよう、対中包囲網を作ることで、中国をできる限り弱体化しようとしています。

しかし、お山の大将的な性格のトランプ大統領が望むような、決定的にアメリカが中国よりも優位であると「誇示」できるような場面は作れないでしょう。

だから、対中包囲網の重要な一角を担う、日本や韓国の協力が不可欠なのです。そこが、トランプ大統領の泣き所です。このように足元を見るなら、防衛費増額を求めるアメリカに、日本の核武装を容認させる、いいチャンスなのです。特にトランプ大統領は、あまり既存の有識者の言うことを聞かず、独自の判断で動く人物ですから、ますますよい機会です。

* “Trump aims to cut US force in Europe by 20,000, compel subsidies from allies, Italian report says”, Stars and Stripes, January 24, 2025.
https://www.stripes.com/theaters/europe/2025-01-24/trump-europe-troop-cuts-16590074.html


吉川 由紀枝                     ライシャワーセンター アジャンクトフェロー

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米国コロンビア大学国際関係・公共政策大学院にて修士号取得後、ビジティングリサーチ
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東京IPO特別コラム:「韓国尹大統領の戒厳令茶番劇」

昨年12月3日深夜に韓国の尹錫悦大統領が突然戒厳令を発令し、わずか数時間で解除し、その後弾劾され、逮捕されるという異常事態が発生しました。当初この事件があまりにずさんに計画され、かつ尹大統領の説明が、「北朝鮮の脅威や「反国家勢力」から韓国を守り、自由な憲法秩序を守るためだ」*と、あまりに現実との違和感を与えたため、その真意が別のところにあると考えていました。それが少しずつ見えてくるようになったので、著者の推理を書いてみたいと思います。

引き金はトランプ再選
韓国は、ユーラシア大陸の一部であり、北に北朝鮮という厄介な存在があり、西に黄海を挟んで中国という大国と隣接している国です。中国がその国力拡大に伴い、その巨大市場でのビジネスチャンスを掴みたくもある一方、安全保障上は冷戦体制そのままにアメリカに大きく依存しています。よって、現在親米派の与党と親中派の野党の力が拮抗しており、与党は苦しい政治運営を強いられています。

さて、トランプ大統領の再選が、昨年11月に確定しました。恐らくその報を聞き、尹大統領の胸中をよぎるのは、トランプ政権1期目の光景でしょう。すなわち、トランプ大統領が、頭越しに北朝鮮の金正男総書記と3回も会談をし、失敗したという苦い経験です。さらに、同盟国に対し、各国の防衛費を引き上げるよう強硬に迫る姿も。実際昨年のトランプ大統領の選挙キャンペーン中、韓国は年間在韓米軍駐留費に100億ドルを支払うべきだと発言したと報じられています。**挙句の果てには、諸外国からの輸入に対し、関税をかけるという発言まで飛び出しました。

そして何よりも、中国に対し経済戦争を挑むポーズを隠そうともしません。当然同盟国である韓国に対し、米中いずれを取るかと踏み絵を突きつけることは、想像に難くありません。

悪いことに、中国も似たような思考回路になりつつあります。すなわち、2010年代韓国政権が追及してきた、「安全保障はアメリカ、経済は中国」という政策が、もはや立ち行かなくなっています。きっかけは、2016年米韓で終末高高度防衛ミサイル(THAAD)砲台を配備するという合意と言われています。この合意前に、中国政府は韓国政府に圧力をかけ、この配備を中止させようとしましたが、失敗しました。

当然、韓国政府は中国政府に対し、この配備は北朝鮮に対し備えたものであり、中国を狙ったものではないと説明しますが、中国政府はアメリカ政府が中国を意識した上での配備に違いないと疑います。そして、アメリカが超党派で中国をライバル視する姿勢が変わらない中、中国の疑惑を晴らすことは、確かに難しいです。一方、北朝鮮が韓国への脅威とならないよう、中国が北朝鮮の核武装を止められるかといえば、それも難しいわけです。よって、この議論は堂々巡りになるわけですが、相互不信は募るばかりです。

そこで、中国政府が報復措置として打ち出したのが、2021年尿素輸出規制です。2010年尖閣諸島沖の漁船衝突事件を受けた報復措置として日本に対しレアアース輸出規制を発表し、日本を慌てさせたのと全く同じ戦法で、韓国が尿素を97%中国からの輸入に頼っていることを逆手に取ったのでした。以前から、韓国政府は環境配慮の観点から、ディーゼルエンジンオイルには尿素水を加え、排ガスの有害物質(Nox)を削減するよう義務付けていたのでした。そこで急遽、韓国政府が軍事用オイルタンカーをオーストラリアへ急派し、尿素不足問題に対応したのでした。その間、庶民は尿素水を求め、長蛇の列を作る羽目となりました。***

今後米中経済戦争が展開されていく中で、トランプ政権が同盟国に辛く当たり、中国との関係を悪化させるような要求をますます強いてくるでしょうし、中国もその報復措置として新手の経済規制を発動させ、韓国経済に打撃を与えようとするでしょう。

とはいえ、安全保障なくして経済を語っても、仕方がありません。韓国としてはアメリカ側に付くしかないわけですが、問題はいかに韓国経済への打撃を減らし、アメリカにその補填を約束させるか、です。しかも、トランプ大統領がアメリカ大統領職に再就任する1月までの間に、トランプ大統領と、韓国からの輸入品への追加関税をなくすかあっても限りなく税率を低くし、中国とのビジネスチャンス分をアメリカ市場で補填できるよう、道筋ができないと、親米政権の看板を掲げ続けるのは、難しいです。

加えて、2023年4月に尹大統領は、バイデン政権に韓国へ戦術核配備を依頼し、韓国が核武装をしないと確約する代わりに、米海軍の原潜を定期的に配備することで合意しました。****その準備のための二国間協議が、2024年時点は継続しており、12月も開催予定でしたが、延期されました。(実際に韓国に到着したのは、2025年2月。*****)

トランプ政権から上記について何らかの確証が得られないうちに、中国政府の神経をますます逆なでする、アメリカから原潜配備を迎えるのはかなり危険です。しかし、その一方で、理由なく遅延を申し出れば、アメリカや中国に対し、誤解を招くメッセージを送ることになってしまいます。

さて、どうする、尹大統領?

ウルトラCは諸刃の剣
そこで繰り出したウルトラCが、敢えて政治不安定を作り、リーダー不在の状態を演出することだったのでしょう。こうすれば、トランプ政権と秘密裡に話し合う時間を稼ぎ、かつ米中に対し誤ったメッセージを送ることにもなりません。さらに、親米政権を失いかねないと思えば、アメリカからの譲歩は引き出しやすくもなります。何せ後継政権を担いそうな第一野党は、親中派なのですから、これから中国とやり合おうと考えている矢先に、味方だと思っていた対中最前線の国が、親米から親中へと政策転換されてはたまりません。

その実、戒厳令を発令した理由について、尹大統領は、当初その意図がわかりづらい説明をしていましたが、しばらくすると、中国のスパイ行為が戒厳令の原因であると言い出しました。昨年6月に中国人学生が、ドローンを使い、釜山に寄港中の米艦船を違法に撮影した事件がありましたが、そのうちの1名が中国スパイ機関の指示で活動していたと判明した、こうした行為を現反スパイ法では処罰できず、今後処罰できるように法改正しようとしているのに、親中派の野党が反対していた、と主張するようになりました。******

さらにエスカレートし、今年1月には戒厳令中、99名の中国人スパイが逮捕され、在日米軍へ移送されたという、中小メディアによる報道まで登場し、米軍さえも否認する一幕までありました。さらに、尹大統領支持者の一部が、中国政府が以前の選挙に介入していたとまで主張するようになりました。(韓国の選挙管理委員会はそのような事実はないと言っていますが。。。)*******

逮捕されたとはいえ、現職の韓国大統領側がこのように主張するのですから、中国政府としては、嫌でも反論する以外にありません。中国政府が火消しに回るほど、韓国社会に中国政府や中国に近しい韓国野党への不信感が広がっていきます。そうなれば、野党の攻勢も、鈍らざるを得なくなります。また、韓国建国以来前例のない話ですから、司法側も逮捕された現職大統領をどう対応すべきか苦慮するに決まっていますから、おのずと世論の方向へ傾きやすいはずでしょう。

このようにして、尹大統領は、トランプ政権側と政権維持できるだけの確約ができたら、中国悪玉説を大々的に宣伝することで世論に訴えることで、完全復帰を目指す、少なくとも与党内に政権移譲ができる状態にまで戻せる、と計算し、行動に移したのではないかと推理しています。とはいえ、戒厳令まで持ち出すとは、かなり大胆な発想ですし、韓国世論が充分に反中ムードに靡くか不確定要素はありますが。。。

* 「【解説】 なぜ尹大統領はいきなり非常戒厳を宣布したのか……翌朝には解除」, BBC News Japan, 2024年12月4日. https://www.bbc.com/japanese/articles/cr564eq6l3eo
** “Trump says S. Korea would pay $10 bil. per year for USFK stationing if he was in office”, Korea Times, October 16, 2024.
https://www.koreatimes.co.kr/www/nation/2024/10/205_384337.html;
Kuyoun Chung’s comment on question 1 in “How will South Korea navigate US-China competition in 2025?”, Brookings Institute, January 22, 2025.
https://www.brookings.edu/articles/how-will-south-korea-navigate-us-china-competition-in-2025/
*** “Urea shortage threatens South Korea’s transport, energy industries”, Reuters, November 9, 2021.
https://www.reuters.com/business/energy/urea-shortage-threatens-south-koreas-transport-energy-industries-2021-11-09/;
Kuyoun Chung’s comment on question 1 in “How will South Korea navigate US-China competition in 2025?”, Brookings Institute, January 22, 2025.
https://www.brookings.edu/articles/how-will-south-korea-navigate-us-china-competition-in-2025/
**** “US and South Korea agree key nuclear weapons deal”, BBC, April 27, 2023.
https://www.bbc.com/news/world-us-canada-65404805
***** “(LEAD) U.S. nuclear-powered submarine arrives in S. Korea to replenish supplies”, Yonhap News Agency, February 11, 2025.
https://en.yna.co.kr/view/AEN20250210003551315?section=national/defense
****** “Chinese student accused of filming U.S. aircraft carrier in Busan was model Communist Party member: Seoul”, Joongang Daily, December 4, 2024.
https://koreajoongangdaily.joins.com/news/2024-12-02/national/defense/Chinese-student-accused-of-filming-US-aircraft-carrier-in-Busan-was-model-Communist-Party-member-Seoul/2190619;
“China opposes ‘unfounded’ espionage claims by Yoon during public address”, Joongang Daily, December 13, 2024.
https://koreajoongangdaily.joins.com/news/2024-12-13/national/diplomacy/China-opposes-unfounded-espionage-claims-by-Yoon-during-public-address/2200039
******* “Claims Beijing intervened in Korean elections slammed by Chinese Embassy in Seoul”, Joongang Daily, February 9, 2025.
https://koreajoongangdaily.joins.com/news/2025-02-09/national/diplomacy/Claims-Beijing-intervened-in-Korean-elections-slammed-by-Chinese-Embassy-in-Seoul/2238110


吉川 由紀枝                     ライシャワーセンター アジャンクトフェロー

慶応義塾大学商学部卒業。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)東京事務所
にて通信・放送業界の顧客管理、請求管理等に関するコンサルティングに従事。2005年
米国コロンビア大学国際関係・公共政策大学院にて修士号取得後、ビジティングリサーチ
アソシエイト、上級研究員をへて2011年1月より現職。また、2012-14年に沖縄県知事
公室地域安全政策課に招聘され、普天間飛行場移転問題、グローバル人材育成政策立案に携わる。
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https://www.mag2.com/m/0001693665

東京IPO特別コラム:「トランプ大統領がグリーンランドやパナマに言及するのは、地球が丸いから」

昨年からトランプ大統領がグリーンランド購入について言及し、年末にはその息子がグリーンランドへ訪問しました。1期目でも同様なことを発言していましたが、今回の方がより本気度が高いように見受けられます。今回は、その真意について探ってみたいと思います。

欲しいのは安全保障上の理由か?資源か?
一般的な推測は、グリーンランドが地政学的に重要という安全保障上の理由か、グリーンランドに眠る豊かな資源を求めた理由のいずれかでしょう。

確かに、グリーンランド、アイスランド、イギリスの間(GIUKギャップ)は狭いので、第二次世界大戦中ドイツ海軍が大西洋へ出ないように、また冷戦時代には、ソ連海軍が同様に大西洋へ出ないように、イギリスやアメリカが重視していた地域です。いわゆる地政学上のチョークポイントと言われます。そのため、今度はロシア艦隊が大西洋へ出ないように、アメリカが重視すべき地だと、トランプ大統領が考えたのではないか、という説も成り立たなくはありません。(安全保障関係者ですと、グリーンランドといえば、この話を連想するでしょう。)

しかし、その観点でいけば、所有するとしたら、ヨーロッパよりもカナダに近いグリーンランドよりも、ヨーロッパの一部であるアイスランドの方がよほど近く、かつ人口も高いです。(アイスランドは約37万人、対してグリーンランドは約6万人)軍事基地を置く場合、後方支援の観点からは、人口が多い方が望ましいです。

また、グリーンランドを所有するデンマーク政府内の地質学調査機関サイトにある地図(https://www.greenmin.gl/wp-content/uploads/2024/01/Postcard-Greenland-Geology-and-selected-mineral-occurrences.pdf*)を見れば、グリーンランドの沿岸は、ほぼ全域に金、銀、鉄、石炭、ダイヤモンド、レアアース等、何かしらの資源が眠っている、資源の宝島そのものです。

開発されているのは沿岸地域のみですが、恐らく氷雪が大きな阻害要因でしょう。さらなる温暖化でこの障害が縮小していくか、さらなる資本を投下すれば、内地にもさらなる天然資源が眠っている可能性はあるでしょう。今や貴重な未開地であり、元不動産王のトランプ氏の眼からすれば、デンマーク政府は充分にグリーンランドを開発していない、アメリカが所有し、西半球最後のフロンティアとして、大いに開発していくべき地に見えるのかもしれません。

さらに穿った解説では、中国との関税戦争の中で、中国がアメリカにレアアースを売らないと言いかねないため、先にレアアースを採掘できるグリーンランドを押さえようとしているのではないか、というものまであります。**

しかし、レアアース等の地下資源開発だけであれば、別に所有する必要はありません。デンマークもアメリカの同盟国ですから、中国政府よりは優遇してくれるでしょう。加えて、レアアースだけなら、中南米やアフリカにも未開発の鉱床はたくさんあります。

そのため、トランプ大統領の真意は、上記説明にはないと考えます。

地球は球体である
地球は球体なので、例えば中国の上海港からオランダのロッテルダムへ航行する際に、緯度が低い(赤道に近い)ルートよりも、緯度が高い(南北極に近い)ところを通った方が近道になります。ですが、従来北極圏周辺の海は冬季には凍結してしまい、強行突破するには希少な砕氷船を使わなければなりません。

ところが最近の地球温暖化により、ロシアの北を航行する近道ルートが、現実性を帯びるようになってきます。実際この近道ルートを使い、ロシアのタンカーがノルウェーから韓国へ航行したところ、19日で到着したといいます。従来の赤道付近やスエズ運河を通過するルートに要する日数は49日もかかるといいますから、大幅な時間短縮になります。***

そこで、2018年頃から中国は、北極圏に強い関心を寄せています。この近道ルートを「氷上シルクロード」と呼び、砕氷船団を作り上げ、地域開発に乗り出しています。特に、そのルート途上にある、ロシア領ヤマル半島での天然ガス開発プロジェクトに、中国企業は30%の権益を持ちます。****2021年に採択された第14次五か年計画の中で、初めて北極について言及し、「氷上シルクロード」の確立を謳いました。*****

そして、ことは中国だけではありません。北極圏に位置する国々が航行ルートや漁業、地下資源開発に乗り出した結果、2013-2023年の間に北極圏を航行する船舶は37%も増加したと、北極協議会(1996年に北極圏国8か国が、持続可能な開発、環境保護の目的で設立)が報告しています。******

さて、視点をアメリカに戻してみましょう。今トランプ大統領は中国からの輸出に高関税をかけ、中国製品を国内に入れず、国内製造業にその分、それ以上補わせ、国内に雇用を増やそうと構想しています。そのために、通常アメリカ・中国間の航行ルートであるパナマ運河を通過する際に中国から輸出品積載船舶に通行料を引き上げる権限を持ちたいのでしょう。そうした観点からすれば、運河運営会社に中国企業が含まれていることなど以ての外、アメリカが自由に管理できる状態にするしかなく、所有権の主張という形になったと考えられます。

そうして中国を迎え撃とうとしているのに、中国が北極圏ルートを活用するとしたら、どうでしょう?北極圏ルートは、ヨーロッパだけとは限りません。地球は丸いので、アメリカにも行けます。すなわち、大連港からベーリング海峡を抜け、カナダ北部の島々を縫い、カナダとグリーンランドの間のデービス海峡を南下し、ニューヨーク港へ行けます。パナマ運河も通らず、しかもパナマ運河ルートよりも恐らく短期間で。

それこそが、北極協議会が2040―59年に予測している、北極圏の最適ルートです。(結構衝撃的な図なので、ぜひ見てください。左に2006-2015年の場合の図もあるので、比較すれば、いかに北極の氷が解け、それに伴い北極圏最適ルート(赤い線)が、あからさまに変化するのかが、よく分かります。)*******

言い換えれば、大きな抜け道が出来つつあるということです。トランプ大統領がパナマ運河について騒ぎ立てるほどに、中国船舶は北極圏ルートに魅力を感じるでしょう。そして、他の北東アジア諸国も同様でしょう。そうなってしまえば、トランプ大統領にとって意味がありません。

ですから、「51番目州」カナダとグリーンランドを「所有」することで、両国間のデービス海峡をアメリカの内海化し(航行の自由を否定)、パナマ運河同様、通行料を取るなりすることにより、運送コストを上げさせたいということでしょう。現在デービス海峡は、その中央部分が公海であり、航行の自由が保障されていますが、トランプ大統領のことですから、何かしら難癖を付け正当化しようとするのだろうと思われます。完全に航行の自由を奪えない場合には、少なくとも近辺の港へ寄港する際のコストを高くしようとすることが、考えられます。

(但し、航行の自由をどうアメリカが歪曲しようとするかは、日本としては要注意です。中国政府は南シナ海を内海化しようとしていますから、同様のロジックを援用され、我を通そうとされては、たまりません。)

そこまでする価値はあるのか?
こうした構想から分かるのは、トランプ大統領の、中国からの輸入を減らしたいという強い意志でしょう。しかし、そこまでしても、中国経済が打撃を受け、アメリカ経済はよくなり、トランプ大統領のコア支持者の生活は向上するのでしょうか?

2018年トランプ政権1期目の時代、中国に対し高関税をかけ、貿易戦争を仕掛けました。この時、中国は全輸出額の20.7%をアメリカに頼っていましたから、ショックは大きかったでしょう。しかし、その後継バイデン政権も、この政策を継承したこともあり、アメリカへの輸出は減少の一途であり、2022年には17.7%にまで落ち込み、その分アジア諸国へ向かっています。アメリカだけが、経済成長に欠かせない、魅力的な輸出先ではないのです。

また、トランプ大統領のコア支持者は、白人貧困層です。中国をはじめとする安い輸入品の、大きな消費者です。関税コストは価格に転嫁され、そのツケを最終的に支払うのは、まさにこうした人々です。

さらに、今後の中国の報復措置も気がかりです。必ずしも同様の措置で報復するとは、限りません。今のところ一番有効なのは、中国に進出しているアメリカ企業への狙い撃ちでしょうか。企業幹部をスパイ容疑で逮捕・拘束し、工場を査察する名目で操業妨害をする等、考えられます。こうしたことに対する、アメリカ政府側の対抗手段はありません。そうなれば、トランプ大統領の個人的ディールに頼るしかなく、ますます先が見えにくくなります。

悪しき先例とならなければいいのですが。

* Government of Greenland, “GREENLAND GEOLOGY AND SELECTED MINERAL OCCURRENCES”, Geological Survey of Denmark and Greenland website. https://www.greenmin.gl/wp-content/uploads/2024/01/Postcard-Greenland-Geology-and-selected-mineral-occurrences.pdf (viewed on January 10, 2025.)
** “Trump wants to buy Greenland again. Here’s why he’s so interested in the world’s largest island”, CNN, January 7, 2025.
https://edition.cnn.com/2025/01/07/climate/trump-greenland-climate/index.html
*** “China reveals Arctic ambitions with plan for ‘Polar Silk Road’, January 27, 2018, Financial Times. https://www.ft.com/content/c7bd5258-0293-11e8-9650-9c0ad2d7c5b5
**** Erdem Lamazhapov, Iselin Stensdal and Gørild Heggelund, “China’s Polar Silk Road: Long Game or Failed Strategy?”, November 14, 2023, The Arctic Institute website:
https://www.thearcticinstitute.org/china-polar-silk-road-long-game-failed-strategy/
***** Trym Eiterjord, “What the 14th Five-Year Plan says about China’s Arctic Interests”, November 23, 2023, The Arctic Institute website:
https://www.thearcticinstitute.org/14th-five-year-plan-chinas-arctic-interests/
****** “Arctic Shipping Update: 37% Increase in Ships in the Arctic Over 10 Years”, January 31, 2024, Arctic Council website:
https://arctic-council.org/news/increase-in-arctic-shipping/
******* Arctic Monitoring & Assessment Programme, Arctic Council website:
https://www.amap.no/documents/doc/figure-9.5-map-of-optimal-arctic-september-shipping-routes-from-the-pacific-to-the-atlantic-a-20062015-modeled-and-b-20402059-projected-reproduced-from-smith-and-stephenson-2013-with-permission.-the-red-lines-indicate-the-fastest-available-trans-arctic-routes-for-polar-class-6-pc6-ships-i.e.-with-medium-ice-strengthening-of-the-hull-and-the-blue-lines-indicate-the-fastest-transits-for-common-open-water-ow-ships-no-ice-strengthening-of-the-hull.-where-navigation-routes-overlap-or-coincide-the-line-widths-indicate-the-number-of-successful-transits-along-that-route.-the-dashed-lines-represent-the-limits-of-the-exclusive-economic-zones-eezs/3818


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東京IPO特別コラム:「2024年選挙イヤーを振り返る」

2024年は、色々な国々で大きな選挙が行われた、いわゆる選挙イヤーでした。そこで、2024年を締めくくるに当たり、日米仏独の選挙を振り返ってみましょう。

慢性的問題への無策、ナショナリズムの高揚、支配層の党利行動
これらの国々の選挙のキーワードは何かと問われれば、上記3点になるでしょうか。日本では、「政治とカネ」問題でほとんど何もしていないと国民の眼は冷ややかな中、石破首相は、他党の準備不足のタイミングを狙った抜き打ち総選挙が行われました。そして、案の定、自民党が惨敗し、自公連立でも過半数に届かない、不安定な政権運営を自ら求めてしまった結果となりました。

アメリカでは、庶民の味方を自認していたはずの民主党が、マクロ経済が良いことに、メインテーマとして性差別の撤廃を訴えました。しかし、庶民にすれば好景気は全く感じられず、民意を読み違え、惨敗しました。

フランスでは、EUからの指示で財政再建を重視するよう言われ(従わないと制裁される)、経済が良くない状況下、政府支出縮小方針を言えば、マクロン大統領率いる与党は当然不人気となり、庶民の生活支援拡大策を求める野党が議会内で幅を利かせ、苦しい政権運営にあるところを、総選挙に現状打開を夢見ました。案の定、一次選挙では惨敗、二次選挙でいわゆる「極右」政党(国民連合)に政権を取らせていいのか?という国民の思慮分別があり、与党は第2党にこぎつけ、「極右」政党をかろうじて下しました。

ドイツでも、国民連合と同類だといわれるドイツのAfD(ドイツのための選択)に勢いがあり、2州議会選挙で第一党に躍進しました。来年2月に予定されている総選挙結果を占う上で、ショルツ政権には打撃です。

要するに、経済が悪化し庶民の暮らしが苦しくなっているのにもかかわらず、支配層は有効な施策を打てず、党利行為に汲々とし、選挙で見放されつつある、ということです。ただ注意すべきは、支配層の行動に嫌気をさしている庶民は、耳に心地よく聞こえるナショナリズムを煽る政党に傾倒し、その政党が謳う政策が本当に理に適っているか、自分たちの生活を改善するか、冷静に判断していない、危うさがあるという点です。

甘い言葉にはご用心
まずは米欧で話題になっている移民排斥政策から見ていきましょう。なぜ移民排斥がここまで人々の関心を引くのでしょうか?根本的には、政情不安定、不景気等の理由で自国にいても明るい未来が全く見えない人々が、豊かな国(米欧)に引き付けられるからです。

しかし、相対的には米欧は豊かな国に見えても、原住民にとってはそれほど経済がよくはありません。好景気でないときに、痛みが大きく感じられるのは低賃金層です。明日も自分の仕事があるのか不安なときに、不法入国してきた外国人移民がより安い賃金に甘んじて仕事をすれば、自らの職に対する脅威に映ります。その一方で、うまく仕事にありつけなければ、移民も生活苦から犯罪に手を染めかねず、治安が悪化するリスクがあります。

また、外国人ですから、異なる文化をもたらします。社会をより豊かにする方向に向かえばいいですが、兎角言語の壁により意思の疎通が難しく、何気ない言動が誤解を招き、不和が生まれがちです。また、移民が定着すれば、住民として当然ゴミ収集から教育、医療に至るまで、様々な公共社会保障サービスを受けることになります。移民が原住民よりも多くこれらのサービスを享受すれば、一人当たり社会保障費用が増加し、その分原住民にとって増税という形で負担が増えるのではないか、という疑念も生まれます。

こうした不安を煽るように、移民がいないときの姿が正しい社会(国家)の形だと、トランプ氏や「極右」政党は主張します。一見一理あるように思えるかもしれませんが、そう単純な話ではありません。移民が来ることによるメリットも、あるからです。

過去、米欧が好景気なとき、人材不足が問題であったとき(特にヨーロッパの場合、働き手が少なかった1950~60年代)、移民を多く受け入れました。その結果、高い経済成長を遂げることが出来ました。また、移民はそのまま定住していきます。定住すれば、子供が生まれ、孫が生まれ、人数は増えていきます。すなわち、人口増に繋がります。日本に限らず米欧も高齢少子化が進んでいますから、経済規模を縮小させないという観点から、悪い話ではありません。

また、広い視野に立てば、原住民のみが社会、国家を形成する考えにしがみついていていいのか、という問いも考えてみる必要があります。いわゆる旧世界には、多くの人々が往来し、定着することにより、経済が発展した歴史があります。こうした歴史の教訓を無視し、あまりに内向き、囲い込み思考では、レジリエンス、思考の柔軟性を失います。そうした社会では、時代の変化にうまく対応できるかは、保証の限りではありません。特に大きく世界が変わろうとしているときには、なおさらです。

こうしたさまざまな要素を総合的に判断し、移民については考えていかないといけないのです。政治家が目先の政治的目的を達成するため、安易に利用していい問題では、ありません。

次に、トランプ氏が「最も美しい言葉」と表現する関税も、実は複雑です。一見関税を高くすれば、アメリカで製造業が戻り、雇用が増えると思えるかもしれません。しかし、アメリカ社会には、すでに数多くの割安な外国製品が溢れています。関税がかかれば、これらの外国製品が一斉に値上がりします。そこで、相対的に割高だった国内製品を購入するか、関税分値上がりした外国製品しか、選択肢はないわけで、庶民にはインフレにしかみえなくなります。

確かに、一部の外国企業はアメリカ市場内のシェアを確保するため、アメリカに追加投資し、雇用を増やすかもしれません。現に、ソフトバンクの孫社長が早速トランプ氏の私邸に乗り込んで、約15兆円投資(10万人の雇用創出)を約束しました。但し、「AIのデータセンターなどさまざまな関連投資を行う」*といいます。そう、アメリカにこれから投資しようということは、AIや宇宙等アメリカが世界の最先端を行っている技術系の研究開発が主流になることが予想されます。果たして、トランプ氏のコア支持者である、いわゆる白人ブルーカラー層は、どれだけ雇用されるのでしょう?

また、一方的にアメリカが関税を引き上げれば、当然これに反発し、報復関税を検討する国が出てきます。その筆頭は中国でしょう。選挙運動中トランプ氏は、関税引き上げを公言していましたから、中国政府は2024年4月には法整備を済ませ、トランプ氏が当選直後には、元人民銀副総裁が、中国は報復関税をすると、発言しています。**

但し、トランプ氏がブラフ込みで発言していることは周知の事実であり、トランプ氏に近いマスクCEOを頂くテスラ社では、上海にEV(電気自動車)工場を持ち、中国のEV市場にも大きく進出しているわけですから、実際にはどこまで関税戦争を行うのかは、正直未知数です。しかし、トランプ氏に近い産業、そうでない産業との間に、大きな明暗が生まれ、全体から見れば大幅関税引き上げは不可避であり、それに対する報復関税もまた不可避でしょう。

いずれにせよ、アメリカ製品が中国で売れにくくなることは確かであり、中国市場シェアを失うアメリカ企業は、アメリカでの工場をたたんで、中国や第三国に工場を移転してしまうかもしれません。それは、白人ブルーカラー層の解雇に繋がるリスクになります。

すなわち、トランプ氏のコア支持層は、関税を通じて中国や諸外国へ掣肘を加える、強気なトランプ氏の姿に酔っているにすぎず、果たして来年以降も同じ心持ちでいられるのか、怪しいものです。

ですが、まだ中国は世界第二位の経済大国ですから、アメリカと渡り合うことは出来ます。しかし、アメリカ市場に頼っている多くの中南米諸国、その他グローバルサウス諸国企業はどうでしょう?関税引き上げにより、アメリカ市場での競争力は下がりますから、その分他国に輸出先を求めるしかありません。日欧がある程度吸収するかもしれませんが、多くの場合中国か他のグローバルサウス諸国へ流れるでしょう。

これを見越して、中国が戦略的に輸入に応じるようになれば、ますますグローバルサウス諸国の心はアメリカを離れ、中国やBRICS経済圏に取り込まれる可能性があります。(但し、現状中国経済もよくはありませんので、中国政府の明確な意志がなければ、難しいかもしれませんが。。。)

中国にその意思がない場合、意外にグローバルサウス諸国間での貿易が増えるかもしれません。グローバルサウスと一口に言っても、その経済規模や工業化進捗もバラバラです。むしろ、最初は苦しくともそうした市場を地道に開拓していけば、未来が開けるかもしれません。そしてそうなった場合、やはりアメリカ離れは避けられません。

要するに、自分たちだけいい状況を露骨に目指そうとすれば、何かしらの形で反発を買い、人々の心は離れていくことになり、「天に唾す」結果になります。

やはり地道に経済成長促進が一番
世界レベルで見れば、米欧へ多くの移民が合法・非合法を問わず流れてくるのは、不可避でしかなく、不法移民を追い返すコストは正直不毛です。(単にトランプ氏のコア支持者の溜飲を下げるだけの効果しかありません)

むしろ、バイデン政権が長期的視野にたって行っていた以上に、近隣の中進国(アメリカであればメキシコ、ヨーロッパであればトルコ等)に積極的に投資し、不法移民候補がその地に留まるよう工夫する、というのも一案です。(トヨタは、メキシコに工場を持っていますから、このロジックでトランプ氏に説明するかもしれませんが)

そうすれば、関税引き上げよりも、もっと建設的な関係を築き、ひいてはBRICS経済圏への魅力を敵失により高めないことに繋がります。

また、そもそもファンダメンタルズを向上させるべく、老朽化した鉄道・道路網等の社会インフラの建替えによる雇用創出、先端技術から新産業を創出支援するべく、教育費・リスキリング費の補助金、あるいは税制優遇等、前々から言われながら地味すぎるか社会主義的過ぎる、あるいは即効性がないために、過小評価されがちな施策を地道に行い、次なる飛躍に向けて準備を怠らないことが肝要です。

苦しくとも、目先の政争ツールに囚われず、過度な自己中心的な社会にならないよう、また庶民に地道ではあっても堅実な成長政策について、庶民に語り、支持を得る力が、真の政治家に必要です。

*「トランプ氏が孫正義氏と会見 孫氏側が米に15兆円余の投資へ」NHK、2024年12月16日。https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241216/k10014669891000.html
**「中国で関税法が成立、「報復関税」可能に 米欧に対抗か」日本経済新聞、2024年4月26日。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM267JE0W4A420C2000000/?msockid=1651d75cd9d062873cc6c753d83a637f;

「トランプ次期米政権が60%関税賦課なら中国は報復-元人民銀副総裁」ブルームバーグ、2024年11月18日
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-11-18/SN4832T1UM0W00


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米国コロンビア大学国際関係・公共政策大学院にて修士号取得後、ビジティングリサーチ
アソシエイト、上級研究員をへて2011年1月より現職。また、2012-14年に沖縄県知事
公室地域安全政策課に招聘され、普天間飛行場移転問題、グローバル人材育成政策立案に携わる。
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東京IPO特別コラム:「アサド政権崩壊の裏で:フライングし続けるトランプ2.0外交」

アサド政権倒壊を取り巻く構図
先日シリアのアサド政権が突如崩壊し、世界を驚かせました。アサド政権を倒壊させたのは、ISカイダ上がりの反政府派であり、米欧がそれを歓迎しています。アサド政権下で、不当な拷問、拘束を受けていた人々が解放され、その喜びが大きく報じられる影で、イスラエル軍が越境し、シリア内の軍施設、特に武器弾薬類の貯蔵庫を集中攻撃しています。この意図としては、今後イスラエルに対し使われることがないようにという配慮であると報じられています。

実にややこしい話です。元々の争いの構図は、スンニ派対シーア派の戦いです。サウジアラビアとイランの反目の中で、それぞれアメリカとロシア、シリアを巻き込んでいったのですが、2010年代にISカイダがシリア内にイスラム国(IS)を「建国」すると、トランプ1期目政権下でアメリカがISへ派兵し、国を持たない現地クルド人を鼓舞し、ISと共闘させようとしました。

なお、イラク戦争時にも、全く同じように現地クルド人を使って戦わせた挙句、「トルコとの関係を考慮し、」クルド人のための国を作らないで終わる構図は、全く一緒です。トルコ国内にもクルド人が少数民族として存在し、自治を求めているところに、近隣でクルド国が生まれてしまうと、自治を越えて独立を求める声が大きくなってしまうので、避けたい事態なのです。トルコがそういう横槍を入れることを知った上で、アメリカがクルド人に協力を依頼するのですから、悪質です。

さて、トランプ政権の派兵の成果もあり、ISカイダは大方掃討されましたが、今度は彼等を使ってトルコ軍と共にアサド政権を倒壊させたわけです。一方、サウジアラビアはイランと和解したため、いつの間にか上記の構図からフェードアウトし、残る構図は、アメリカ、イスラエル、トルコ、元ISカイダ対ロシア、イラン、シリアとなったわけです。

ここにイスラエルが加わり、イランがフェードアウトしないのは、シリアをイスラエル攻撃の拠点とし、ヒズボラ、ハマスという武装集団への支援物資を送る上での重要な後方支援拠点だからです。

ですので、アサド政権の崩壊は、ロシア、イラン側の敗北であり、ロシアはウクライナ戦争、イランは経済制裁による国力低下のため、アサド大統領を見捨てたという解説が出回っています。肝心のシリア軍は、アサド政権への忠誠心が低く、大した抵抗もなく終わったというのです。

トランプのフライング外交
では、トランプ次期大統領は、アサド政権崩壊に対しどのような反応を示したのでしょうか?一言でいえば、シリアには興味なし、です。*バイデン大統領はシリアの治安維持のため、在シリア米軍約1000名をそのまま駐留させるとしています。しかし、来年1月トランプ政権になったら、シリアから撤退させたいということです。

その理由は、前回お話しました通り、中東に資源もカネも投下し続けることは必要最低限に減らし、アメリカ再建(MAGA政策)に集中したいからです。既に、イスラエルはレバノンにあるヒズボラ(イランの配下にある武装手段)の戦力をほぼ破壊し、残るはシリアのイラン関連施設です。これらを破壊してしまえば、イランの息のかかった武装集団からの被害はほぼなくなります。後はサウジアラビアとの国交樹立の仲介をすれば、イスラエルはかなり安泰です。

しかし、イランがヒズボラに代わる武装集団を組織されてはたまりません。そのための手段として、トランプ次期大統領とロシアとの政治取引が透けて見えます。今回のアサド大統領が大した抵抗もなく、亡命に同意した背景には、ロシアによる説得があると言います。**ロシアが本気であれば、シリアにある約7000名のロシア軍を動員し、激しい戦闘があってもおかしくはありませんでした。現にそうやって、今までアサド政権は存続していましたから。

それをロシアが敢えてせず、さらにイランに動かないよう説得したのには、理由があるはずです。確かに、ウクライナ戦争であまり資源を割けないという事情もあるでしょう。シリア内のロシア軍基地は確保できるという自信もあるでしょう。(さすがに、元ISカイダも、核保有国のロシアと正面切って戦えません。)

しかしそれ以上に、ロシア内ではサウジアラビアの意向をイラン・シリアよりも重視したということでしょう。ロシアとしては、化石燃料輸出に依存し、原油価格を高止まりのままにしたいでしょうから、何としてもサウジアラビアと協調したいはずです。

一方、サウジアラビアは、脱石油輸出依存経済の脱却を目指していますから、イスラエルのハイテク技術は魅力的ですし、脱却した経済には地域安定が不可欠ですから、今までのアメリカの仲介による国交樹立交渉には乗り気です。サウジアラビアもイランと和解したとはいえ、そのイランが持つ、イスラエルの安全保障を脅かすツールは潰してほしいと考えます。

よって、いくらイランのパトロン的存在であったとしても、ロシアはサウジアラビアの意向を優先したものと考えられます。

イランは反撃できないほど弱体化したのか?
長年の経済制裁により、イランが弱体化したのは確かでしょう。しかし、イランにはもう一つ大きな不安要素があります。

宗教指導者・ハメイニ師(85歳)の病状です。数年前から噂されていましたが、最近では死の床にあるのではないかという報道もあります。***本当だとすれば、大事になる可能性があります。

イラン革命からこのかた、宗教指導者が代替わりしたのは、初代ホメイニ師の死去に伴うハメイニ師の就任だけです。ホメイニ師はイラン革命を起こした人物ですから、ハメイニ師が宗教界での地位が高くなくとも、ホメイニ師が後継者として指名した以上、国民には納得感があります。

しかし、今回ハメイニ師の後継者として最有力候補が、ハメイニ師の二男と言われています。本来世襲制ではないところに、子孫を後継者に据えようとすると、疑問の声は止めにくいです。北朝鮮の金日成主席でさえ、息子を後継者に据える際には、「金日成主義は共産主義を超えた」と意味不明ではありつつも、金日成死去の何年も前から繰り返し唱え、国民に息子を後継者にするという流れを定着させていっています。初代カリスマリーダーが息子を後継者指名したのならまだしも、カリスマリーダーでもない指導者が、死の床に就くころになって息子に譲ると言うようでは、遅いのです。

そのため、ハメイニ師の死を契機に、宗教指導者の権限を縮小し、世俗政治色を強くするべく議論が今後出てくるかもしれません。何せ、宗教指導者のせいで、「革命の輸出」を試み、結果周囲のスンニ派政府を敵に回し、イラン・イラク戦争が起き、長年の経済制裁に苦しんでいます。イラン国民が宗教指導者に対しいい感情を持っているとは考えにくいです。

ハメイニ師の死去後を予測するのは難しいですが、イランの反応が鈍いということの裏には、こうした微妙な国内要因がある可能性があります。

それでもイランには核武装という選択肢がある
とはいえ、イランは押されっぱなしか、といえばそうでもありません。ロシアが100%頼りにならない以上、自力で身を守る手段として核武装があります。イスラエルは容赦なく、ヒズボラやハマス、さらにはイラン革命軍高官にさえ攻撃、暗殺を厭わないのです。イスラエル本土が安泰となれば、イラン本土へ攻撃の矛先を向けるかもしれません。

このように考えれば、イランの核武装はロジカルな選択肢なのです。アメリカのシンクタンクの見積もりでは既に核兵器になり得るだけのウラン濃縮に成功しており、製造する気になればできるだけの技術や能力を持つと見られています。****

しかし、イランが核武装すれば、サウジアラビアは核武装せざるを得ない、と昨年サウジアラビア皇太子はアメリカのメディアに対し明言しています。*****

そのため、トランプ次期大統領は、イランの非核武装、間接的なイスラエル攻撃停止が、アメリカの経済制裁解除、あるいは緩和の条件であろうと、推測できます。とはいえ、タイミング次第では、イランが同意できるか、予断を許しません。

* Daniel R. DePetris, “Trump says the U.S. ‘should have nothing to do with’ Syria. He’s right.”, MSNBC website, December 12, 2024.
https://www.msnbc.com/opinion/msnbc-opinion/trump-syria-troops-assad-biden-rcna183781
** “‘A blow to Putin’s prestige’: What al-Assad’s fall means for Russia”, Al Jazeera, December 10, 2024.
https://www.aljazeera.com/news/2024/12/10/a-blow-to-putins-prestige-what-al-assads-fall-means-for-russia
*** “Iran’s Supreme Leader Khamanei suffers from terminal illness, report suggests”, Turkiye Today, October 27, 2024.
https://www.turkiyetoday.com/region/irans-supreme-leader-khamanei-suffers-from-terminal-illness-report-suggests-70905/
**** Jonathan Masters and Will Merrow, “What Are Iran’s Nuclear and Missile Capabilities?”, Council of Foreign Affairs website, November 26, 2024.
https://www.cfr.org/article/what-are-irans-nuclear-and-missile-capabilities
***** “Zach Kessel, “MBS Confirms: Iran Is the Key to Preventing a Nuclear-Armed Middle East”, National Review website, September 22, 2023.
https://www.nationalreview.com/corner/mbs-confirms-iran-is-the-key-to-preventing-a-nuclear-armed-middle-east/


吉川 由紀枝                     ライシャワーセンター アジャンクトフェロー

慶応義塾大学商学部卒業。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)東京事務所
にて通信・放送業界の顧客管理、請求管理等に関するコンサルティングに従事。2005年
米国コロンビア大学国際関係・公共政策大学院にて修士号取得後、ビジティングリサーチ
アソシエイト、上級研究員をへて2011年1月より現職。また、2012-14年に沖縄県知事
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東京IPO特別コラム:「フライングするトランプ2.0外交:どこまで世界平和を実現できるか?」

トランプ氏が今年の大統領選を制したことにより、大統領選中から静かに始めてられていたトランプ2.0外交の様子が少しずつ見えてきています。大統領就任初日にウクライナ戦争を終結させる等とうそぶき、いつものほら吹きと騙されがちですが、意外に本気で戦争止める気でいるようです。

MAGAのためには戦争させない
そもそも、アメリカの衰退を招いたものは何でしょう?理由は様々ありますが、直接的には過去の歴代政権が起こした戦争たちです。そして、現状アメリカの相当な軍事支援あるいは軍事介入を求められるのは、イスラエルとウクライナです。いずれも、いくらカネをつぎ込んでも終わりのない、「金喰い虫」です。この流出を止めないと、トランプ氏が掲げるアメリカ再興(MAGA)政策への資金がなくなります。

では、この流出をどう止めればいいでしょう?いきなり止めれば、バイデン政権のアフガン撤退のように、大きな汚点として非難の集中砲火を浴びます。しかし、止めなければ、MAGAのスタートラインにさえ立てないかもしれません。

トランプ氏の出した答えが、いかにも本人好みの、ロシアとの「ビッグ・ディール」です。

ロシアとのビッグ・ディール
そもそもなぜロシアは、ウクライナに侵攻したのでしょう?直接的にはウクライナ国内のロシア民族への弾圧ですが、その根底にはウクライナはロシアの裏庭であり、その地が親欧米政権となり、さらにはNATO加盟国となり、ロシアの喉元にロシアを標的とするNATOの核兵器が配備されるような事態は、絶対に避けねばならないという危機意識があります。

ここに、アメリカがロシアに対して切れる政治カードがあります。すなわち、アメリカがウクライナをNATOに加盟させない、(トランプ氏の想いとしては)軍事支援しない、と約束することです。そうなれば、ロシアにはウクライナと戦争する理由がなくなりますし、ウクライナ側は米欧の武器で戦っているわけですから、軍事支援を止められたら、自力では何もできず、停戦か終戦に応じるより他ありません。

では、対してアメリカはロシアに何を求めたいでしょう?それは、イランに対しイスラエルを攻撃しないよう、その影響力を行使し、実際監視・阻止することです。アメリカが中東に残した力の空白を、ロシアが埋めたわけで、イスラエルの北部にあるシリアに、ロシアはフメイミム空軍基地、ジラー空軍基地、タルトゥース海軍拠点を持っています。*ここからなら、イスラエルを攻撃しようとするヒズボラやハマス等、イランの影響下にある武装集団の行動を監視・阻止できます。

これまでレバノンの政情不安定をいいことに、ヒズボラがレバノンやシリアをイスラエル攻撃拠点として活用していましたので、イスラエル軍は隣国レバノンへ越境し、攻撃していましたが、この泥沼戦争から撤退できます。また、この撤退は、パレスチナ国家用地を併合した以上の領土的野心を、イスラエルが持たないことを示しますから、イスラエル周辺国からの信用回復の第一歩となり得ます。

イスラエルがパレスチナ人をほぼエジプト、あるいはヨルダンへ暴力的に「強制国外追放」する形でパレスチナ問題を「解決」した今、ロシアがイスラエルに対し、実質上その身の安全を保障するなら、イスラエルへの明確な脅威は、大幅に低下します。よって、アメリカはイスラエルへの軍事支援を削減できます。

恐らくここまでが、米大統領就任初日までの第一段階でしょう。

仕上げはイスラエルとアラブ界の和解
次に、イスラエルの周辺国の対応です。まだ、イスラエルは周辺大国、サウジアラビアやイランと国交樹立しておらず、今一歩踏み込んで、持続可能な平和な状態に持っていく必要があります。

パレスチナ問題を強引に「解決」した今、サウジアラビアを始めとするアラブ界がイスラエルと国交樹立する上での、最大の阻害要因は「消滅」しました。よって、トランプ政権1期目で電撃発表した「アブラハム合意」(サウジアラビアに外交権を握られているアラブ首長国連邦とイスラエルの国交樹立)の延長線上で、サウジアラビアとイスラエルを国交樹立させるよう、努力するでしょう。内心サウジアラビアはイスラエルの持つ先進技術は欲しいですし、イスラエルにとってもサウジアラビアの持つオイルマネーは魅力的です。Win-Winの関係になるはずだと、互いに考えているでしょう。

また、サウジアラビアに関しても、イランの影響下にあるフーシ派がイエメンを拠点に紅海を往来する親米欧船籍や、サウジアラビアの石油施設を攻撃することもあり、その手当も必要です。加えて、ロシアがイランへの影響力を行使するとはいえ、ロシアが手心を加える(ロシアとしても、イランカードを対アメリカやイスラエル用に温存したいはず)、またはイランが従わない場合もあり得ます。

そこで、アメリカが経済制裁を解除する代わりに、イランがフーシ派へサウジアラビアやその石油施設を攻撃しないよう、政治取引をすることで、サウジアラビアとイランの関係が改善できます。イランは既に、これまでの経済制裁に苦しみ、その国民は経済制裁解除に向け米欧と対話したいと訴えたペゼシュキアン氏を、大統領に選びました。まともに対イスラエル、対アメリカと一戦交える体力はないでしょうし、大国ロシアによる仲介という形なら、振り上げたイスラエル攻撃の拳を、体面を傷つけずに降ろせるでしょう。慎重に動くでしょうが、サウジアラビアとイランの関係が深化していけば、イスラエルとイランとの国交回復の道は開けます。

これが、トランプ氏が描いた最終段階(あるいは理想図)です。ここまでできれば、トランプ2期政権は、安心してMAGA政策に専念できますし、この和平を構想・実現させた第一の功労者として、サウジアラビア等中東大国の離れゆく心を再びアメリカの方へある程度引き戻せるかもしれません。

そして、トランプ氏がこの構想を内密にイスラエルに提示し、これができるのは自分しかいないと、説得したのでしょう。対して、イスラエルがこれに合意し、トランプ当選に向け、その強力なユダヤロビーをフル回転させたのでしょう。(民主党候補の交代劇も、もしかしたら、その一環かもしれません。。。)その「報償人事」ということでしょう、次期国務長官、国防長官、国家安全保障担当大統領補佐官、駐イスラエル大使、国連大使職に異例のスピードで、イスラエルへの熱烈な忠誠心を持つ人々(あるいは、ユダヤロビーから指導された以上に親イスラエルをアピールする人々)を指名しています。**財務長官が決まる前に、駐イスラエル大使が決まる等、当選早々このような順番で人事指名は、あり得ません。

さて、最終段階まで実現可能でしょうか?恐らく、第一段階が実現可能となるまでに、裏で相当話が詰められていると考えられます。なればこそ、バイデン政権は、来年1月までの余命短い間にこの構想を壊したいのでしょう。バイデン政権は、ウクライナに対し米国製長距離ミサイルATACMSをロシア領内で使用することを許可しました。***また、イスラエルのネタニヤフ首相に対し、国際刑事裁判所は逮捕状を発行しました。****露骨にアメリカ大統領選に介入した報復でしょうか。

トランプ和平構想のメリット
では、トランプ和平構想のメリットは、何でしょうか。何より、この構想が実現し、トランプ2期政権が新たな熱戦を起こさない場合、世界は大分平和になります。

また、日本にとり付随的なメリットがあります。それは、露朝関係が変化するということです。現在はウクライナ戦争により、ロシアは北朝鮮から武器を購入し、兵士をレンタルしています。その見返りとして、エネルギーの他、軍事技術や外貨が北朝鮮に流れます。しかし、戦争が終わってしまえば、ロシアには北朝鮮と積極的に関与する理由がなくなり、北朝鮮兵士は帰国することになります。これは、北朝鮮軍が最新の戦争を体験する期間が短くなることを意味するので、朗報です。一般的に、軍は一つ前に経験した戦争を基に次の戦争計画を練ります。自衛隊はどうしても太平洋戦争の呪縛から抜けられないでしょうが、北朝鮮軍がウクライナ戦争を念頭に次の戦争を計画するとなると、戦争計画に定性的な差が生まれます。

近年ロシアの後ろ盾をあてにして、北朝鮮は韓国を敵対国として見なし、さらなる先端兵器開発に邁進していますが、その資金が先細らざるを得なくなりますし、場合によっては韓国の敵視を緩和せざるを得ない可能性もあります。

トランプ和平構想のデメリット
逆にデメリットは何でしょう?イスラエルが約100万人いると言われたガザのパレスチナ人に対し殺戮を繰り返した挙句、エジプト国境をこじ開け、追放しました。エジプトの国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)では、60万人の難民がいるといいます。*****こうした難民は定着する可能性が高いですから、いずれエジプトの民となり、反イスラエル勢力になるでしょう。彼らが過激化するかは未知数ですが、直接的にはエジプト政治への影響が懸念されます。(エジプト政府がうまく彼らを地元社会に取り込めるかが、カギとなります)

一方、長期的な視点に立つと、最大の未知数は、この和平が中東諸国の結束を促すことにより、どのような性質の地域になるかでしょう。今までサウジアラビアとイランの反目を悪用し、米欧ロがいいように中東諸国を扱ってきました。しかし、産油国のオイルマネーとハイテクと高人口/市場(イラン・トルコ・エジプト・イスラエルはそれぞれ1億人程度。ここにインドも入る?)の組み合わせは、中ロ米欧とは別個の「極」にもなり得ます。そうなると、また米欧式、中ロ式とは異なる角度から、新しい価値観や社会秩序の提案し、米欧、中ロと反目するかもしれません。

ここは、一つ思案のしどころです。

* “Assad welcomes new Russian bases in Syria after Putin meeting”, Al Jazeera, 16 Mar 2023.
https://www.aljazeera.com/news/2023/3/16/assad-will-welcome-new-russian-military-bases-in-syria
** “What have Trump administration nominees said about Israel and its wars?”, Al Jazeera, 17 Nov 2024.
https://www.aljazeera.com/news/2024/11/17/what-have-trump-administration-nominees-said-about-israel-and-its-wars
*** 「バイデン米大統領、ウクライナにロシア領での長距離兵器の使用を許可」CNN、2024年11月18日。https://www.cnn.co.jp/usa/35226220.html
**** 「国際刑事裁判所、イスラエルのネタニヤフ首相らに逮捕状を発行」Bloomberg、2024年11月21日。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-11-21/SNAVJUDWLU6800
***** Nourhan Hefzy, “Egypt’s Refugee Situation: Economic Gain or Drain?”, Carnegie Endowment website, August 6, 2024.
https://carnegieendowment.org/sada/2024/07/egypts-refugee-situation-economic-gain-or-drain?lang=en4-11-21/SNAVJUDWLU6800

その他参考文献
“What’s Donald Trump’s plan to ‘end’ Russia’s war on Ukraine?”, Al Jazeera, September 17, 2024.
https://www.aljazeera.com/news/2024/9/17/whats-donald-trumps-plan-to-end-russias-war-on-ukraine
“At War in Ukraine, Putin Emerges as Potential Peace Broker in Middle East”, Newsweek, October 31, 2024.
https://www.newsweek.com/war-ukraine-putin-emerges-potential-peace-broker-middle-east-1977721


吉川 由紀枝                     ライシャワーセンター アジャンクトフェロー

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